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第1章 はじまり 1-1.自分の”なぜ”を中心に据える

※ノートのタイトルを改題しました。

2007年11月某日。その日、私は初めて、その大学の教室に向かった。
その大学ではシンボリックな、10何階か建ての大きな建物「文系センター」の上部階の教室だったと思う。
この日から4回コースで、私は、大学生対象の課外プログラムを回すことになっていた。
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私は当時、3度目のフリーランスになりたてという時期だった。
子どもの病気や企業の理由で4回のリストラに会い、自分でNPO法人を立ち上げたり、その法人を出て新しいNPO法人に就職するも、からだを壊した。私自身、何度も自分の思いや「なぜ」に向き合っての果てに、3度めのフリーランスという道を選んでいた。

講師の仕事はその6年前位から、「文章を書く」「秘書資格講座」「マナー」「コミュニティビジネス」「就職対策」あたりのテーマで、専門学校や高校、その他自治体や教育系の企業主催セミナーの講師をしていたので、教えるという経験はそこそこ積んではいた。

私にとって初めての教える経験は、医療系の専門学校で「日本語技術論」という、いわゆる「てにをは」を教えることからだった。

地方のタウン情報誌で編集ライターの経験があった私は、いい経験だから位の感覚で講師の道に入ったのだ。たまたまだった。
その時の先生からの依頼はこうだった。

「最近の学生は、文章を書けない子が増えてきた。レポートを書かせても専門部分以前に文章として成り立っていないことが、現場の先生方のなかでも問題となった。新設で日本語の授業を作るので、普通に仕事で文章を書ける人に教えてもらいたい。」

私は教師免許を持っていないが、「そういうことなら。私でもいいのなら」と受けたのだったが、ふたを開けてみれば、そこは未知の世界だった。
今思えば、そこは現代の課題のある現場だったのだ。

学生たちは、高卒から社会経験のある方までという少し広めの年齢層だった。
社会経験のある、年齢の高い(といっても20代後半が最高年齢)子たちはある程度語彙力もあるし、そこそこは書ける。が、一番層の厚い高卒組が手ごわかった。

高卒組は、例えば「私の好きなものは、メロンとバナナです。」と書き始めるが、その後に続くのはメロンのことだけ、そんな文を書く子が実際とても多いのだ。
これが依頼の時にあった「専門部分以前に文章として成り立っていない」というやつかと愕然とした。しかも、書いた本人はあっけらかんとしていて、何を指摘されているのかピンと来ていない。説明すれば理解はしてくれるのだが、いざ書くとなるとどう書けばいいのかがわからなくなるようだった。

それで、先ずは国語の授業のようなことから始めてみた。
基本的なこと、例えば文章は筋を通して書くことだとか、起承転結・序文本文結文とか、文体を統一するとか、主語と述語は対応させるとか、修飾語と被修飾語は近くに置くことだとか、、、そういうことをザーッと一通りやってみた。
すると、カタチにはなってきた。
カタチにはなってきたが、なぜかみな同じような文章ばかりになる。
お題は、自分なりのオリジナルが出るように「私の好きなもの」とか「私がこの学校に入った理由」だとか書きやすいものにしているのに、できた文章は、似たようなものになる。金太郎あめ状態だ。

「私がこの学校に入った理由」で書かせた時に、それが顕著になった。
社会人経験のある子たちは、その経験をうまくエピソード化できる。
だが高卒の子たちは、高校3年間→専門学校という経験しかかけないため、時間経過をエピソード的に書くとどうしても同質化してしまう。

私が教えていたのは、言語聴覚士コースの子たちだった。
言語聴覚士になりたいという思いをそれぞれが持ってきているはずなのだ。そこには人数分の「なぜ」があり、人数分のその子ならではの思いやそれにまつわるエピソードがあるはずなのだ。

彼らの文章の状況から、結局「なぜ」がやはり重要なのだという結論に達した私は、そこから彼らの「なぜ?」を掘り、書かせることを意識した授業を始めた。

文を書く本人が、「何を伝えたいのか、それはなぜか」を自分で意識しなければ、その子らしい文章は書けない。
逆に言えば、それさえはっきりすれば、多少、てにをはが間違っていても、文体が統一されていなくても、思いのある、伝わる文章になる。

この専門学校での講師経験が、その後私が文章の書き方をはじめ、生き方を考えるベースには、「自分の”なぜ”を中心に据える」ことが一番大切だ、と確信するきっかけとなった。

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そんな話を、某私立大学の教授T先生にしたのがきっかけで、私は大学生を対象に課外プログラムの講座を担当することになったのだった。
これが、最初の「書く力をつけるプログラム」だ。
この時には、これが10年以上も続くプロジェクトになるとは思ってもいなかった。

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