人が中心にいるから実現する、「当たり前」を変えるイノベーション創出とは

※このnote記事は、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース 「クリエイティブリーダシップ特論 第1回」(4月10日) の課題エッセイとして記載したものである。

RE:PUBLIC共同代表の田村大さんによる、イノベーションに関するプレゼンテーション内容を簡単に記載しながら、特に興味深かった点を中心にまとめていきたい。

田村大さんの簡単なご経歴はこちら!

“持続的にイノベーションが起こる生態系(=エコシステム)を研究し(Think)、実践する(Do)、シンク・アンド・ドゥタンク”であるRE:PUBLICや、”2009年に東京大学で始まったイノベーション教育プログラム”であるi.schoolを共同創設に携わるなど、幅広くご活躍されている方だ。


「イノベーションの建築家」と評される田村さんのミッションは、    『GoodなInnovationとは何かを追求していく』こと。

「イノベーション」と聞くと、つい「技術革新」や「社会の変革」などのイメージが先行してしまうが、実は最も重要なリソースは「人」だという。

こうした「人」というリソースに注目したユニークな取り組みとして、いま注目されているのが『Fab Lab(ファブラボ)』という取り組みである。

”ファブラボは、デジタルからアナログまでの多様な工作機械を備えた、実験的な市民工房のネットワークです。個人による自由なものづくりの可能性を拡げ、「自分たちの使うものを、使う人自身がつくる文化」を醸成することを目指しています。” (FabLab JAPAN HPより)

こうしたFab Labの概念は世界中で実践されているようだが、中でも2014年にバルセロナで発表された「FAB CITY」宣言(人口1万人につき1つのFAB LABを作る構想)は大変興味深い。

バルセロナを含むスペインの失業率が高いことは有名だが、当時は平均して40‐50%前後だったというから驚きである。

(IMFの推計によると、2019年4月現在のスペイン全体の失業率は19.6%となっており、状況が改善しているように見える。しかしながら、日本においては、2019年2月末時点で失業率が2.3%であることを鑑みると、依然としてかなりの高さであることが分かる)

こうした状況を踏まえ、「FAB CITY」宣言では、workshareではなく、「仕事をしていない時間にこそ、市民自らが作り手となり、何かを生み出そう」と、仕事がないこと事実を悲観的ではなく、むしろ肯定的と捉えたような発想が盛り込まれている。

実際、「Poblenou District」(様々な機器を使い、市民がノイズセンサーなどを開発できる場)、「SUPERBLOCKS MODEL」(市内の一定箇所を車禁止エリアに設定し、約6割の道路削減と歩道確保を達成)などの取り組みが実施されているそうだ。

いずれの事例も、市民による発明・発案が、実際に市民自身の行動変化を実現した点は共通していることに加え、非常に興味深い点がある。

それは、どちらの取り組みにおいても提案者は行政ではなく、「市民団体」であるということだ。これこそまさに、イノベーションの重要なリソースは「組織」でも「技術」でもなく、「人」であることの証明ではないだろうか。


田村さんが実際に携わったプロジェクトでも同様のことがいえる。

実際に佐賀県で実施された「ニューノーマル」(伝統的なものづくりと地域文化を現代の暮らしに取り入れて、佐賀独自の豊かな暮らしを創造していく活動)において、市民を中心に新しい普通を創る活動を実現されているが、

佐賀にあったのは、これまでにない革新的な技術でも、組織でもない。

あったのは、「何もない日常」である。地域にとって当たり前でしかなかった伝統的なものづくりと地域文化の関わり方を、市民自身が再デザインすることによって、地域の暮らしにおいて新しい価値・意義が見出された。

「何もないと思っていたけど、地元には意味があるものが多いことが多いことを実感できてうれしい」

ニューノーマルのイベントを通じて聞かれた参加者の声だという。地域に住む方の実感こそ、イノベーションの中心には「人」がいる証明と言えるような気がした。


ただ、もう一つ視点を加えるのであれば、イノベーションの重要なリソースは「人」というものの、それは「FAB CITY]や「ニューノーマル」などの取り組みにおいて、実際に手を動かす当事者だけではなく、アイデアやプラットフォームを提供する仕掛け人たる存在も不可欠なのではないだろうか。

こうした仕掛け人として働きかける上で、意識・工夫すべきことはどのような点なのか。

田村さんによると、

「新しいことを始める必要はないが、あくまで既存のサービス・技術を『今の時代に合わせて再編集する』視点を持っておきたい。地元に根付いていることだからこそ、当たり前となり、常識にとらわれて見えなくなっているモノも多くある。とりとめがないように見える事こそ、無限の可能性を秘めていることも少なくない」という。

また、面白いことをやっていても世の中に伝わっていないサービスもたくさんあるため、『仕掛け人という立場は、動機づけを行うメディア的役割を担う』ことも、心に留めておきたい点だった。


最後に、「なんとなく意味は分かったものの、体感できていないこと」を記載しておきたい。

◆モノ・サービスを使用することに留まらず、そもそもの意味や可能性を   見出せる社会こそ、本当の意味での「文化創造」

◆モノ自体は変わらないが、状況は変わるといった「意味のイノベーション」を起こすカタリスト(触媒)的役割

大学院での2年間は、様々なプロジェクトに参画することを考えている。 中心にいる当事者にもなりえるだろうし、はたまた第3者という客観的な立場で携わることもあるだろう。両方を行き来できる可能性があるからこそ、上記2つを体感することを意識し、研究していきたいと強く感じた。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?