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相手の言うことにまず耳を傾け相手の立場を重んじるのがアジアの風土的特徴 ―愛は狭量なナショナリズムを圧倒する

 イランのハタミ元大統領は沈黙の中に寓意を読み取ろうとすることにおいてイランで信仰されるイスラム神秘主義と日本の仏教、特に禅には共通点があると2000年11月に来日した際に述べたことがある。言葉に絶対の信を置く西洋に対して、沈黙から多様な示唆や寓意を汲み取ろうとし、相手の言うことにまず耳を傾け相手の立場を重んじるのが東洋とアジアの風土的特徴で、禅とイスラムには底流において相通ずる精神と思想が流れていると語った。

モハンマド・ハタミ『文明間の対話』 https://infact.press/2022/06/post-20146/


 人々が心の中に神の愛を感じ、また自我を否定することによって平和を築こうとするのがイスラム神秘主義である。イスラム神秘主義の根幹にある精神は中庸と寛容(愛)であり、この点でも日本で信仰される仏教の教えに通底するものがある。

あなたがなすべきなのは、愛を探すことではなく、あなたの中で愛に対して築いたすべての障壁をただ求め、見つけ出すことなのだ
―ルーミー(ペルシア文学史上最高のイスラム神秘主義詩人と形容される)

拙著『イスラムがヨーロッパ世界を創造した』の帯文


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「友には友情、敵には譲歩、現世来世の安らぎは、この二つを心得てこそ」-イランの詩人サーディーの言葉

 サーディーは「何よりも重要なのは、後に引けなくなるような対立に至らぬよう、必ず歩み寄りの余地を残しておくこと。暴力的手段に訴えるのではなく、相手に対して寛大さを示すことが説かれる。」と説いた。(清水直美「実践道徳」『イランを知るための65章』明石書店)サーディーの考えは、アラブ、モンゴル、現代ではサダム・フセインのイラクなど外敵の侵攻を受け続けたイラン人の知恵といえるだろう。実際、イランは200年以上他国の領土を侵したことがない。

 それに対して、シリア・ダマスカスのイラン大使館を爆撃するなど、イランとの緊張を煽っているイスラエルはシオニズムというナショナリズムに基づいて成立した国で、このナショナリズムには本質的に異質な他者を時に暴力を使ってでも排除する傾向がある。

 東南アジアをフィールドとする人類学者ベネディクト・アンダーソンは、「(国民という)この同胞愛の故に、過去2世紀にわたり、数千、数百万の人々が、かくも限られた想像力の産物のために、殺し合い、あるいはむしろ自ら進んで死んでいったのである。」(ベネディクト・アンダーソン『増補 想像の共同体――ナショナリズムの起源と流行』白石さや・白石隆訳、NTT出版)と述べている。このアンダーソンの言葉は、シオニズムというナショナリズムに訴える国家であるイスラエルのガザ攻撃のすさまじさを見ればよくわかる。

ベネディクト・アンダーソン『増補 想像の共同体』 https://paypayfleamarket.yahoo.co.jp/item/z249234772


 サーディーは正義に関する、下のような詩を遺しているが、ネタニヤフ首相は自らの保身や権力維持、政治的延命のために、無辜の子どもや女性の殺害もいとわないガザ攻撃を継続している。彼が推進する戦争には微塵の正義を感ずることはない。ネタニヤフ首相が正義を行わないにしても、国際社会の圧倒的多くの部分には正義の感覚は根づいていて、サーディーの詩のように、パレスチナ問題でもいつか正義が実現されることを信じていたい。

     力ある腕とかぎ爪の力により
     力無き貧者のかぎ爪を打ち負かすのは過ちである
     謙遜する人々に与えぬ事を恐れぬのか?
     躓く時に誰かがその手を取ってくれぬのではないかと
     悪しき種を播き、良き収穫を期待する人は皆
     無益な考えを頭に育て、正しくないことを想像していた
     耳に詰まった綿を取り出せ、人々に正義を与えよ
     そしてもし汝が正義を行わぬとしても、正義の日は存在しよう
―サーディー『ゴレスターン』第一章第十話から。

アマゾンより

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