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対話における言語メッセージの重要性

 私たちが人に伝えるメッセージには「言語メッセージ」と「非言語メッセージ」とに分類されます。言語メッセージはその名の通り、口頭や文字による言葉で伝える方法です。一方、非言語メッセージはそれ以外のすべてを含むこととなります。例えば、動作、表情、視線、口調や声色、身体的特徴、服装や持ち物、距離感、におい、などが挙げられます。

 過去の様々な研究によって、コミュニケーションにの場面での情報伝達には、言語メッセージよりも非言語メッセージがより重要であることが明らかになっています。例えば、非言語によるコミュニケーションの研究者であるレイ・L・バードウィステルは、1対1のコミュニケーションにおいて、言語により伝わるメッセージは全体の35%にとどまり、残りの65%は非言語コミュニケーションにより伝達されるとしています。
 
 また、同様の研究としては、心理学者であるアルバート・メラビアンの研究があり、これは「メラビアンの法則」としてご存知の方も多いかもしれません。これによると、感情を伝えるコミュニケーションにおいてメッセージと非言語メッセージとの間に矛盾がある場合に、非言語メッセージで判断される割合が93%(うち視覚情報が55%)であり、言語メッセージによる判断は7%でしかないとされています。
 
 このメラビアンの法則は、しばしば「人は見た目が9割」などと言われる根拠となっており、非言語メッセージの重要性を強調する道具にされているのですが、多くの場合で注意が必要です。なぜなら、メラビアンの実験はあくまで、「好意・反感などの態度や感情のコミュニケーション」において、「メッセージの送り手が矛盾のあるメッセージを送った場合」に、「受け手は、話している内容よりも声の調子や身体言語といったものを重視して判断する」という事を言っているに過ぎず、全てのコミュニケーションにあてはまるものではないからです。
 
 いずれにしろ、非言語メッセージをおろそかにしていると、相手に誤ったメッセージを伝えてしまう可能性があり、メッセージを正しく伝えるためには、表情や態度といった非言語との整合性を意識することも大切であると言えるでしょう。

 さて、ここまで、コミュニケーションにおける非言語メッセージの重要性を見てきましたが、その上でも尚、「組織における対話」という場面を想定した場合に、主に以下の3つの観点で、他の場面に比べると明らかに、言語メッセージの重要性が高くなるのです。
 
①対話と言語
 まず対話とは、コミュニケーションのなかでも、「対話参加者それぞれの現状認識を確認し合い、その意味付けを更新していくことで、新たな未来を創造する取り組み」に特化したものであると言えます。
 ここでいう「現状認識」とは、表層的な事実ではなく、深層的な部分、つまり思考や感情その奥にある意志といった部分に存在します。対話においては、これを「外在化」する取り組みが不可欠であり、この外在化において中心的な役割を果たすのが「書く・話す」といった言語メッセージなのです。
 一度外在化した上で、必要に応じてそれを更新するのは、文字通り「別の言葉に置き換える」事が対話参加者のなかで共有される事が大切であり、その意味においても言語はまさに「架け橋」として大切な役割を担っていると言えるでしょう。

②働き方の多様化
 加えて、近年の組織においては、リモートワークをはじめとした「働き方の多様化」が進行し、コミュニケーションの質も大きく変化しました。これにより、これまで対面での同期型のコミュニケーションが中心だったところから、オンラインにる同期・非同期が混在したコミュニケーションに軸が移りました。
 オンラインでのコミュニケーションは、メール・チャットやグループウェアを用いた非同期型のコミュニケーションはもちろん、WEB会議室システム等による同期型のコミュニケーションであっても小さな画面で上半身が見える程度となってしまいました。いずれの場合も、非言語メッセージが果たせる役割が大きく減退していることは明らかであり、それはつまり、相対的に言語メッセージの重要性が高まっていることを意味します。

③組織でのコミュニケーション
 組織内でのコミュニケーションは、1on1などの施策や評価面談などを除けば、「1対1」よりも「1対多」ないしは「多対多」であることも多く、また上記の様に、物理的にも時間軸にも様々なオプションがあり、それが増えつつあります。(1on1の課題についてはこちらをご参照ください)
 このなかで、従来の組織内における対話の機会は、飲み会等の懇親の場や、移動中の会話、あるいは「タバコ部屋」での会話といった「余白的なコミュニケーション」の中で偶発的にもたらされていました。ところが、近年の組織において、リモート化や効率化によ個業化、自粛ムードの蔓延等々により、この「余白」が急速に失われてしまっており、結果的に対話の機会も消失しつつあります。
 そこで組織として取り組まなければならないのが「意図的な対話の機会の構築」であり、昨今の状況下においては、「リモートかつ非同期」での対話が求められており、当然ここでも言語の重要性が高まることはおわかり頂けるでしょう。

 以上の様に、とかくニューノーマルにおいては、非言語よりも言語によるコミュニケーションの機会が増えており、その重要性が高まっているという事が見えてきます。
 そして、この言語コミュニケーションについて、その能力を開発するために、またこれによる対話の場を醸成するために、当方が提唱する「構造的対話=ストラクチャード・ダイアローグ」が様々な企業で取り入れられ始めているのです。

 次回以降、組織開発、あるいはイノベーションやDXといった文脈においても「対話」が極めて重要な営みであり、これをストラクチャードダイアローグとして取り入れた場合の効果について、共有させて頂けたら幸いです。

 


 
 
 


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