LSD《リリーサイド・ディメンション》第34話「顕現せし後宮王《ハーレムキング》」
*
風帝の激戦から一日が経過して、オレは改めて、この百合世界の後宮王として顕現することになったのである。
「チハヤさま、準備ができましたですよ」「チハヤさま、準備ができましたです」
「ああ、こっちも大丈夫だ。よろしくな!」
メロディとユーカリがオレの後宮王授与式の準備をしてくれていた。
「やはり、その格好は様になりますわね」
マリアンがオレの格好を見て、そう言った。
オレは今、エンプレシアの文化に沿った服装をしている。
ただし、男としての正装を要望した。
オレが記憶している王さまの格好を魂の結合で直結した――過去の記憶の伝播をおこなった――ことで、その王さまの格好を再現したのだった。
オレは、オレの考える理想の格好をオレ好みにカスタマイズした服装で後宮王授与式に挑むのだった。
「素敵な格好ですね」
アスターが、そう言ってくれた。
「キレイですよ、チハヤお姉さま」
アリエルもオレの格好を褒めてくれた。
なんというか、こう褒められるだけでも、至れり尽くせり、というか……まあ、うれしかった。
オレは風帝を倒したことでエンプレシアでは初めての王……後宮王として、この百合世界に顕現されたのである。
そしてオレは、マリアンから王冠を受け取ったのである。
それでエンプレシアの王として、認められた、というわけだ。
王冠を受け取ったとき、後宮王授与式は幕を閉じた。
*
ところ変わって、湖水浴に来ているオレたち!
夏だ! 湖だ! いたって現代風の水着だ! ボヨンボヨン!!
といっても、今の季節は初夏に入ったころであり、現在の百合世界はエンプレシアしか領地がない。
つまり、海は存在しないのだ! ガッカリ!!
でも、湖は存在する。エンプレシア西の領地――ウエストレイク。
オレたちは今、ウエストレイクの湖で水浴び中。
久々のバカンスブレイクなのだよ! やべえ、久々の休みすぎて語彙力崩壊中、オロロ。
で、今なにしてるのかっていうと……。
「それっ!」
「えいっ!」
「きゃっ、つめた……いですわ」
「うふふ、気持ちいいですね。こんなところで水浴びなんて」
水着姿のメロディ、ユーカリ、マリアン、アスターの順にキャッキャ☆ウフフな声を上げる。
晴天の空、照りつける太陽(異世界なのに、なんで太陽が存在すんの?)。
それとは真逆に冷たい湖の水……清く澄んでいる。
現在、百合暦二〇XX年五月十五日。
オレが一回死んでから一週間が過ぎようとしていた。
そんなときなのに……いや、そんなときだからこその休暇なの……かな?
って、いうか発案者はオレだったりする。
アスター、マリアン、メロディ、ユーカリ……そして、アリエル……と、ついでにミチルドとケイ。
要するに彼女たちと一緒にキャッキャ☆ウフフしたかったのだが、オレは間男にすぎない。
邪魔者ははだけもせず、のほほんと見守るしかないのだよ。
それが百合道……百合の流儀だ。
しかし結局、オレは疑問に思いながらも本能に従ったのだ。
彼女たちに水着を着せるために。
オレは、なんて愚かなんだ。
実際のところ、オレは間男じゃなくて……本能的に後宮楽園をつくろうとしている……そんな気がする。
でも、ホントは……それじゃダメ。
本当に百合道をめざすのであれば、それじゃダメなんだ。
本能的には彼女たちとつながりたいと思っていたとしても、交われないオレだからダメなんだ。
永遠にひとつになれないオレだから悪しき貞操を狙う魔物たちから彼女たちを守らなきゃいけないんだ。
「なにしてるんだ、後宮王!」
「早くこっちへ来てくださいですの」
「ひんやり気持ちいいですです」
「チハヤ、せっかくのバカンスが台無しですわ。早く来なさい……って、その格好は……なに?」
アスター、メロディ、ユーカリ、マリアンがオレを呼ぶ……のだが、彼女たちはオレの格好を見て……。
「……なんで上半身、裸ですの?」
「え、あ、いや……オレの国では、これが正装っていうか……」
「…………ダメ、ですわ」
「…………はい?」
「わたくしの国、エンプレシアでは、そんな格好……はしたない! はしたなすぎる!! ですわ!!」
「そうだぞ、後宮王。漆黒の君と呼ばれる百合世界最強の騎士であるユリミチ・チハヤが、そんな胸をはだけさせている格好はよくありません。ちゃんと上の水着を着るんだ」
「…………何度も言わせないでくれ。オレは男――」
「――メロディ、ユーカリ! それにミチルド、ケイ! チハヤを取り押さえるのですわ!!」
『はい!』――メロディとユーカリ。
『ラジャー!』――ミチルドとケイ。
「おまえらマジかよ! ふざけんな!!」
魂の結合の後遺症による影響でオレは簡単に拘束されるのであった。
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