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Stones alive complex (Boulder Opal)

めくるめく言語の世界。
言語とは、物事の実相を絞りこして漏れでた空気感の肌触りをラベリングする仮想のツールなのだ。

おのおのの人が感じる温度差しだいで、
受け止め方は変わってしまう。

臆病は謙虚と呼ばれ、
謙虚は臆病と呼ばれる。

勇敢は向こう見ずと顔をそむけられる。

意思の硬さは頑固と叫ばれ、
自分への誠実さはワガママと非難される。

クーラー嫌いなので、扇風機を押し入れから引っ張り出す。

クーラーがしれっと吹き出す安直な冷風こそ、仮想の冷気なのだ!
まやかしに騙されたらあかん!

自室以外の部屋が、同居人たちが安直に吹きさらすまやかしの冷風で腐海の森と化してゆく。
深く憂うべきことだ。

いても立ってもいられず、
アイス的なものを買いに出ると布告する。

廊下の突き当たりまでまんべんなく凍った舌を伸ばす腐海の冷気を避け。
床を這うように姿勢を低くして玄関を出たところで、冷気は低いとこに溜まるものだと気がついたが手遅れだった。
すこし・・・肺に・・・入った・・・

車に飛び乗ると同時に、
同居人たちまでもが後部座席へと仮想冷気のようにしれっと忍び込んできた。

どうやら、
「アイス」という氷の呪文に、そもそもから冷えてる脳みそが一瞬でマインドコントロールされてしまい。
亡者のごとくにすり足で後をついてきたらしい、おそらく同様に姿勢を低くして。

「このミッションは個人的なものだ!
君らには関りがない!
腐海の森で、王蟲の抜け殻でも削ってろ!」

後ろを振り返ってすみやかなる退去を命じるが。
マインドコントロールされた薄笑いをへらへら浮かべて出てゆこうとはしない。

よく見てみると。
部屋着のままの短パンとタンクトップで駆け込んできたらしく。
注目すべきポイントとして、
バッグなどは一切持っておらず、短パンのポケットには少しの膨らみすら確認できない手ぶらの状態であった。

何を視聴者に訴えたいのかというと。
亡者たちからは自分の財布を持ってきた様子が、微塵も観察できなかったということだ。

この仮想の冷気に脳みそを氷結された亡者どもめがっ!

こっちの財布に憑依するつもりだな!
そしてアイス屋に着いても車から炎天の元へと降りるつもりなど毛頭もなく、注文だけをそっけなく言い放って使いっぱさせる企てに相違ない!
そして快晴の夏のドライブという味わうには最も適した環境で、帰り道がてらにアイスを食い尽くす魂胆だ!

カーポートに遮られていたにも関わらず愛車のボンネットが憤怒に焼けている。
それも含めて、軽く歯ぎしりする。

すぐに車のクーラーを全開にした!

こっちの仮想冷気の方には、身も心も騙されていい。
すこぶる快適。

この臨機応変な体温管理を後部座席の者たちは、ワガママだと耳打ちしあっている運転席まで聞こえる音量で。

おさらいしておこう。
自分への誠実さは、ワガママと呼ばれる。

いちばん気持ちがいいのは。
クーラーを全開にして、
前うしろ全部の窓も、全開にして走ることだ!!

そうすればヤマトの風は瞬くうちにシドニーの風と化すのだよ行ったことないけど!

車の空力ボディと呼びかけ合い。
仮想と実相の風が、その長いとぐろを絡みあわせた竜巻となって。
狂ったような尾で身体中を乱打に鞭打ちはじめる!

全開で笑えてくる。

不条理をも超越する、彼岸へも到達できそうなこの狂気の風のことを、竜巻で目も開けてられなくなった後部座席の者たちは暴れ回りながら、バカー!と名付けてきた。

しかし。
その感情に流されただけの命名は名付けられたとおりの狂った風圧に押し戻され、出どころの吐いた口へとねじ込み返された。

全開で腹から笑えてくる。

痛みの中でしか生は感じられない。
しかし、痛みは避けられようとするものだ。
ゆえに、生を実感できる機会は数少ない。

そんなジレンマを粉々に吹き飛ばせるのは、仮想と実相が胸ぐらをつかみ合うこのストームからの猛打のみなんだぞ分かったか!

「なるほど!まるでわからん!」

後部座席の亡者たちは、我が実存の存在証明へとそんな評価を述べ。
せめて後部座席の窓だけでも閉めようと、ウインドウスイッチを必死でガチャガチャした。

が。

びくとも動かない。

「窓が閉まらないっ!
故障してんの?
これ故障なのーー?!!」

「そうさ!
故障なのさ!
なははは、ははーっ!」

サーティワンへたどり着くまで、
チャイルドロックのことは、故障と呼ぼう。

(おわり)

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