LSD《リリーサイド・ディメンション》第37話「灼炎と絶氷の季節の始まり」
*
灼熱地獄のような炎の夏の季節と、絶対零度のような氷の冬の季節が混合して、どうにもあべこべ感が拭えない百合世界は、次の帝との戦いに備えて、準備を始めていた。
「これは、おそらく炎帝と氷帝の仕業ですよ」
メロディが、そう言った。
「あたしたちのレベルを九十九にしなければ、帝との戦いで勝てませんです」
ユーカリが、そう言った。
エンプレシア騎士学院の技術とオレのプログラミング知識を利用して、火の民と水の民が二体の帝の邪気を払って、その民たちは、なんとか回復できるようになった。
でも――。
「騎士学院にいても、こんなに夏と冬の季節が交互にやってくるなんて、やだなあ……」
……と、オレはつぶやく。
そう、この現状は、なんとしても早く改善しなければいけない。
すぐに行動を開始しなければ、この百合世界は炎と氷の季節に突入してしまう……というか、現にしている。
「では、今回の炎帝と氷帝が同時出現しているという状況に対してですが、どう行動すればいいと思います?」
アスターが、そう言った。
「そうだな……。じゃあ、二手に分かれて行動するというのは、どうだろうか?」
オレが、そう言った。
「確かに、そのほうがいいかもしれませんわね。いきなり二体の帝が現れてしまったんですもの。今回のことは、しっかりと対策を立てなければいけませんわね」
マリアンが、そう言ったが、こういう場合、どうしたらいいのだろうか?
「帝はHPが一のとき、同属性の攻撃で倒さなければいけないという条件があるから……メロディは火の民だから炎帝のところへ行く……ユーカリは水の民だから氷帝のところへ行く……のは確定だな。あとは、この二人に誰が付くべきなのか?」
オレたちは、ひたすら考える。考え続ける。そして。
「オレとアスターはレベル九十九だ。ならば、このふたりは別れても問題ないだろう。それでマリアンとチルダは……」
「わたくしはアスターとユーカリのところへ行きますわ。チルダはチハヤとメロディのところへ行ってくださいまし。そのほうがチルダの能力を知る手がかりになると思いますの」
「わかった。それでいいか、チルダ」
「はい。わたしは問題ありません」
「なら、決定だな。同時に火のエルフと水のエルフを捜索する。みんなで行こうぜ」
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「で、オレとメロディとチルダの三人はサウスキャニオンへ向かうってわけだ」
「そうですよ」
「わたしたちはレベルを九十九も上げなければいけませんのに」
「そうだな。そうしなければ炎帝にも氷帝にも勝てない。だから、ひたすらレベルを上げていくぞ! そして、火のエルフを発見するっ!」
「はいですよっ!」「はいっ!」
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「わたくしたちはウエストレイクに行くというわけですわね」
「そうですです」
「私とマリアン女王さまとユーカリは水のエルフを探していかなくてはならない。レベルを九十九に上げなくてはならない。だから、ひたすら魔物を倒そう。レベルをMAXにしなければ、帝は倒せないのだから」
「ええっ!」「はいですっ!」
*
ここからは地獄のような出来事ばかりが起こってしまっていた。
オレとメロディとチルダは、あの灼熱地獄の炎のもとへ向かい、マリアンとアスターとユーカリは、あの絶対零度の氷のもとへ向かった。
すると、どうだ?
火のエルフの捜索と水のエルフの捜索は約一ヶ月をかけた調査となった。
一向にエルフの捜索に困難を極めてしまった。
なぜなら、エルフは本来「森人」と呼ばれ、森に住む種族であるというのが、通常のエルフの情報である。
アリエルは、そのセオリーに当てはまるから、見つけるのは、たやすかった。
だが、火のエルフと水のエルフと地のエルフの生息地がどこか、と言われるとイメージがつきづらい。
それは、もはやエルフと言われるモノなのか?
オレには見当もつかなかった。
捜索は難航を極めるばかりだ。
ただ、この蒸し暑さは、本当の意味で灼熱地獄だった。
サウスキャニオンは本当の意味で暑く、クラクラするものだった。
通信で知ったことだが、アスターたちも別のベクトルで大変らしい。
身が凍えるような絶対零度の氷がアスターたちを襲った。
ウエストレイクは、あのころに泳いだときとは違い、湖全体が氷で覆われている。
オレたちは、どこへ向かおうとしているのか?
それさえも今のオレたちには、よくわからない。
*
それでオレたちは結局どうしたというと、とにかく最果ての場所へ向かうための努力をした。
最果ての場所――最南端と最西端……断罪の壁のある場所だ。
そこには確実に炎帝と氷帝が存在し、また断罪の壁を破壊する活動をするだろう。
その前に火のエルフと水のエルフを発見する。
それができなくては炎帝と氷帝を倒すことはできない。
灼熱地獄の炎の季節と絶対零度の氷の季節からの解放を最優先しなければいけないのに……。
……そうだっ!
なんで、もっと早くに気づかなかったのだろう。
オレはアリエルに通信を試みた。
「もしもし、アリエル?」
『はい、アリエルです。チハヤお姉さまですか?』
「ああ、ちょっと気になったことがあってな……アリエルって、ほかの属性のエルフの居場所を感じることはできるか?」
『やったことはありません……ですが、わたしの持つ風玉の指輪なら居場所を察知する機能があるかもしれません』
「わかった……じゃあさ、アリエルの遺伝子データと風玉の指輪のデータをオレに転送してくれるように名誉生徒会長にお願いしてくれないか? よろしく頼む」
『わかりました』
「じゃ、またな」
『はい――』
――……おっ、早速来たな。アリエルは判断が早い。
「チハヤさま、なにかするつもりですか?」
メロディが質問してくる。
「ああ、火のエルフと水のエルフを引き寄せる作戦を考えついたのさ」
「どういう作戦ですか?」
チルダがオレに聞く。
「アリエルと似た気配を探る作戦さ。今から風玉の指輪のデータを利用したエルフ探知機を作成する。それを使ってエルフを見つけるのさ」
オレは早速、エルフを探知するレーダーを空想の箱で作成した。
「おっ、反応があるっ! これをアスターたちにも転送しよう」
「はいですよっ!」「はいっ!」
*
アスターたちにもレーダーを転送した。
これで火のエルフと水のエルフが見つかればいいのだけど……。
オレたちはレーダーの反応がある場所へと向かった。
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