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七つ祠のものがたり(仮)第1話|長編小説 連載

夜中に目が覚めるとじいちゃんがいなかった。
こんなに大きくなったのにと自分でも思うけど、それでも古くて暗い天井の高い昔ながらの茅葺屋根の家では、あちこちから音がするし、獣の鳴き声が響き渡る。

だから今でもじいちゃんと一緒の部屋で寝るし、これからもそう。

怖い。

そう気づいてしまうと、心がそちらへ向かってしまうと、いままで平気だった窓の外のぼんやり光るお月様だって怖くなる。

「お前は口ばっがりが達者で。」

じいちゃんはいつもそういいながら、ちょこっとだけ布団を寄せてくれる。

じいちゃんがいないこの古い家で一人も怖いけれど、一人で外へ出る勇気もない。そうやってぶるぶると震えているうちに深い眠りに落ちていった。

「起きれえ。」

じいちゃんの優しいだみ声が遠くから響く。
昨日のことがうそのようにすっきり晴れ渡る朝の条条屋敷じょうじょうやしきはずっとまえからこうでしたと言わんばかりの面持ちで、私を朝の世界に連れてゆく。

夜はすっかり闇に捕まる、条条屋敷じょうじょうやしきは、朝見るとまったく印象が違う。
屋敷なんてたいそうな名前で呼ばれているが、玄関を入ってすぐに土間があり、中央に囲炉裏のある居間、中央の居間を囲うように、6つの部屋があるだけの簡素な造りだ。

1つ1つの部屋はたいして広くないので、つなげて1つにしてしまえばいいとおもうのだが、家の中にあちこち大きな柱があるようで部屋をくっつけることはできないらしい。

しかたなく、じいちゃんとわたしは、北側中央にある何時の部屋いつのへやを寝室にして、東にある篠の部屋しののへや巳の部屋みのへやを私の私室にして、西側にある無の部屋むのへやと、壱の部屋いちのへやを、じいちゃんの部屋にしていた。

何時の部屋いつのへやの反対側にある、新の部屋にいのへやは、土間から居間へ続く廊下のようにして使っている。

立派な武家屋敷がいくつも立ち並ぶ、古くからある村の中では条条屋敷じょうじょうやしきなんて小さなものだった。

しいが住む七屋の村は、美しい細工箱や、舞の面を作る事を生業としていて、それに付随して舞を踊る祭りも名物だ。

遠くからその舞を見に人々が訪れる。

村では男女ともに、7つになると舞の練習を始める。
数年は全員で舞うが、しばらくすると村長より選別されて特に美しく舞う数名だけが残されることとなる。
舍払いえばらい”と呼ばれる選別は、そのまま村の中のヒエラルキーにもつながっていた。
しいは10歳で舍払いえばらいとなり、それ以来舞を踊ることはなくなった。

こんな辺鄙な村なのに子どもの数だけはやたらと多い。

村に住む子どもで兄弟がいないのは甚次郎じんじろうの孫しいと村長の子、志岐しきだけだった。

人とちがうということがちょっとづつ重なると、輪には入れなくなる。

志岐しきはでかい。
さらに村長の娘である。
仲間外れにされることもなく、しかし馴染むこともなく、村の子どもたちの中心で浮いていた。

しいは、輪の外のもっと端のほう。
甚次郎じんじろうはもっとひどい。

輪を無視して村人の間を駆けずりまわるのでしいも手に負えない。ただ村で唯一の鍛冶屋なので、甚次郎じんじろうの機嫌を損ねると困ったことになると、皆しぶしぶ話を聞くのだ。

しいももちろん鍛冶屋を継ぐつもりで、学校の勉強や、村の者と仲良くすることなどには興味がなかった。

ずけずけ生きていける仕事がここにはある。
ただ甚次郎じんじろうとずっと今の生活が続けばいい。
そう思っていた、あの時までは。

……

その日もまた夜に目が覚めた。
今日もじいちゃんがいない。

頭が痛む。そうか、この痛みで目が覚めたんだ。

「じいちゃん……。」怖い気持ちを押し殺しながら、じいちゃんを探すが、居間にもいない。

「じいちゃん!」狭い家だ。中央の居間で叫べば全ての部屋に声が届く。

よく見ると、玄関があいている。

そとへ出るなんて怖すぎる。物語の主人公じゃあるまいし。こんな夜中に一人で、じいちゃんを探しに外へ行くなんて正気の沙汰じゃない。

しかし玄関のあいた家で一人じいちゃんを待つのも怖い。怖すぎる。

待つか、出るか。

「ガフッ!」家の中で大きな音がなった。
驚いたしいは裸足のまま一気に外へ飛び出した。

じいちゃん、じいちゃん、じいちゃん!

闇雲に走っていると森の奥の祠が赤紫に光っているのがみえる。
人影がみえた。甚次郎じんじろうのようだ。

村のはずれにある森の祠は、祭りの舞の練習場所としても使われる場所で、村の子ども達は小さなころからここへ通っている。
舞を奉納する大人たちも集まる神聖な場所として、いつもきれいに清められていた。
その祠が激しい光の渦につつまれ、辺りは熱気に包まれている。

「じいちゃん、この祠どうしちゃったの?じいちゃんはそんなに近づいて熱くないの?」

しい。なにか見えるのか?おれにはさっぱりわからない。」

「じいちゃん!すごいよ!祠から熱い光のようなものがでているの。」

ほのかに暖かい光の渦は、しいが来るのを知ってかのように、体の周りを踊り狂い、徐々に体全体を包み込んでいく。

「じいちゃん!痛い。頭が痛い!これはなんなの?」

しいここから離れろ!今すぐ家に向かって走るんだ!」
甚次郎じんじろうに腕を掴まれながら、徐々に意識を失っていった。


1場:物語の始まり 完

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【あとがき】


今回から長編小説がスタート!
第1回目は『第1幕:問題提起1場:物語の始まり/2100文字』でした。

元にしたプロットはこんな感じ。

1場:物語の始まり
・村の神社に異変がおきる
・血を流す?水があふれる?
・主人公にしかわからない、見えない
→・じいちゃんと二人暮らし
→・村はずれに住んでおり、村人とは折り合いが悪い(じいちゃんが偏屈なせいだと思っている)

ちょっと余計な説明が多い気がするけど、そうゆうのは後でどんどん削るとして、2100文字書いたってことが大切!

作品タイトルも主人公や脇役の名前も適当に決めちゃったから、後で考えてみて直す事も視野にいれよう。

しかし主人公がかなり幼いな。大丈夫かな?
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2024/4/21 追記 一人称の書き方だと幼い印象になるので、三人称も入れてるよう書き換えてみた。

メモ:いえ→自分の身内の謙称。
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次回は……

七つ祠のものがたり(仮)|長編小説 連載『第1幕:問題提起2場:主人公が目的を持つ/2100文字』

です!



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