LSD《リリーサイド・ディメンション》第41話「複製計画《クローン・プロジェクト》」
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――のちにオレたちが知った話。
オレたちが炎帝と氷帝を戦っているとき、名誉生徒会長――フィリス・セッジリーは、ある計画を実行に移そうとしていた。
フィリス・セッジリーは、よく自分が使っている研究用のラボで、ユリミチ・チハヤに代わる救世主を生み出そうと実験を繰り返していた。
名誉生徒会長という称号はフィリス・セッジリーがエンプレシア騎士学院を卒業したことによって付けられた役職だ。
卒業したあとはエンプレシアの正式な騎士になるか、または得意なことに対する役職につくことになる。
「私に残された時間は、あと一年。薔薇世界の呪いの解除は、おそらく四帝を倒すこと。それができるのは救世主だけだ――」
――確かにユリミチ・チハヤは神託の間に記された救世主――勇者になる存在なのかもしれない。
だが、オレ――ユリミチ・チハヤは一度、死んだ。
エンプレシア騎士学院の生徒たちの願いにより生成された白百合の布がなければ、その命を百合世界に顕現することはできなかった。
「私にできることは、人工的にユリミチ・チハヤを超えたクローンを生成し、新たな神託者として、この世に生誕させることだ――」
――神託の間に顕現する名は……アリーシャ・クラウン・ヘヴンズパイル……あらゆる生命の頂点に立ち、すべてを超える高貴なる者だ。
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エンプレシア騎士学院の全生徒で放った灼炎十絶氷之二百合斬により、炎帝と氷帝は完全に消滅した。
こんなにもあっけなく帝クラスの魔物を倒すことができるなんて、昔のオレたちからしたら考えられなかった。
なぜ風帝は、あそこまで――雷帝、双帝、合帝、魔帝に――進化することができたのか?
あの戦いから、そんなに時間は流れていない。
なのに、どうしてオレたちの成長スピードは加速し始めたのだろうか?
まるで、なにもかもが仕組まれたもののように……。
「……炎帝と氷帝は撃破した。セントラルシティに戻るぞ」
『はいっ!』
オレたちは集団で空のエレメントの空想の箱で瞬間移動した。
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「フラミア、ミスティ、ここがセントラルシティだ。エンプレシアは、キミたちエルフを保護する」
「ありがとう、チハヤ。あたしとサラは、ここにいていいんだな」
フラミアのパートナーであるサラマンダーのサラもセントラルシティに連れてきた。そういう約束だったから。
「わたくしの湖も想形空間で、いつでも湖の生き物と会えるようにしてくれたこと、感謝いたしますわ」
今となっては忘れていることかもしれないが、想形空間は空素で形成された空間のことだ。想形空間はイメージによる連動をすることができる。これでウエストレイクの生き物たちといつでも会える。ミスティは湖の生き物とコミュニケーションすることが唯一の癒やしだったのだ。だから湖の外へ出ることを嫌がっていた。
「チハヤお姉さまっ!!」
「アリエルっ!!」
「まだ脳のダメージが治っていないのに帝と戦うなんて無茶だと思いましたが……本当に、ご無事でよかった……!!」
「アリエル、ありがとな」
「で、そこにいますのは……どなたですの?」
「ああ、紹介するよ。赤いほうがフラミア・フレーミング。青いほうがミスティ・レインウォーター。アリエルと同じ特殊なエルフだよ」
「よろしくな、アリエル」
「よろしくでございますわ、アリエルさん」
「あっ、わたし、アリエル・テンペストです。フラミアさん、ミスティさん、よろしくお願いします」
「アリエルとフラミアとミスティは同じ特殊なエルフだから仲良くしてくれよ。まあ、アリエルのおかげでふたりと出会うことができたんだ。アリエルには感謝してる」
「そんな……もったいないお言葉です」
「三人はオレに恋する仲間だから、どうか喧嘩だけはしないでくれよ」
『…………』
「あれ?」
「そもそもチハヤお姉さまは後宮王なんですから嫉妬なんかしませんよ。堂々と胸を張ってください」
「わたくしもアリエルと同じ意見ですわ。王たる者は、すべての者を管理する必要があります。だから、大丈夫なのですわ」
「あたしも、なんで薔薇世界の魔物たちと同じ臭いがするのか、なんて正直、嫌な部分はあったよ。だけど、それが『男』という生き物だから、というのがわかって、意味を理解したらさあ……唯一の男であるチハヤが百合世界の中心にいて当然だということがわかるのさ。だから、いいんだよ、それで」
「アリエル、ミスティ、フラミア……ありがとう。オレ、みんなを守れるような後宮王になるから……だから、もうひとりのエルフを絶対に見つけてみせる! 一分一秒でも早く薔薇世界の呪いからキミたちを解放するっ!!」
「はいっ!」「ああっ!」「ええっ!」
「アスター、マリアン、メロディ、ユーカリ、チルダ、聞いてるか。オレは……やるぞ」
「もちろんだ、後宮王。私も、私にできることをやってみせるぞ」
「わたくしも、このエンプレシアの女王……いえっ、女帝として、できることをいたしますわ」
「わたしも全力で、お手伝いいたしますよ」
「あたしもです!」
「わたしも、幽霊、もどき、ですが、やれることはやっていきます」
「よーし、じゃあ、やっていこうぜ! みんなで!!」
『了解!!』
オレたちはエンプレシア騎士学院に戻っていった。
*
エンプレシア騎士学院に戻った……のだが、突如、神託の間から光が放出される。
アリーシャ・クラウン・ヘヴンズパイルという、新たな神託者の誕生する瞬間だった。
名誉生徒会長はエンプレシア城のバルコニーで、ある発表をエンプレシア騎士学院の全生徒におこなっていた。
「私は名誉生徒会長、フィリス・セッジリー! アリーシャ・クラウン・ヘヴンズパイルの生みの親だっ!!」
フィリス・セッジリー……オレは今まで、彼女を「名誉生徒会長」としか認識していなかった。
けど、今、バルコニーにいる白衣を着た彼女が、その「名誉生徒会長」だということがわかる。
「アリーシャ・クラウン・ヘヴンズパイルはっ! 人工的に作られたユリミチ・チハヤのハイブリッドクローンであるっ!! 彼女こそがっ! 新たな後宮王……いや、後宮女王として、この百合世界《リリーワールド》に顕現したのだっ!!」
名誉生徒会長――フィリス・セッジリーは、オレに目を向ける。
「アリーシャ・クラウン・ヘヴンズパイルは、ユリミチ・チハヤの髪に刻まれた遺伝子をもとに、このエンプレシア騎士学院の全生徒の情報をっ、重ねに重ね、積み重ね、すべてを統合した集合体として、この世界に生を受けたっ!」
オレたち――エンプレシア騎士学院の全生徒には、名誉生徒会長――フィリス・セッジリーが、なんの目的で、こんなことをやっているのか、よくわからない。
「ユリミチ・チハヤっ! いや、未来の勇者――チハヤ・ロード・リリーロードっ!! まだ王の座に居座るつもりなら仕方ないっ! 決闘だっ! このエンプレシアの王の座をかけて、|女王百合の剣を持つアリーシャ・クラウン・ヘヴンズパイルと戦えっ!!」
オレは、どうしたらいいのか、わからなかった――。
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