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コントのようなSFファンタジー『四畳半タイムマシンブルース』

私が森見登美彦さんを好きな理由は、主人公とそれをとりまく人たちの見事なバカバカしい日常の感じだ。森見作品の多くは京都が舞台で、森見さん自身京大出身者なので、物語に大学生が登場したらそれは京大生だと思って読んでいる。

京都という街は、日本で有数の観光地であり、その特殊性(特別感)により独特なカリスマ性がある。同時に、学生の街でもある。京都での大学生活を夢見て京都の大学に進学してくる人も多い。だからか、神社仏閣がひしめく歴史香る古い街並みのイメージと、人がひしめく賑やかなイメージ、両方ある。文武両道というと意味は違うけれど、言葉にするならそんなイメージだ。四畳半シリーズは森見作品の真骨頂とも言える、京都の大学生が暗躍するファンタジーだ。ちょっとダメな感じの主人公に、個性的な悪友や先輩、美しいマドンナ‥よくあるキャストたちが、とてもバランス良くて、全員アホだ。アホというのは森見作品においては褒め言葉。マドンナさえもおかしなサークルでおかしな映画を撮ったりしている。

本作はタイトル通り、タイムマシンが登場する。だからファンタジーなのだ。タイムマシンといえば思い出すのは『Back To The Future』、過去へ行ったマーティは、自分の両親がちゃんと結婚し自分が生まれてくる未来になるよう奮闘する。あれもなかなかのドタバタだったが、ドタバタするのが主人公だけなのでまだ収拾がつきやすい。対して本作ではただでさえ人のいうことなんて聞く耳を持たない超個性的なメンツが、タイムトラベル先でも各々の勝手な理論やその時のノリでいろいろやらかしてくれる。しかも、8/11と12の2日間を行ったり来たりするだけ。しかもその目的は、クーラーのリモコンを救出するためという、このスケールの小ささがツボだ。

途中で、過去を変えたら未来も宇宙そのものまでも変わってしまうかもしれないということに気づいた一同は、慌てて事の尻拭いをしようとするも、ここでもまたドタバタ。まるでコントだ。最終的にはリモコンは助かり、一件落着するも、ふと振り返ると

我々は意味もなく宇宙を危険にさらし、さんざん苦労して尻拭いをしたにすぎない。「タイムマシンの無駄遣い」以外のなにものでもない。

と気付く。
こうして、“徹頭徹尾有害無益”なことばかりではあったが、最後に(読者にとっては)ちょっとだけ有意義な話が待っていた。タイムマシンに乗って未来からやって来た田村くんは、実は明石さん(本作のマドンナ)の子どもだと判明、主人公は父親が誰なのかが気になるが、「それを言ったら未来が変わるかもしれないでしょう。(中略)未来は自分で掴み取るべきものです。ご健闘を祈ります」とかわされる。そして、主人公と明石さんはお互いを憎からず思っていることは読者も承知しているので、2人のその後について詳しく書かれていないのは

成就した恋ほど語るに値しないものはない。」なのだと。なるほど。ニヤニヤ。

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