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3-4.自分の感性をみつめるP④

レゴブロックを使うワーク

教育用レゴプログラム(シリアスプレイ)はMITのパパート教授が提唱する構成主義(コンストラクショニズム)に依拠する。
構成主義はピアジェの構築主義(コンストラクティビズム)の発展理論である。構築、構成主義では、新しい知識は既存の知識体系と融合して新しい知識体系を構築する、故に既存の知識体系が邪魔をする限り新しい知識体系は生まれにくいと考える。
たとえば、子どもは、経験から学び自ら構築した知識体系に強く規定される(コップに入った水量をコップの丈の高さで測ることを知った子どもは、コップの形状が違うと、その計測方法が使えないことに気づかない)。

レゴブロックを使うプログラムは、既存の知識体系(固定観念、先入観)を揺り動かすことで、わたしたちのイメージや言葉が自在さを獲得することが体験できるように設計されている。別の言い方をするなら、わたしたちのなかにある、イメージや言葉の豊かな鉱脈に、わたしたちは、日頃、気づかないまま生活していることに気づかせてくれるのだ。
大学生も混じるグループに分かれた高校生に、「いま、あたまに浮かんだ動物をレゴを使ってつくってください」と指示。動物をつくり終えた段階で、「実は、いまつくった動物は「あなた」です」「その動物のどこが「あなた」なのかを説明してください」とのサプライズの指示をだす。

まずは、グループ内で、レゴでつくった動物を指し示しながら、どこが自分なのか、自分のどういうところがレゴでつくった動物のどこに反映されているのかを発表してもらった。口ごもる高校生、ことばがなかなかでてこない高校生もいれば、巧く解説する高校生、ことばを巧妙につむぐ高校生もいる。

グループ内の発表が終わると次は、各グループごとに2名選んでもらい、参加者全員で発表を聞くことにした。書くPでは「共有」がキーワードである。「気づき」は、他者との関わり(他者の話を聞く、他者と対話する、他者に話しかける等)を契機に誘発されるからだ。また、他者との関わりを通じて、「気づき」は腑に落ちる形にまで深まる可能性が高いからだ。

シートを使うワーク

「こたえは自分の中にある」としても、自分の中にあるこたえ(考えや思い)を他者に伝えたり表現することに、わたしたちは心理的な抵抗が働く。その結果、他者の「こたえ」(教科書に書いてあるような、普遍的なこたえ。普遍的なこたえは、ある限られた条件の下でしか成立しないので、実社会で求められることはほとんどなくなる)を志向し、借りもので済ませようとする。
他者のこたえを活用することが求められる場面もあるので、一概に、そのことは否定できない。
ただし、問題は他者のこたえに頼る思考に慣れすぎたり疑問を感じなくなると、こたえがない課題に対する対処能力が育たず、社会に出た途端、自分の軸足や足場を失うリスクに直面する。

今回の修猷館Pでは、感覚という自分だけのものが自分の考えや思いとつながっていること、「自分の頭で考える」「自分のことばで語る」「自分なりに表現する」とは自分の感覚を掘り起こし言葉にすることに他ならないことを、高校生に気づき腑に落としてもらうためのワークを実施した。
大学生は、シートベースでイメージし練ってきた対策や役割分担を念頭に、高校生をファシリテートするワークに取り組んだ。

振り返り(ラップアップ)

書くPは、プログラムの最後の共有を振り返り(ラップアップ)として実施する。高校生17名に大学生7名を加えた24名のメンバーが90分のワークを振り返った。高校生は、社交辞令的なあいさつやお茶を濁す賛辞、言質をとられない「はぐらかし」型の感想を一切排した、自分のことばで感想や気づきを語ってくれた。

以下、参加した大学生の振り返り。

・一人ひとり表現の仕方が違う
・同じ経験をしても、感じ方、表現の仕方は違う
・自分の中にこたえがあるということを再確認した
・感情と関係ないと思っていた箇所を聞いてみると面白い返事が。感情と結びつきが強い文になった。
・決めたことにこだわらず、その場対応に主軸を置いた。
・高校生は自分で考えた自分の言葉でしゃべっていた。反して言えなかった自分を反省・後悔。
・感想で驚いた。高校生は自分の頭に浮かんだことを正直に外に出しているように聞こえた。感想とは、自分が思ったことを素直に言えばいい、ただそれだけ。かっこよく言うことではなかった。
・高校生から得たことは、自分に素直になること。周りにどう思われようと関係ない、素直な自分をさらけ出し、恥ずかしがらずに表現できるようになること。そのためには普段から自分なりに何かを感じ取ること。
・決めつけは自分の中の感受性を狭めてしまう、相手の表現を奪う。
・自分の中にあるものと同じくらい、他の人の感情表現を大切にしなければ。
・普段から感じている感覚を知らぬ間に閉ざしていたんだ。

<担当の先生より>
「自分の中には宝物がいっぱい」という言葉、そしてそれを生徒自身に実感させ、自分発掘の手掛かりを作っていただいたことに、大変感銘を受けました。
能力もあり、順調に平穏に日々を送っているように見える生徒たちも、心の中にはいろいろな葛藤があり、自信を喪失していたり、どのように自己表現して言うかよくわからなかったりというのが正直なところではないでしょうか。
そんな生徒たち(実は私も)に、外との関係の中でたくさんのことを「感じ」、よくそれをみつめて、自分なりの言葉で表現して行けばいいのだと実感させ、勇気づけてくださったことに、本当に感謝しています。生徒の感想の中にも、大学生の皆さんの問いかけがとても有効だった、という声が多くありました。(後略)

<高校生のアンケート回答>


五感に目を向けるテーマは、大学生が自分を再確認するに衝撃のテーマだったようで、参加したメンバーの以降の思考の幅が幾分広がったようにみえた。これは私の肌感覚なので、証明するデータはないが、自分の中にある、見えないけれど確かなもの(私はそれを「宝物」と称した)が、自分の中にはあり、五感として確かに何かを感じている自分がいることを発見している。
自分には気づいていなかった自分らしさといえるものが実はあると思えることが、自己肯定の第一歩だと思う。このテーマは、書くPではあまり扱わなくなったが、自分理解のベースとなるテーマなので、今後機会があれば、一番取り上げたいテーマだ。


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