LSD《リリーサイド・ディメンション》第39話「炎帝と氷帝」
*
――最南端と最西端の断罪の壁から現れたのは(最南端の壁から)炎帝と(最西端の壁から)氷帝だった。
オレとメロディとチルダとフラミアは炎帝を、アスターとマリアンとユーカリとミスティは氷帝を見上げていた。
オレとメロディとチルダとミスティのいる場所は、ひたすら熱気とマグマの影響を受けており、とてもじゃないがクラクラしてしまう。
対してアスターとマリアンとユーカリとミスティのいる場所は、ひどい冷気と氷の影響を受けている。
この状況を打破するためには、熱気と冷気を避けた場所に転移するしかない。
「いくぞっ、アスター!」
『ああっ!』
オレとアスターは空のエレメントの空想の箱を開錠する。
『!』
炎帝と氷帝は空のエレメントの空想の箱の光に包まれる――。
――転移は完了した。
最南端と最西端の中間に位置する場所――マグマと氷が混ざり合う場所で炎帝と氷帝を同じ地点に転移させた。
もちろんオレたちもだ。
最南端にいたオレ、メロディ、チルダと最西端のアスター、マリアン、ユーカリも同時に移動した。
空のエレメントの空想の箱はチルダの霊化能力から抽出されたもので、つまり、それはワープを可能にするものであった。
オレたちと帝たちは最南端と最西端の断罪の壁の間に位置する場所まで転移した。
地のエレメントの空想の箱の大地生成効果により、なんとか足の踏み場のあるオレたちは炎帝と氷帝を目の前に心の中の決意を固くする。
「おいっ、おまえらっ! 目的は、やっぱり百合世界の征服かっ! どうなんだっ! 言ってみろっ! 風帝みたいにしゃべれるんだろ?」
『…………』
「なんか言ったらどうなんだ?」
『…………』
「あれ?」
「チハヤさま、わたしが思うに炎帝と氷帝は風帝と同じように意思の疎通ができないのでは、と思いますよ?」
「メロディ、そうなのか?」
「だと思いますのですよ」
「そうか?」
オレは風帝と似た赤色の鎧を身に着けている炎帝と、その帝たちに似た青色の鎧を身に着けている氷帝を睨みつける――。
――が、その瞬間、炎帝と氷帝が行動を開始した。
『…………』
風帝が出した風家臣と似たような魔物をそれぞれ三体ずつ出した。
「炎家臣と氷家臣というところか。じゃあ、こっちもいくかっ! みんな空想の鎧を着装しろっ!!」
『了解っ! 空想の鎧、着装《ちゃくそう》!!』
アスター、マリアン、メロディ、ユーカリの順に鎧を身につけていく。
「紫苑の鎧!!」「聖母黄金花の鎧!!」「花蘇芳の鎧!!」「有加利の鎧!!」
オレはチルダにも二種の空想の箱を手渡す。
「透百合の剣と透百合の鎧が入っている空想の箱だ。使ってみてくれ」
「わかりました。これでわたしも――」
――チルダは決意を固くし――。
「――咲いて! 透百合の花よ! 空想の箱、開錠っ! 来て! 心器――透百合の剣っ!!」
――自身の心器である透百合の剣を装備し――。
『ユリミチ・チハヤの契約を承認しますか? YES OR NO』
――魂の結合のポップアップウィンドウを見て――。
「YES! 承認!!」
――オレとチルダは合意して――。
「空想の鎧、着装《ちゃくそう》っ! 透百合の鎧っ!!」
――桃色の鎧を身につけた。
「これでチルダも、オレたちの仲間入りだ」
オレは魂の結合の脳破壊の対策案をみんなに言う。
「今のオレの状態をみんなは理解しているだろうけど、言っておく。魂の結合はオレの脳にダメージを与える。それは常時APの共有ができないということだ。だからオレは考えた。みんながレベル九十九になれば、そこまで共有が必要ないのでは、と。今から騎士学院の全生徒をこの場所に転移させる。そして、このプログラムを実行するっ! 空想の箱、開錠《かいじょう》っ!!」
騎士学院の全生徒はオレたちのいる場所まで集まった。そして、もうひとつの空想の箱を開錠する。
「空想の箱、開錠《かいじょう》っ! これで騎士学院の全生徒はレベル九十九になった。いくぜっ!!」
地のエレメントの空想の箱で騎士学院の全生徒の足場がある。これなら、どの位置にも移動ができ、どの場所からも攻撃が可能だ。
「空想の眼……起動! ……やはり二体とも風帝と同じ条件か。HPが一になった場合、同属性でレベルが九十九の攻撃が必要である――この攻撃がなければ倒すことができない。なら、メロディ、ユーカリ……やるぞっ!!」
「はいですよっ!」「はいですっ!」
メロディとユーカリには、ある空想の箱をプレゼントしてある――。
『――空想の箱、開錠《かいじょう》っ!!』
「心器――花蘇芳の杖っ!!」「心器――有加利の指金具っ!!」
メロディには杖を、ユーカリには指金具を与えた。
これで戦力は十分だ。あとは――。
「フラミア、ミスティ……オレに恋してくれっ!!」
「はあっ?」
フラミアは当然のように疑問符を付ける。
「どうして、あたしがおまえに恋しなきゃいけないのよっ!!」
「それは、わたくしも同意です。どこにあなたに恋をする要素があるのですか?」
なかなか手厳しいな、おい。
「わかったよ。じゃあ言うぜ。オレはキミたちが好きだ。オレのハーレムに入ってもらうぜ」
「なんでよっ!」「なんでですの?」
「オレはキミたちを絶対に守るっ! だから一緒に、この世界を守って救おうっ! 約束だからなっ!!」
「本当に、そうするつもりですの?」
「そうだぞミスティ……オレは、やるっ! やると決めたら、とことんなっ!!」
「おまえみたいな怪しいやつ、信用できるものか。だけど、まあ、さっき世界を救うって約束してしまったしな。わかったよ。恋、するよ、おまえに……」
「ありがとう、フラミア。ミスティもいいか?」
「この世界を終わらせるわけにはいきませんもの。わたくしにできることならなんだっていたしますわよ」
「ミスティ、ありがとな! じゃあ、やってやろうじゃねえか!!」
オレたちは炎帝と氷帝と戦う覚悟を決めた。
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