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「日本のQAnonとトランプ支持」新興宗教、右翼、沖縄

2021/02/24 最新更新2022/10/15

QAnon

 QAnon(Qアノン)、それは米国🇺🇸発祥の陰謀論。2017年10月28日に米国の匿名掲示板4chanelで初めて「Qクリアランスの愛国者」こと謎の人物Qの書き込みが確認されて以来、全米を巻き込み、はては世界に拡がり、そして2021年1月6日の米連邦議会襲撃事件によって永遠に歴史に刻まれた2010-20年代のニューウェーブである。カナダの過激派研究者であるマーク-アンドレ・アルジェンティーノ氏は、QAnonを現代の「超現実宗教」(HYPER-REAL RELIGION)と分類する。

 QAnonは、善と悪の力の間の明確な二元論で「世界を説明する」。聖典としてのQdrops(Qの掲示版での投稿)の研究と分析、そしてQの神秘。これらが、宗教としての要因だ。

日本のトランプ応援デモと宗教

 奇妙なことというべきか、当然というべきか、日本のQAnon活動では顕著に日本で活動する新興宗教の関与・主催が目立っている。

 日本のカルト宗教スペシャリストであるジャーナリスト藤倉善郎氏による日本におけるトランプ応援デモの記事は詳細に主催団体や参加個人の所属について書かれている。

 昨年11月末から突然日本に現れ2021年1月まで頻発したトランプ応援デモでは、藤倉氏の分類によると統一教会分派(サンクチュアリ教会)、幸福の科学、法輪功、新中国連邦この四つの団体が主な主催者として目立つという。毎日新聞朝日新聞の記事でも同様の分析が見られた。

 また、この日本の熱烈なトランプ応援とQAnonの拡大には海外からの注目度も高い。

 リクエストが多いのか、藤倉善郎氏も海外の研究者にも分かりやすいように、英語バージョンの参加団体表を出している。

 さらに、デモだけではない。ツイッターにおけるトランプ支持者にも宗教の影響がある。

日本のトランプ応援インフルエンサーと宗教

 日本語話者のツイッターアカウントが、世界でも顕著にトランプ応援ツイートをし、特に2020年米大統領選挙における「不正選挙」に関するツイートで異常ともいえる規模の日本語話者アカウントの活動があったことは、2021年1月22日に発表されたコーネル・テック大学社会技術研究所の記事で明らかにされ多くの人が驚いた。

 この記事によると、昨年10月23日から12月16日までのTwitterでの不正選挙の申し立てツイートのデータから抽出した結果、主要なクラスターが不正選挙ツイートの大部分を引き起こしたことを発見した。そして、英語圏の次に最も多くのインフルエンサーを輩出したのが、なんと日本語話者アカウントの一群だった。

 ここに載った膨大な日本語話者アカウントの中で、宗教との関係が明らかな二人の人物がいる。

@ganaha_masako 我那覇真子
@naoyafujiwara 藤原直哉

 上記の両氏だ。我那覇真子氏は、昨年秋から今年にかけて統一教会の米国分派であるサンクチュアリ教会の招聘で米国に長期滞在取材を行っていると言われており、1月6日の米連邦議会集撃の際はワシントンD.C.で現地取材をしている。そしてその様子は法輪功のメディアで日本に配信されている。藤原直哉氏は、大本という神道系新宗教の関係者である。

 藤原直哉氏に関しては、不正選挙インフルエンサーの他にも積極的なトランプ支持者でQAnonの偽情報の情報源でもあった極右ブログ「ゲラー・リポート」パメラ・ゲラー氏(現在はアカウント停止)のツイートを世界で一番拡散している人物としてデータに出ている。

 ちなみに、日本語話者のツイッターアカウントは、ゲラーリポートだけではなく、QAnon信者が頻繁に引用する偽情報サイト「Gateway Pundit」のツイッターアカウント(現在アカウント停止)、大手のSNSプラットフォームを追放されたQAnonや極右の避難先SNSであるGab、さらにはQの投稿を解釈したもののプールであるQMapへのリンクリツイートに関しても突出して多いというデータが出ている。

(上記@conspirator0 氏のツイートスレッドにGab、QMapのデータも記載)

藤原直哉@naoyafujiwara

 藤原直哉氏は、非常に興味深い人である。彼のツイートを眺めていると、ほぼ毎日精力的にトランプファンの好むニュースや偽情報を淡々と大量にリツイートしている。彼は一体何者なのだろうか?

 QAnon日本支部と書かれている上記のサイトで、藤原直哉氏について紹介がされている。

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 藤原直哉氏とQAnonについてツイッターで調べてみるとこのようなツイートが見つかった。

 藤原直哉氏と神道系新宗教、大本についての関係はこちらでご本人から詳しく説明されている。

 大本の教祖である出口王仁三郎氏に関すると思われるこの「出口王仁三郎ミュージアム」というサイトでは、2010年8月に行われた藤原直哉氏へのインタビューが記載されている。そこで藤原氏は20-30代にアメリカの金融機関で働き、1990年代のバブル経済崩壊をきっかけに大本と出口王仁三郎氏の教えに邂逅したと語る。このインタビューを読む限り彼は大本の信者のようだ。

 藤原直哉氏に関しては、

・2010年に大本の教えを信奉しているとインタビューで話している

・QAnon日本支部というサイトで名前が紹介されている

・ツイッターでトランプ派米極右の情報を積極的に流し世界でも有数のインフルエンサーとなっている

これらの事実がわかっている。

大本と生長の家

 大本は明治31年(1898年)に始まった日本の神道系新宗教だ。出口なおという女性とその娘婿である出口王仁三郎氏が共同で教団を作り、なお氏の死後は王仁三郎氏が教祖となった。京都府綾部市を発祥の地とするが、勢力が拡大し東京にも影響を及ぼし、主に軍人や右翼活動家に好んで信仰された。政権中枢にも信仰が拡がり、また教義が神道系で当時の大日本帝国における国家神道と天皇の禁忌に触れる可能性があったために、大正と昭和にかけて二度の弾圧事件に見舞われる。戦前の「大本事件」として名高いこの出来事により、大本は今日でも多くの研究者に研究されている。

 また、第一次大本事件で大本の元幹部信者から派生した「生長の家」という新宗教が、戦後非常に勢力を持ち、自民党と緊密な関係を持ったことで有名。そして、生長の家の教祖が二代目に代替わりした後で教義の変更により自民党と距離を取った後も、当時の大学の生長の家青年会を担当していた椛島有三氏らが初代の教えへと帰る「生長の家本流運動」を起こし、のちに現在でも現職国会議員や大臣が所属する「日本会議」を作ったことでも有名である。

 生長の家本流運動では、創始者谷口雅春氏の思想の原点に戻ることを目指し、自民党への強烈な支持、反ユダヤ主義を掲げる。

 なぜ、こんな宗教史を長々書いたかというと、日本のトランプ応援運動やQAnonの活動者に、たびたび大本生長の家本流運動についての関係が出てくるからである。

 明治や大正時代発祥の神道系宗教である大本生長の家の関係者なぜトランプを支持しQAnonと関わるのか? 

 これに対する答えは、日本の明治時代のシベリア出兵を始めとする壮大な反ユダヤ主義思想の潮流が鍵となるかもしれない。実はこの日米の新興宗教は反ユダヤ主義という点で同根である可能性があるのだ。そしてまた、反ユダヤ主義は自民党を始めとする保守や極右がなぜトランプやQAnonと共鳴したかを理解するための鍵にもなりうる。

 だが、その話を書くと長くなるので、「反ユダヤ主義とQAnonと日本の不思議なつながり」はまた次の機会に書くことにする。

我那覇真子@ganaha_masako

 一連の日本のQAnon騒動の中で藤原直哉氏に輪をかけて興味深い人物が、沖縄出身の我那覇真子氏だ。

 我那覇真子氏は、日本語話者として不正選挙の世界的リツイート数を誇るトランプ応援ツイッターアカウントを持つというだけではない。彼女は、なんと1月6日の米連邦議会襲撃事件の際、ワシントンD.C.で取材をしていた。連邦議会の中にまでは入っていないようだが、連邦議会を遠景に取材をしている姿は、彼女に同行している法輪功メディアチームが報じている。

 そして、特筆すべきは我那覇真子氏が以前から米連邦議会襲撃犯のメイン団体であるStop The Stealを率いるリーダー、Ali Alexander氏と懇意の仲だったことだろう。1月6日米連邦議会襲撃直前の2020年12月にも彼らはワシントンD.C.で会っていたことが確認できる。

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 我那覇真子氏とAli Alexander氏の関係は、もっと以前から確認できていたが、我那覇真子氏はそのツイートを消してしまったようだ。Ali Alexander氏は現在はツイッターアカウントを停止され、最近は南米でMAGAの国を作る計画をしているそうだ。

 我那覇真子氏の米国での取材は2020年の10月にはすでに始まっており、当初ペンシルベニア州で統一教会の米国分派サンクチュアリ教会の銃祭りを取材していることが確認できる。

 我那覇真子氏が日本で注目を受けたのは、2017年1月放送の東京MXテレビの番組「ニュース女子」が 「沖縄・高江のヘリパッド建設工事反対デモ報道」でBPOに違反した問題に関して、BPOへ審議申し立てをした辛淑玉氏に対して公開討論を申し込んだことによるようだ。産経新聞が「沖縄のジャンヌダルク」と呼び記事にしている。

 我那覇真子氏の家族は一族で政治活動をしており、父の我那覇隆裕氏は応用心理カウンセラー協会の名護分校を担当しているとのこと。そして、この応用心理カウンセラー協会の創始者である菊地藤吉氏が生長の家本流運動の活動をして日本会議に属していたという。

 そもそも、菊地藤吉氏は生長の家の幹部をしており、生長の家創始者の谷口雅春氏の命を受けて日本復帰前の沖縄に赴任し、沖縄復帰運動の大会を開催したという証言がある。

 この応用心理カウンセラー協会の住所と同じ場所にある沖縄の教育を考える会が主催した沖縄議員のセミナーをきっかけに全国初の親学推進議連が沖縄にできたという記事が世界日報(統一教会の新聞)によって報じられている。

 NPO法人の沖縄の教育を考える会は、現在は活動がなく認証を取り消されているが、かつては菊地藤吉氏も会長となり、現在の応用心理カウンセラー協会理事長である菊地徳省氏も講師を担当していた。

 この親学(おやがく)という運動は、生長の家本流運動から派生した日本会議が推進していると報じられている。

 そのためか、我那覇真子氏も複数回日本会議の大会に参加していることが確認できる。

 また、親学や日本会議との親密な関係を度々指摘されている安倍晋三元首相とも2018年元旦に我那覇真子氏は首相官邸に招待され会見している。

仲村覚@okinawa_taisaku

 日本随一のトランプ応援者である我那覇真子氏が沖縄出身であることは、もしかしたら偶然ではないのかもしれない。

 トランプ応援団と沖縄をつなぐもう一人の人物がいる。前述の藤倉善郎氏の記事で1月6日の東京トランプ応援デモが終了した後で街宣を行ったリストに、日本沖縄政策研究フォーラム理事長・仲村覚氏がいる。

 藤倉氏の説明によると以下のような人物だ。

 仲村覚氏は、沖縄の実家が幸福の科学の布教所となっていたこともある信者。元信者の証言などによれば、母親も信者で、2012年に日本会議事業センターから椛島有三氏(日本会議事務総長、日本青年協議会)と共著『祖国復帰は沖縄の誇り』(明成社)を出版。日本会議による2011年の「沖縄県祖国復帰39周年記念大会」や翌年の40周年記念大会で講話を行っている。幸福の科学理事長を務めたこともある神武桜子氏は覚氏の姪とされる。

出典:米議事堂突入直前に行われていた日本のトランプ支持者の「最後の戦い」<陰謀論問題だけでは片付かない日本的ナショナリズムの危うさ1>
藤倉善郎 2021.02.22


 仲村覚氏の経歴を見てみると、

日本沖縄政策研究フォーラム理事長、ジャーナリスト。昭和39年、那覇市生まれ。埼玉県在住。陸上自衛隊少年工科学校(横須賀)入校後、航空部隊に配属。退官後の平成21年、沖縄が中国の植民地になるという強い危機感から民間団体「沖縄対策本部」(現日本沖縄政策研究フォーラム)を設立し活動中。近著に『沖縄はいつから日本なのか』(ハート出版)。

とのことである。出典:iRONNA執筆陣紹介

 仲村氏は、我那覇真子氏とも無縁ではなく、我那覇真子氏のイベントにも親族が関わっているとのこと。

 この我那覇真子氏のイベントで後援会として記されているチーム沖縄という団体は、かの悪名高いヘイト団体在特会とも関係が深いと報道されている。

 また、仲村覚氏が一緒に写真に映っている「シーサー平和運動センター」は、2020年12月7日に沖縄那覇市役所前で中国人に対するヘイトスピーチを行い報道されている。

沖縄と中国共産党と米共和党と自民党と幸福の科学

 我那覇真子氏、仲村覚氏は共に沖縄で大きな問題となっている在日米軍基地に反対する勢力への対抗活動を行なっている沖縄の「保守派」としても非常に有名である。

 沖縄は、日本の米軍基地の約70%を保有しており、沖縄県総面積の約8%、沖縄本島に限れば約15%の土地が米軍に占有されている。生活レベルを著しく下げる基地騒音や米軍関係者の犯罪などにより、沖縄では長年民主主義を求める住民運動が盛んだった。特に安倍政権になってからは、日本政府の沖縄住民に対する態度が著しく悪化し、基地を巡り改善を求める住人派と保守派の間で抗争が激化している。

 そして、保守派の心配する沖縄問題について耳目を引くのは、「中国共産党脅威論」だ。トランプ元大統領が好んで中国脅威論を連呼していたこと、米共和党のプロパガンダ部隊と噂されるスティーブ・バノン氏がわざわざ日本に来てまで中国脅威論を強調していたこと、これらは果たして偶然だろうか?

 スティーブ・バノン氏は、2017年にトランプ大統領(当時)からホワイトハウスを「追い出された」後、全世界を旅して「世界極右ネットワーク」作りの活動をしたという。

 バノン氏は日本で自民党と強く結びつき、現在は選挙汚職事件で裁判中の河井克行元法相は、彼のブログで2017年12月から2018年8月までの約半年間に4回もバノン氏と会合したと述べている。

 ところで、沖縄では保守派活動家に数多くの幸福の科学信者がみられるという報告も多い。

 そしてなんと、ここ数日米国で話題になっているのが、米国の保守派の政治祭典CPAC2021の演説会で幸福実現党初代党首あえば浩明氏が演説をするというニュースだ。

 しかも2年連続出演とのこと。去年の出演で、NYタイムズなどが、幸福の科学と幸福実現党について記事を書いている。

 そこで思い出すのが、この2017年のイベント、スティーブ・バノンが開いた米共和党の日本での資金集めパーティJCPACについてだ。

 なんとこのJCPAC2017は、そもそも幸福実現党初代党首のあえば浩明氏が実行委員として主導し実現したパーティだった。彼は共和党全米委員会アジア担当顧問を自称している。つまり、日本における米共和党との最も太いパイプは、幸福の科学が持っているということになるのかも知れない。

 藤倉善郎氏の記事でも、国内のトランプ応援デモは相当数が幸福の科学関係者が主催しており、幸福の科学主催のデモでは、幸福実現党の現職議員による街宣が行われていた。

QAnon、3つの系統

これらの断片を合わせて、大胆に推論してみると、日本のQAnonには大きく3つの系統が見られるのではないかと考える。

新興宗教団体

反共産党、特に反中国共産党勢力

保守派、右翼、極右

 これらを全て兼ね備えているのは、1968年に発足した「国際勝共連合」かも知れない。自民党の岸信介氏(安倍晋三氏の祖父)が後ろ盾となり統一教会教祖の文鮮明氏が冷戦時代真っ只中に設立した反共産党団体だ。CIAが仲介したという話もある。

 実は沖縄でもこの「自民党→カルト宗教下請け」制度(発足人:岸信介)があるらしいと聞いて、呆れるばかりだ。

我那覇真子氏と交流のあるアリ・アレクサンダー氏について

一連のデモ等で目にした旗などから見るに、チベット、ウイグル、内モンゴル等に関する人権運動や独立運動も一部合流しているか、あるいは利用されているように思える節もある。

「Jアノン」はなぜ日本でトランプを支持したのか?<陰謀論問題だけでは片付かない日本的ナショナリズムの危うさ 第2回>藤倉善郎 2021.02.25 より




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