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【読書感想文】燕は戻ってこない

手に取ったきっかけ

貧困の女性が、風俗やパパ活など性を売って生活しているというニュースをここ10年よく聞くようになった。またコロナが流行したことで、この流れが加速したように感じる。以下はそのうちの一つ。

このような話を聞くようになってから、究極の水商売が「子宮を売ること」と知った。今は実際の話を聞いたことはないが、合法でなくても「代理母(=子宮を売ること)」を余儀なくされる女性も増えてくるのではないかと考えている。

内容

この身体こそ、文明の最後の利器。
29歳、女性、独身、地方出身、非正規労働者。
子宮・自由・尊厳を赤の他人に差し出し、東京で「代理母」となった彼女に、失うものなどあるはずがなかった――。
北海道での介護職を辞し、憧れの東京で病院事務の仕事に就くも、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。「いい副収入になる」と同僚のテルに卵子提供を勧められ、ためらいながらもアメリカの生殖医療専門クリニック「プランテ」の日本支部に赴くと、国内では認められていない〈代理母出産〉を持ち掛けられ……。

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読んだ感想

とてもテンポが良く、読みやすかった。しかし、文脈に隠れる登場人物の感情を考えると、とても複雑な心境になる。私が注目した点は2つ。

1つ目「東京での貧困層の状況がとても解像度が高い」

主人公の1人であるリキとその友達のお昼ご飯の様子や、少ないお給料でやりくりするために数十円単位を節約する様子など、夢を持って上京してきた人たちの苦悩や様子がとてもよくわかった。
最悪、水商売で稼げると思ったら現実は甘くない。多くの人が水商売や風俗などに参入していることで、男女共に値が下がっているらしい。成功している人は、どこの業界も一握りなのかもしれない。

主人公のリキのような人たちは、その日暮らしで精一杯のため将来のために勉強や貯金をするなんて難しいのが事実。しなければいけないという気持ちはあるが、それを行動に移すのはとても大変なこと。毎日疲れて帰ってきて、少しのお金を使うのにも考えないといけない。余裕がない毎日。
東京でお金の心配をせずに生きていける人たちは、少ないのだろう。

それなのに政府は「投資」を推奨しているのが不思議だ。確かに日本のタンス預金額は、107兆2,394億円と言われている。

その分が、投資に回ったら経済が発達するのは理解できる。しかし、数字だけ見て政策を決めるのは違うと思う。もっと現実を見て政策を立ててほしい。

またSNSの影響で、贅沢している人の様子やいわゆる「勝ち組」の生活を簡単に覗き見ることができるようになったことで、「自分は恵まれていない」「羨ましい」というネガティブな感情を抱きやすくなっている。
ちなみに、インスタグラムが若者の心に与える不安感や孤独感、いじめ、外見への劣等感など否定的な影響が、他のSNSよりも高かったというデータもある。

この本はフィクションであるが、大都市に住んでいる若者はうまく住み分けされていること(大都市で生まれ育ち、近くに頼れる実家があるかないか)に改めて気付かされた。

2つ目「代理母について」

この本はお金の心配をしなくて良いが、子供が欲しいけど自分では産めない妻と、お金が無く子宮や母性を売ることでお金を得られる主人公の女性の2項対立で書かれている。
それぞれの女性の置かれている心境や立場などが、出産に近づくにつれて変化していく様子が生々しかった。

日本では代理母が法律で認められていない。出生した女性が母親として認められるため、他人が産んだ子供は自分の子にはならない。
しかし、世界的には様々な法律が取られている。

2021年までの各国の代理母の現状

その2人の女性の間にいる主人公である男性(自分の遺伝子を残したいが、妻に生殖能力が無く代理母にお願いしようと提案した本人)にはかなりイライラさせられる。
なんて自分勝手なのか。これが子供を産まない男性が思っている本心なのかと呆気に取られることもあった。やはり子供を産む側と産まない側には大きな壁があることを再認識させられた。


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