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朝は必ずやってくる トルファンの夜 ーウイグルの人々は詩に希望を託す

 「故郷の人々は 老いも若きも 桑の実が落ちるように 涙を流す いつ夜が明けて 太陽が顔を出すのか 長くて暗い トルファンの夜 いつ朝になり 黄金の光がさしてくるのか 『来ないかもしれぬ』と案じて 騒ぐな 空は少しずつ明るくなり 夜が明ける」  ーアブドゥハリク「朝は必ずやってくる トルファンの夜」 http://miura.trycomp.net/?p=4413


トルファンのブドウ https://www.pinterest.jp/pin/376895062547986663/

 このように、ウイグル人の悲嘆や希望を表現したアブドゥハリク(1901~33年)は、1930年代にウイグル人の民族感情を鼓舞する詩作を著し、そのために中国の軍閥、盛世才の勢力によって捕らえられ処刑された。トルファンの町は、「シルクロード」のゴビ砂漠を行き来する者たちにとっては、まさに安息のためのオアシスで、隊商はこの町で疲れを癒したことだろう。

 1931年に中国が新疆に侵攻してくると、ウィグルの人々の抵抗運動が起こり、1933年から34年にかけてウィグル人の独立国家が成立した。独立した「東トルキスタン共和国」は、ウィグル人のナショナリズムによって創設された国家だが、盛世才の軍隊によって崩壊することになり、それ以後新疆ウィグル自治区では中国による統治が続いている。

ウイグルの踊り https://www.pinterest.jp/pin/314618723953273628/


 中国は過去に欧米諸国や日本から領土的進出を受けたという経緯から領土問題にはきわめて過敏といえるだろう。領土を絶対に保全したいという意識から縁辺の民族問題には常に神経を尖らさざるをえない。そのために民族浄化とも受け取られる政策をとり、漢族の少数民族地域への流入、それに伴う漢文化の影響拡大、さらに近年ではウィグル人たちを強制的に移住して経済発展の著しい中国東部に移住させることも行われるようになった。中国現代史研究者の水谷尚子さんの記事によれば、現在ウイグル人人口の2割から4割が「再教育キャンプ」に強制収容され、「愛国主義教育」と「漢語使用」を強要されているという。

 アメリカの東アジア戦略が日本の対中政策にも影響を及ぼしていくに違いない。中国では共産主義のイデオロギーが冷戦の終結とともに色褪せて、ナショナリズムや愛国心に訴える傾向が強く出てきた。自由や民主主義、人権といった価値観や倫理が異なる大国との付き合いは、日本外交にとっても重大な試金石である。


火焔山 トルファン市高昌区の東部 https://www.pinterest.jp/pin/464926361523775353/

アイキャッチ画像はウイグル人女優
迪丽热巴 Dilraba Dilmurat
https://www.pinterest.jp/pin/446560119293416219/

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