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Stones alive complex (Garden quartz)


スフィンクスシールドにガードされたその白亜の城は。
無限の敷地が用意され、また建築基準法の制約に縛られない様式と規模で施工が可能であるにも関わらず。
建設コストが、まったくのゼロなのが最大のメリットだ。

ま。
良い意味での誇大妄想空間の中に建てられた城だから、
考えるまでもなく、そりゃ当然の事なのだけども。

誰しもがその気になればいつでも建てられる、
色々と使い勝手がものすごく大な建造物なのに、
建ててる人と、
建ててない人がいる。
ああ、もったいない。

現実を支配している因果律から、
スフィンクスシールドにより隔離あるいは守護されているその城は。

「こうしたら、こうなる」
の、原因と結果の法則とは無縁なため。

こうしなくても、こうなる。
こうしたのに、こうならない。
を基本法則とし。
ぜんぜんどうにもこうにもならない、そのものを、
ぜんぜんどうにもこうにもならないにすることも出来る、
なんだって、どうにでもなる城なのであった。

「ここは、ありのままの世界ってことかしら?」

スフィンクスの前足に腰掛けたガーデンクォーツは、尋ねた。
彼女はスフィンクスのお世話係に就任してから、まだ日が浅い。

スフィンクスは落ち着いた声で、

『ありのままっていうのはね。
ありのままじゃ無い状態も、
ありのままじゃ無いという状態の、ありのままなのだから。
すべてはありのままの範疇に含まれてて、
ありのままで無いものなど無いんだよ。
逆に、ありのままからは誰も逃げられないのさ。
ワタシもこのシールドの外にいた頃は、
なんとか、ありのままでは無い自分になろうと頑張ってみたのだけど・・・
どうあがいてもそのロジックに拘束され、ありのままでいることしか出来なかった・・・』

そう、スフィンクスらしい謎かけっぼさで答えた。

『外の世界では、
有り得ない、も同様に。
その有り得なさにこれまで出会ってなかっただけで。
今も我々の知らないところで有り得ないはどんどん生まれて、うごめき回ってる。
そして有り得ないに出会った瞬間、
もうそれは有り得るに変わってしまう。
有り得ないも、有り得ないのままでは長くはいられないのだ。
ありのままで無いも、無いのままでは長くはいられない』

スフィンクスは、城を王冠にして頭に載せおり、
前足で、カタカタいう水晶の鏡を掴んでいた。
そのライオンの身体をアガペーの葉と考える葦で飾られた巨大な母岩の台座に、はべらせている。

大型ネコ科の肉球で支えた楕円形の鏡には、龍に似た模様が映っていた。
どうやらそれは、なにかの生き物というより大気圏外から見下ろしたどこかの陸地のようであった。

ガーデンクォーツは腰掛けたスフィンクスの前足をじゃらしながら、尋ねる。

「ここでは、ありのままでは無い自分を見つけられたの?」

『ここはね。
あり自体が、秒単位で変わってしまうとこだから。
ありのままだろうが、ままでないだろうが、
受け入れた直後に、または受け入れようとした直前に、ありのあり方が変わってしまうのだ。
何かを見つけたとたん、それは変わってしまう。
受け入れたくても、受け入れようがない。
受け入れようがない、を受け入れることしかできない。
わかり易く言えば、
いつもびっくりくりくりくりっくりさせられるのを受け入れてる。
その感覚を強いて表現するならば。
【ありゃーあ?!のままの自分】でいるしかないのだ』

「ありゃーあ?!のままでいるにしては、
アナタの個性は淡々とした、落ち着いた感じに仕上がってるのね・・・」

ガーデンクォーツは一応、誉めているつもりだった。

『見た目はどうであれ。
理解と慣れの問題なのだよ。
それこそ、このスフィンクスシールドという守護の本質さ。
理解という城と、慣れという城壁だ』

「いつも、とても静かにびっくりしてるってことね。
びっくりしすぎて放心してる心境に寄ってるとか・・・」

『このシールドの外の世界も、どんどんそうなるさ。
それを受け入れなくてもいいけどね・・・
先ほど言ったように、受け入れるかどうかが問題じゃない。
だが、理解と慣れは必要だな。
城に守護されたければ、だが・・・』

そう言ってスフィンクスは、
カタカタいう鏡を見下ろし、
映っている模様に向けて目を細めた。

(おわり)

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