１９３１年に王政を打倒して成立したスペインの第二共和政の新憲法は、ドイツのヴァイマル憲法に倣って「スペインは正義と自由の制度に組織されたあらゆる階級の勤労者の民主主義的共和国である」という文言で始まり、主権在民、戦争の放棄、国家と教会の分離、貴族の廃止、２３歳以上の男女普通選挙制度、一院制国会（コルテス）、カタルーニャの自治などを規定していた。その憲法の精神であった正義を重んずる伝統からか、スペインは昨年１０月７日にイスラエルがガザ攻撃を始めると、イスラエルに対する武器輸出を停止し、アメリカや日本がＵＮＲＷＡ（国連パレスチナ難民救済事業機関）への資金拠出を停止する中で、それとは逆にガザのＵＮＲＷＡに対して３８０万ドル増額の緊急援助を行った。アラブ・イスラム世界のソーシャルメディアではスペインに感謝する声が広がっている。

　イスラエルが１月下旬にＵＮＲＷＡの職員が昨年１０月７日のハマスによる奇襲攻撃に関与していたことを明らかにすると、アメリカやドイツはＵＮＲＷＡに対する資金拠出を停止した。日本もそれに倣って停止を決定した。主体性なき外交である。イスラエルの主張を鵜呑みにできないことは、イスラエルは昨年１１月にガザ最大のシファ病院の地下にハマスの司令室や武器庫があると言って攻撃を行ったが、ワシントンポストは翌１２月下旬に検証の結果、そのような事実はなかったと結論づける記事を掲載した。パレスチナ側は、ハマスの奇襲攻撃に対するＵＮＲＷＡ職員の関与はイスラエルは虚偽の主張だと非難している。

　スペインのアルバレス外相は、５日、スペイン議会で演説し、「ＵＮＲＷＡの状況は絶望的で、ガザの人道支援の活動は数週間で機能しなくなる切実な危惧がある」と述べた。アルバレス外相は、昨年イスラエルの攻撃が始まった直後の１０月１０日にも「協力は続ける必要がある。ＥＵ（欧州連合）がテロ組織に指定しているハマスと、パレスチナの住民、パレスチナ自治政府、国連の現地組織とを混同してはならない」と述べている。今の日本政府とはまったく異なる姿勢だが、まったくの正論だ。スペインは昨年１８５０万ユーロ（３０億円弱）の支援をＵＮＲＷＡに対して行い、また隣国のポルトガルも２日、ＵＮＲＷＡへの１００万ユーロ相当（１億６０００万円ぐらい）の追加援助を発表した。ジョアン・クラヴィーニョ・ポルトガル外相はＸ（旧ツイッター）に、「この困難な時期にパレスチナ市民に背を向けないことが重要だ」と書いた。

　ＵＮＲＷＡはガザで難民登録している１２０万人の人々の生命線とも言える組織だ。ＵＮＲＷＡは１９４８年のイスラエル国家創設のための第一次中東戦争で大量の難民が発生すると、１９５０年５月から活動を開始し、食糧配給や医療、教育など救援活動を行ってきた。ＵＮＲＷＡの活動地域は、レバノン、シリア、ヨルダン、ヨルダン川西岸、ガザ地区で、ガザに見られるように、パレスチナ難民キャンプは上下水道も不十分、人口密度は極端に高く、レバノンやガザでは絶えず生命の危機にさらされてきた。

　昨年１０月７日以来、ガザのＵＮＲＷＡの学校は住民たちの避難所として使用されてきたが、ＵＮＲＷＡの運営する学校はイスラエル軍の意図的な破壊の対象になってきた。イスラエルの空爆によって昨年１０月７日から１２月末までに１９の教育機関が閉鎖を余儀なくされている。

　異教徒であるパレスチナ人に対する支援を継続するスペインやポルトガルの姿勢は、かつてこれらの国があるイベリア半島を支配したイスラム王朝の共存の過去を思い出させるものでもある。

　スペインの社会権利大臣で左派政党ポデモス党首のイオネ・ベラーラも、昨年１１月上旬にアルジャジーラのインタビューに答えて、欧米諸国の対応にはロシアのウクライナ侵攻とイスラエルのガザ攻撃の間に明らかな二重基準があると非難し、ネタニヤフ首相を国際刑事裁判所に提訴すべきであると呼びかけ、イスラエルのガザ攻撃は綿密に計画されたジェノサイドであると主張した。彼女はヨーロッパ諸国で初めてイスラエルの攻撃を非難する抗議活動に参加した閣僚だった。