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地方の飲食店がコロナを機にDXを実現した話

私は、新潟在住で東京のデザイン会社に在籍し、フルリモートで働くプロジェクトマネージャー兼テクニカルディレクターです。

(私の仕事について詳しくはこちら↓)

仕事柄、様々な事業ドメインのパートナー(クライアント)さんのビジネスと向き合い、課題解決を行っていますが、飲食店経営の旦那さまの仕事については横目で見つつ、「異業種なのでお互いそっと距離を置く」という家庭方針でした。
しかし、コロナを機に3ヶ月給料ゼロ、毎月出ていく固定費は数百万、国の補助金で数千万円の借金(利子付き)という事態に私も黙っていられなくなり、口を挟むようになった結果、地方の飲食店が一気にDXを取り入れることになりました。

会議での議事録やディスカッション内容、シフト管理、売上管理の一部は紙メインで行い、社員も普段パソコンを触る機会のない料理人たちもいました。
そんな彼らがいかにしてデジタルを取り入れたのか。

コロナを機に使い始めたデジタルツールのご紹介と、デジタルとは程遠い仕事をしている人たちがどのようにDXを取り入れたのか、変化したのかをまとめてみます。

(1)創業から18年続く安定経営の飲食店が売上8割減

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旦那さまは、2002年、新潟駅近くで沖縄居酒屋をOPENし、現在は新潟市内に3店舗の飲食店を経営しています。
10年で9割の会社が倒産すると言われる昨今、18年続いているのはそれなりに安定していたと言えます。

ところが、コロナの影響で2月〜5月にかけて売上は8割減、毎月出ていく固定費もあり、このままの状況が続けば3ヶ月で破産となる見通しでした。
実は今年5月にもう1店舗OPEN予定で契約や工事も進んでいたのですが、やむなく途中で断念、それまでに支払った資金数百万円も水の泡となりました。

一時的な公的貸付で目の前の資金はあるものの、3月4月の時点ではいつコロナが落ち着くのか見えず、withコロナの社会における外食のあり方や、人々の外食に対する感情の変化がまったく読めない状況の中、返すあてもない借金を抱えて途方に暮れていました。

「テイクアウトや宅配のサービスを始めれば良いじゃないか」と言われるかもしれませんが、飲食店はお酒以外の利益率はとても低く、さらに地方はまだテイクアウトや宅配の文化が根付いていないため、それらを始めはしましたが、焼け石に水状態でした。

ここで「コロナが」「社会が」「国が」と誰かを責めても何も状況は変わりません。自分たちが今できる最善のことを、最速で実行する必要がありました。

(2)状況を正しく理解し、前を向いて進み始めるために行ったこと

■スライドで今置かれた状況を説明

最初に集まったのは、2020年4月29日。
スタッフ全員が現状と正しく向き合い、一歩ずつ進み始めることが必要だと考え、スライドを準備しました。

現在は第四次産業革命、真っ只中であり、物凄いスピードで時代が変化しているということ、スマホの台頭により、人々の購買行動が昔と大きく変わったこと、さらにコロナで「PEST分析」の中の「T」以外、何も先が読めないこと、しかし早い段階で気付き「変わらなければならない」という気持ちで動き始めたことはとても良いことであるよね、だから頑張ろうね、といった内容をお話ししました。

課題発見のワークショップ

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正しく課題(issue)を見つけるために、ポストイットでワークショップを行いました。
全員がパソコンを使いこなせる状況になかったため、まずはハードルを下げて、全員が議論に集中できる環境を第一に選びました。


はじめに、
「みんなが、いま、困っていることは何か」を探すブレストをしました。


その際のルールとして、
「自分たちができること」から離れて探そう、ということを何度も確認しながら進めました。

「自分たちができること」起点で探すと、どうしても小さくまとまってしまい、新しいアイデアが出なくなりがちです。
ユーザーに必要とされていないもの、すなわち「売れる見込みのないもの」を作っても意味がありません。

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ポストイットでブレストした内容をまとめて、KJ法でグルーピングし「この中で、いますぐ自分たちでできることはなんだろう?」をピックアップしました。

スプリントのロードマップ設定

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会社存続のために残された期間は2ヶ月、その期間でスプリントを組み、ブレストでまとめた内容の中から5つのプロジェクトを実行することにしました。
このタイミングでスケジュールの話をしながらMiroでロードマップを作りましたが、直感的にわかるロードマップに、みんな少しびっくりした様子でした。
スタッフのみんなが興味を持ち始めたので、ブレストで使ったポストイットをMiroに移植する作業をスタッフの一人にお願いし、それぞれのロードマップに沿って役割分担とやることリストをScrapboxにまとめました。

ブレストによって明確になった課題と今後のロードマップ、そして「同時編集」や「調査データ共有」による作業効率化と情報共有の確かな手応えを感じ、最初は半信半疑で集まったスタッフのみんなのやる気スイッチが一気に入ったようでした。

デジタル化に用いたツール

今回、導入したデジタル化のためのツールを以下にまとめます。

- Miro( https://miro.com )

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普段パソコンを触らない人でも直感的に使えるホワイトボードツールです。
ここでブレストしたり、考えをまとめたり、ロードマップを引いたり、、、同時編集ができるのでチームでワークショップをしたり思考をまとめるためにとても有益なツールです。貼り付けた付箋を複製してまとめたり、思考を見える化したり、ボードも物凄く広いのでデータがどんどんためていけるので振り返りもここを開けば前に行った記録にもすぐにアクセスできます。

Miroは2ヶ月間、本当に多用しました。
2ヶ月の軌跡はここに詰まっている、と言っても過言ではありません。
最初のプレゼン資料、ブレスト、マインドマップ、ロードマップ、ペルソナ、ジャーニーマップ、ブランディング、ビジョン・ミッション・バリュー等々。
簡単に誰でも触れるUI/UXは本当に素晴らしいです。

ちなみにMiroは英語のみですが、GoodpatchではStrapというホワイトボードツールを開発しており、日本語が使えます。

▼Strapについてはこちら
リモートコラボレーションの可能性を広げるクラウドワークスペース「Strap」


現在はβ版、この夏、正式版がリリースするのでさらに導入コストが下がると思うのでオススメです。


- Scrapbox( https://scrapbox.io/ )

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直感的に使える情報共有のためのツールで、あらゆる情報をつなげて整理できるWikiのようなもの、というと想像しやすいかもしれません。
Scrapboxも同時編集が可能でサクサク動くので、議事録やメモ、知識共有などが簡単にできます。
記事同士の連結について、あまりしっかり伝えなかったのですが、Scrapboxはかなりスタッフのみんなが気に入ったようで、自ら使いこなすようになっていました。

▼Scrapboxについて本家の解説
マンガでわかるScrapbox



- Canva

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Canvaは、ドラッグ&ドロップでチラシや名刺、SNS画像、ロゴ等のデザインが簡単にできるサービスです。カスタマイズ可能で、しかもデザイン性の高いテンプレートが豊富にあります。
触ってみると普通に楽しいので、さっそくみんな使い倒しているようです。

▼Canvaについてさらに詳しく
Canvaって何?


- STUDIO( https://studio.design/ja

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STUDIOは、簡単にWEBサイトが作成できるツールです。
この手のツールはこれまでにもたくさんありましたが、「ここ触りたいのに触れない=やっぱりイチから作った方がいいよね」という結論になっていたこれまでと違い、STUDIOは細かいmarginやpadding、配置も細かい調整ができます。
さらに、CMSやアニメーション機能も追加され、さらにリッチな表現もできるようになり、記事投稿も簡易になりました。
STUDIOは私も仕事で使っていて、こちらのGoodpatch AnywhereのサイトもSTUDIOで作りました。(CMSにも対応させないと!)

▼STUDIOの導入事例
チームコラボレーションを、発揮しよう。



- Googleカレンダー( https://calendar.google.com/

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シフト管理は実店舗のカレンダーに書き込んでいたそうですが、これを機会にGoogleカレンダーへ。
これまでアプリ等も色々試したけど、結局カレンダーに戻っていたそうですが、「お店に行かないと予定がわからない」状態は家族も困っていたので、スマホでスケジュール管理ができるようになり、とても便利になりました。


- Google Drive

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Googleドライブで写真や素材等を全員で共有し、スプレッドシートでプロジェクトのデータを管理し始めました。
これまでは個別に素材のやりとりをしていましたが、クラウドで管理することで「この場所に探しにいけば素材がある」というルールとなり、コミュニケーションコストも減りました。


- Figma( https://www.figma.com/

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Figmaはブラウザやアプリ上で簡単にプロトタイピングデザインができるツールです。
無料で使い始めることができますし、プラグインも入れられて拡張性が高く、同時編集もできるため、仕事でもかなりお世話になっています。
今回はロゴを作るときに使いました。


- Slack( https://slack.com/

Slackはリアルタイムコミュニケーションツールです。
これまで、LINEで行っていたスタッフ間コミュニケーションをSlackに変更しました。
プロジェクトごとにチャンネルを分け、会話の履歴を追いやすいし、添付も確認しやすく、私は仕事も仕事以外もプロジェクトのコミュニケーションは、すべてSlackで行っています。
店舗に立つスタッフも多いため、なかなか会話が進まないこともありますが、Slackによりプロジェクトの進行整理も進んだと感じています。

▼Slackについてさらに詳しく
Slackって何?


(3)地方の小さな会社の変革

約2ヶ月に渡ったスプリントは、今月末で一旦、一区切りとなります。
その間に感じた、DXで大事なポイントは以下です。

- 相手の目線に合わせた言葉選びと寄り添う姿勢でまずは心を動かす
- デジタルを使う文化のインストールが大事
- 誰でも使える優れたUI/UXのツールは既にたくさん存在している
- デジタル最前線に触れ、最新の情報に敏感になると社員は勝手に学び出す

スプリント初日に、スタッフの目線に合わせた資料を作り、現状を伝えたこと、簡単なワークショップですぐに手応えを感じることができたことで、初期段階でしっかりみんなの心が動かすことができました。その後、変化を受け入れやすい体制になったのは、初日の経験が大きかったと思います。

ツールは既に使いやすいものがたくさんあります。
大事なのは、使う人たちに合ったツール選びと、それらを日常の手足として使う文化、デジタルに慣れる文化をインストールすることだったように思います。
上記に挙げたツールの「同時編集」の機能により、効率がグッと上がりました。
「みんなで集まってこの時間に決めちゃおう」というGoodpatch Anywhereでもおなじみのスタイルを今回も取り入れましたが、誰かの出来上がりを待ってフィードバック、という待ちの時間が減り、どんどん決まっていきました。
とりわけ、ペルソナやジャーニーマップ のワークショップが面白かったみたいでとても盛り上がりました。

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また、スプリントが進むにつれ、自分たちで自主的に調べたり本を買って読むようになり「次はこれをしてみよう」「これを調べてみたんだけどどうだろう」という意見が活発に交わされるようになってきました。
最新の情報にキャッチアップすることが常となり、社内に変革が起きたように感じています。

(4)おわりに

今回のこの取り組みは、いつもGoodpatch Anywhereの仕事で行っていることを参考に「地方の小さな会社」でも受け入れられるのか、試しながら導入する実験にもなりました。
身近な人たちを対象に行うことで、すぐにフィードバックが得られたので、いつものやり方との違いを微調整でき、私的にもとても学び大き期間となりました。

また、当初は受け入れてもらえるか不安でしたが、想像以上の反響に、私自身とても驚きました。いきなり私が乗り込んでいった4/29から、毎週土曜日、社員全員で集まり、進捗確認とワークショップ、そして大量の宿題が割り振られる日々が始まったのです。

タイトなスケジュールで膨大な調査や行動を求められたスタッフのみんなは、忙しい反面とても楽しそうで「毎週土曜日が楽しみ」「コロナで大変な飲食の中で、こんなに楽しそうに働いてる人たちいないと思う」という感想まで出てきていました。みんな「このままじゃいけない」、とは思いつつどうしていいかわからなかったようで、きっかけが必要だったのかもしれません。

まだまだこれでデジタル化が終わったわけではなく、この期間に発見した新しく始めたいプロジェクトや、財務諸表のデジタル化、実店舗のPOSとこれからスタートする通販との連携等、課題は山積みなのでまた途中経過もこのnoteで記していきたいなと思います。
具体的な施策もスプリント継続中なので、またの機会に!

最後に。
この2ヶ月、裏で見守り、支えてくれていたGoodpatch Anywhereのメンバーのみんなに感謝を。



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