快感が先に立って 誰も手に負えない気持ち

理解できない相手との関係のほうがやすらかだ、と思う。見抜きあっても、苦しいだけだから。うまく隠したと、お互いに思っていることが、双方にじつはバレている、なんてこと。気づいていないのは、自分だけだと思っている、なんて。

自分の誕生日にわたしの大好きなバレエ漫画、『ダンス・ダンス・ダンスール』(ジョージ朝倉)の最新刊が発売だったのに失念してて、きのう慌てて買いに行った。潤平・夏姫ペア、いつもは物凄くきらきらしてて大好きでみていてときめくのに、今回は断然!海咲・響さんペアのほうが魅力的だった。

潤平の、楽しいからやるだけ!みたいな、本能に忠実な感覚のほうに毎度共感してるんだけど、今回はそれは軽薄に見えた。海咲は潤平のこういうたぐいの無神経な無邪気さにいつもいつも煮え湯をのまされてきたから、やっと報われてガッツポーズきめてしまった。わたしやっぱ海咲がめちゃくちゃ好きなんだよな。

自分が一番大事にしてて喉から手が出るほどほしい立ち位置を、潤平は無自覚だけど夏姫には確実に、海外行くための踏み台みたいに使われてたからな。そら腹たつだろうよ。「思いつきで乗っかってきて海外と秤にかけとるやつに負けへんわ。おまえは何が欲しいんや?」。海咲のいうとおりだ。

潤平は天才だけど、完璧に感覚型・快楽忠実系のダンサーだから、海咲みたいに自分の実力と自分の欲望とをすり合わせた、実現可能な夢を描くことがまだできない。だから海咲が思い描いた目標や夢にいちいち、「いいな!」と言って乗っかってくるわけで。むかつくわなーそりゃ。自分より才能のある人間が、自分が考えて考えて考えた末の未来を軽率に「いいな!おれもそれになる!」とか言われたらさー。アホか!真似すんな!おまえはもっと自分の頭で考えろ!ってな。

そして圧巻は、迷いを捨てた響さんのこわいくらいの安定感。「海咲くん。」「オーディションまで待ってるなんてかったるいわ…」「今日、決めるわよ」。しびれた。かっこよすぎ。いま手元に本ないのでちょっとせりふの細部が違うけど御容赦。

私生活では腹黒ヤリチン仮面の海咲は、バレエに対しては至って真摯、誠実だ。その海咲が心から響さんに敬意を持って接してることは12巻からずっと描かれてて、今回、それが響さんに伝わってることがわかってメチャクチャうれしかった。そもそも美術館で海咲が買ってプレゼントしたポストカード、響さんちゃんと部屋の壁に貼ってたもんね…(12巻)。しかも、リハの日にちゃんと持ってきてくれるし…

このままラブには至らずに唯一無二のパートナーとしてこのふたりには突っ走ってもらいたい。いいんだけどねラブになっても。でも海咲はきっと、そのへんの線引はちゃんとするだろう、と思うのだ。賢いし、先見の明があるし、野心もあるし、洞察力も優れてるし、小器用だから。つくづく生川向きだな。綾子さん、ほんとうに、頼んますよ。潤平か海咲か、どちらかを選んでどちらかを切り捨てなきゃならなくなったら、海咲を選んでくださいよ。間違いなく生川の武器になるから。まあ、そんなこと言うまでもないだろうけど。

潤平、このさき、どうすんのかなあ。夏姫の言う通り、潤平はメンタル的にも踊り的にも海外向きな気がする。金銭的な面はスカラシップやスポンサーに支えてもらえるとすれば、あとは自分に合ったカンパニー、熱量があって、潤平を埋もれさせずに活かしてくれるカンパニーと出会えるかどうかだ。

そこだよな。潤平自身がすぐさま海外に行く決断をしないのも、生川からスカラシップ貰ってるからってだけじゃない。生川に魅力を感じてるから。

でも、「絶対」じゃない。

そこが、海咲と決定的に違う。潤平は、生川の他に、コレだ!というものを見つけたら、きっと義理も何もとっぱらって最終的には生川を離れてしまうだろうけど、海咲は絶対に離れない。すべては生川ありき。

あーはやく8月にならないかな。待ち遠しい。

余談ですが、この13巻は、椿屋の『シアトリカル』っぽいなと思ってこの感想文書きながらエンドレスリピートしてました。具体的にここの歌詞がどう〜とかじゃないけど、全体の雰囲気が。

★ダンス・ダンス・ダンスール (13) (ビッグコミックス) https://www.amazon.co.jp/dp/4098602814/ref=cm_sw_r_cp_api_i_ZhZ4CbD5NXFRB

★椿屋四重奏『シアトリカル』→ https://youtu.be/TdEpNUfSmvI

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