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3つの好きな映画|音のない世界と歌と言葉[silent、聲の形、Coda あいのうた]

鳥のさえずりも、クジラの歌も聴こえない

ツグミの2秒のさえずりの中に100個もの音符があるという。連続する音を聞き分ける能力が、人間とツグミで10倍も違うので、ヒトにはとうてい理解できない。

クジラの歌は、ソロ、デュエット、トリオだけでなく、数十頭による合唱まであるという。超低周波音で数100kmの彼方にまで響き渡る壮大な歌は、人間には聴くことはできない。

ヒトと動物と楽器の音域

当然ながらピアノの音は人の可聴域の中。鳥のさえずりやクジラの歌には、ヒトでは聞き取れない高音や低音がある。パイプオルガンでさえ、ヒトの耳には聴こえない音がある。

でも、音は耳だけで聴くものではない。
音は音波で波で振動。
目で見て、肌で感じることはできる。

いつもは映画を3つ選ぶけど、TVドラマのsilentにハマっているので、今回はドラマアニメ映画の3つ。どれかひとつしか見たことない人は、ぜひ残りふたつも見てほしい。

音の世界や音のない世界、声のカタチや言葉のカタチ、そんな“ヒトの五感”について考えてみるのもいいのでは?という話。

音楽のカタチ

作曲家のジョン・ケージは「4分33秒」という作品を1952年に生み出す。曲の演奏時間4分33秒の間、全く楽器を弾かず沈黙を通すもの。聞こえてくるのは、観客が発する雑音や、ホールの外から聞こえるノイズのみ。ノイズを楽器と捉えた音楽のカタチ

どこにいようと、聞こえてくるのはほとんどノイズだ。ノイズは無視すると、かえって邪魔になる。耳をすますと、その魅力が分かる。時速50マイルで走るトラックの音。雑音。雨。こういう音を捉えてコントロールし、音響効果としてではなく、楽器として使いたい。

ジョン・ケージ著:『サイレンス』

日本フィルハーモニー交響楽団は、落合陽一とのコラボで「耳で聴かない音楽会」を開催している。音を光と振動に変換し、体全体で感じ取る試み。

ノイズだったり、振動だったり、光だったり。
音楽にもまだまだ新しいカタチがあるのかも。


silent|ドラマ

音のない世界で再び出会った二人が織り成す物語

脚本も、映像も、役者も、音響も、すべてがTVドラマのイメージを大きく超えるもの。まだ、放送中のドラマなので結末はわからない。でも、絶対面白い。

ながら視聴を前提としたテレビは、少し目を離したり、気を取られても内容がわかるようにつくられる。必要以上に説明的だったり、わかりやすかったり、シンプルで、明るくて、明瞭。

反対に、映画は約2時間、暗い劇場でスクリーンだけを観る。なので、薄暗い映像も、聞こえにくい音声も、一瞬しか映されないシーンも、さりげない仕草も、複雑さも、曖昧さも、すべて許容される。

で、このドラマはとても映画的で、そこがとても好き。

ノイズ、無音、深度の浅い映像、長回しの空気感、群像の物語。


聲の形|アニメ

気持ちを伝えるのは誰しも難しい

耳が不自由な少女と、その少女をいじめた少年の切なく美しいストーリー。でも「聴覚障害」や「いじめ」はあくまで設定で、モチーフにすぎない。

伝えたいことは、想いを伝えることは大切さ

」という言葉は「声と手と耳」が組み合わさってできている。「気持ちを伝える方法は声だけじゃない」という意味を込めてタイトルに使ったという。

あるシーンでは、手話が何を表しているのかは説明しない。手話を知らない人には伝わらない。他人を拒絶して、心を閉ざすシーンでは、背景がぼかされて主人公にだけピントが合う演出もある。

理解できないこと、見えないものが映像を通して表現されている。脚本も映像も音楽も、すべてがすばらしいアニメーション。


Coda あいのうた|映画

家族の中でたった独り、耳が聞こえる少女の物語

アカデミー賞作品賞を含む、主要3部門受賞の映画。Codaとは Children of Deaf Adultsの頭文字をとったもので、耳の聞こえない両親をもつ子供のこと。

本当に耳の聞こえない役者を起用しているので、手話の動作に感情が乗っているのがこちらにもしっかり伝わる。振動を感じるからラップが好きだという父親が、子供の声を聞くためにとった行動もとてもいい。

そして、30秒間の無音とGoの一言。

最高のあいのうた。


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