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今のうちに書いておきたい、伝えておきたい。〜『夜に星を放つ』読書感想文


主人(ちゃま)のいとこが亡くなった。家で作った野菜や果物を季節ごとにお裾分けしてくれてた人。あまり会う機会はないけれど、会えばなんだかんだで笑わせてくれる楽しい人。お酒が大好きで、私たちが顔を合わすとしたらそれは親戚同士の集まりで、すなわちその多くはお葬式や法事だったので、いつも飲み過ぎてはお迎えに来た奥さんに叱られてた。


そんな奥さんはこれまた元気で面倒見がよくて、私の亡くなった母がずっと通っていた病院の看護士さんでもあった。お薬のことや体調のことで、心配して何度も電話をくれた。初めて会ったのはもちろん私たちの結婚式で、その時は話す機会はなくて、2回目に会った時にいきなりこう言われた。


「みとんちゃんて〇〇(高校名)だったんよな。T(私の同級生)知っとる?」
もちろん知ってたし、何なら結構仲良しだ。

「私、Tのことはよう知っとるよ」
そんな感じでグイグイ距離を詰められて、でも全然嫌じゃなかったし、親戚の中で唯一“気兼ねなく話せるご夫婦”だったお2人。そのご主人が亡くなったのだった。


近しい人が亡くなると言っても自分の親の年代ではなくほぼ同年代(ちゃまとは5歳差)の方が亡くなるのはショックが大きい。私はここのところ、“死”について考えていたので余計に感傷的になっているのかも知れない。でも別に暗い話ではない。たまたま少し前に読んだ短編集に、亡くなった母親が幽霊になって娘の前に現れるという話があって、その幽霊にやけにシンパシーを感じてしまって、こういう幽霊ならなりたいな、とまで思ってしまったのだった。

夜に星を放つ/窪 美澄

かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。 コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夜中のアボカド」。学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く「星の随に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。

Google Booksより

年齢や性別、立場は違えどそれぞれ人間関係が少しだけ拗れていて、だけどそこにある感情は誰にでも当てはまるし誰にでも覚えがある。それは嫉妬だったり焦りだったり、愛しさ、寂しさ、悔しさ、疑問、後ろめたさ、疎まれる悲しさ‥だけど人間、一人じゃ生きていけない。だからまた、結局誰かと関わる。たとえそれでまた、苦しくなってしまったとしても、だ。


その中の一編が母親の幽霊のお話。“”について考えてしまう小説はいくつも読んできたしその影響を少なからず受けてる。例えば近しい誰かが亡くなる瞬間に立ち会えたなら私はベッドの上のその人ではなく天井を見上げてサヨウナラと手を振ろうと思っている。思ってはいても忘れてしまうかもだけど。そしてそのことを娘にも伝えておこうとも思っていた。私が死んだら私の魂は天井から皆を見下ろしてるはずだから、そっち見てね、って。こういう約束って、ホントに死にそうな時だと「そんなこと言わないで」ってなるから、まだまだそうじゃない時にこそ伝えておかなくてはいけない。


さて、小説に出てきた母親の幽霊。この母親と私にはいろいろと共通点があって、それは熱しやすく冷めやすいところや、サプライズが好きなとこ、誰かを喜ばせるのが好きなとこ、大事な物をすぐに無くしてしまうドジなとこ。なんだかシンパシーを感じて、だからこういう幽霊だったらなっても良いなって思ったのだった。
喋ることは出来ないけれど、娘の言うことはわかるし質問にうなづいたり首をふったりすることで意思の疎通は出来る。夕飯の支度をするようになった娘に、野菜の切り方は「もっとこうして」は身振り手振りで。幽霊だから壁とかすり抜けられるんだけど、娘が一人にして欲しいと言えば部屋から出て行くし、そうかと思えば不意にキッチンに立ってたり。どうやら家から外へは出られないらしい。


生きてた時も幽霊になった今も、いじめに遭っている娘を心配しながら何も知らないふりをしている。でも最後にはそれをちゃんと解決して成仏した(多分)。そういう母性愛がとても温かくてこのお話がとても好きだった。
もう一つ好きだったシーンは、残された父と娘がベランダで母親の話をするとこ。娘から「本当にお母さんのこと好きだったの?」と問われた父親は「あなたのことが好きでした。会えなくて淋しいです。会いたいです。」とベランダから愛を叫ぶ。多分この父親は、奥さんが生きている時にはこういうことをあまり伝えてこなかった人なんだと思った。伝えておけば良かったって後悔してると思った。だから私は、今のうちにnoteででもいいからしっかり愛を伝えときたいと思ってる。


次女に、「お母さん、死んだら幽霊になって帰って来るから気づいてね」と言ってみる。「気づかないな〜」と切られる。
「でも皆のことが心配だから帰って来れるもんなら帰って来たいよ。帰って来るシステムってあるのかなぁ?システムがあったとして、それお母さんにわかるかなぁ?」

「バカリズムさんが座ってるから聞けば良いんじゃない?」

「あれは、次の生まれ変わりのための受付でしょうが。幽霊になるのは別の受付じゃない?」

「そうかもね。それは私はどうしてあげようもないわ。自分で探しなね」


そう、こういう話はまだまだ元気なうちにするから笑える。だから、今のうちに。笑いながら。
それにね、幽霊になってどこにでも住めるとしたら、やっぱり家族の側が良いなって思ってる。



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