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断熱より気密

なんでも自分でやってみるものである。

co-ba kamaishi marudaiをセルフリノベーションする事業は、設計の仕事をするうえで、想像していた以上に学ぶことが多い。

日本にも帝国ホテルをはじめとして、いくつかの作品を残したフランク・ロイド・ライトは、自邸であり、自己所有不動産であるタリアセンを、自らの建築思想を体現する場として建設し、増築を繰り返した。

一時は弟子を集めて建築塾を作り、セルフビルドも行った。

タリアセンを例に出しては、あまりにギャップが激しいかもしれないが、co-ba kamaishi marudaiは、僕にとって建築の実験場ともなっている。


現在取り組んでいるのは、断熱だ。

倉庫だった2階の天井を落とし、広い空間としたことで、コワーキングスペースとしては、雰囲気がよくなった。

ただ、事前にわかってはいたが、気積(体積)が大きくなることで、空調には大きい出力を必要とするようになる。

しかし、問題はそれだけではなかった。

30年ぐらい前までの木造建築には、断熱という発想がなかった。

当然ながら築40年を超える、co-ba kamaishi marudaiの建物には、断熱材は入っていない。

それどころか、すきま風が入ってくるので、冬は夜遅くまで暖房をかけていても、朝には外気温と同じ氷点下になっている。

水道が凍結したことも数回あるし、観葉植物は寒さに耐えられずに枯れてしまった。

寒くなることは、ある程度わかってはいたが、ファンヒーターをガンガンつければいいだろうと思っていた。

しかし、冬を2回経験した結果、やっぱり暖房の光熱費も気になる。


もう一つ問題があった。

それは、会員の寒さの耐性に個人差があることだ。

co-baの運営を開始して、すぐに気づいたのが、2人の会員は、異常な寒がりだということだった。

僕がちょうどいい温度と思っていても、寒いと言って、室内でダウンジャケットを脱がなかったりする。

つい最近、そのうちの一人にヒアリングして分かったことだが、生まれた時から床暖房の家に住んでいたという。

床暖房以外のファンヒーターや、エアコンの暖房の場合、上半身の高さで快適な温度に設定される。

これは義務教育の段階で、誰もが教わっていることだと思うのだけど、あたたかい空気は軽く、冷たい空気は重い。

この法則により、建物の中では、床付近の温度は低くなり、天井付近の温度は高くなる。

原則は誰でも知っていることだが、実際は想像以上に温度差がある。

冬だと20℃も差があったりすることは、知らない人のほうが多いだろう。

仮にその中で、立っているときの上半身が、だいたい高さ的に部屋の真ん中ぐらいにあるとすると、足元と10℃近く違うことになる。

ところが、床暖房は床から放熱する暖房なので、足元と上半身の高さの温度差が少ない。

これに子どもの時から慣れていると、他の暖房の足元の寒さに耐えられないということは、想像に難くない。

また、どこで読んだ記事だったか忘れたのだけど、このような説を見たことがある。

2000年ごろに品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)が施行された。

建物の性能を、画一的に担保、評価するための法律で、耐震、耐久性、断熱、バリアフリーなどについての規定がある。

近年、断熱が重視されるようになったのも、この法律のためで、この頃に親が家を新築して、そこに生まれ育った人たちは、断熱がない家には住めないというのだ。

昭和生まれの我々とは、もはや違う人間なのだ。

そして、昭和生まれの設計者は、自分の感覚を頼りにしてはいけないということでもある。

以上の推測が事実だとすると、人間の寒さへの耐性は、先天的なものではなく、幼少時の環境による、後天的なものということになる。

生物の進化を考えれば、たった1代では寒さへの耐性は変わらないはずだからだ。

最近、リノベーションまちづくりをけん引する、リノベリングの間では断熱を重要視する傾向がある。

なぜなのか不思議に思っていたのだけど、昔の断熱がない建物をリノベーションしても、このように断熱住宅に慣れた若い世代には、耐えられないため、取り組まざるを得ない現状があるのではないだろうか。

リノベリングの関係者の中でも、建築家としても有名な、みかんぐみの竹内正義氏がオピニオンリーダーとなっているようだ。

本来、建築家は断熱などをデザイン思考の中心に持ってくるような存在ではないと思っていたが、課題解決がデザインの起点となることが多いと考えると合点がいくような気もする。

ただ少し疑問なのは、上記のように、断熱をすればするほど、人はそれに慣れて、それなしでは暮らせないようになるだけなので、意味がないのではないかということだ。

少し寒くても、すごく寒くても、人間の体は、それに合わせて変化する。

つまり、寒いものは寒いのである。

ともあれ、現代の建築は、現代の人の体に合わせるしかないのだろう。

今から、日本の建築は断熱禁止!国民は寒さに慣れるべし!という大号令でも国から出されない限り。

前述の品確法に加えて、省エネ法が推進されつつある現状を考えると、国の考えはそういうことではなさそうだ。

省エネ法というのは、文字通りエネルギーを使わないようにするための法律だが、冷暖房のエネルギーを削減するために、断熱性能を高めることが求められている。


昔の建物…というか、すでに建っている建物に断熱を施すのは難しい。

一般的な工法は、新築工事の途中で、仕上げで隠れてしまう部分に仕込むものだからだ。

具体的には床下、壁の中、天井の中にグラスウールや、ポリスチレンフォームなどの断熱材を入れる。

床、壁、天井の仕上げを一度撤去して、張り替えるなら可能だが、全部張り替えるのは、お金がかかる。

リノベーションのコストメリットが損なわれてしまう。

だから、最初は断熱は考えないことにしていた。

しかし、暖房コストは気になる。

異常に寒がりな入居者もいる。

そこで考えたのが、屋内テントだ。

厚手の布(帆布)で囲った小さい部屋を作り、その中でデスクワークをする。

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実際に作ったのは、広さが3m×2m、高さが1.9m、体積にして11.4㎥、6畳の部屋が約22㎥なので、だいたい半分である。

この実験は成功と言ってもいいと思うのだけど、少し暖かい日だと、ファンヒーターが最弱の出力になっていても、暑いぐらいだった。

帆布には断熱性はほとんどないはずなのだけど、ミシンで縫い合わせて、壁と天井が一体化していたので、隙間がなく、気密性が高かったのだ。

また、帆布に遮熱性能があることが判明したといってもいいだろう。

ただ、この屋内テントは、最初の冬に登場しただけで、翌冬は出さなかった。

レイアウト的に置き場所を確保出来なかったからだ。


その年を含めて、2回の冬を経験したが、やはり断熱が課題として浮き彫りになった。

重い腰を上げて取り組んでいるのが、屋根の断熱材張りだ。

例の品確法や、省エネ法によると、断熱の考え方というのは(冬を想定した場合)内部の熱が、外に出てしまわないようにすることだ。

熱は物質を通り抜けて、反対側に伝わる。

そこに熱が通り抜けにくい、グラスウールなどの素材を挟むという考え方である。

熱は屋根、壁、床、そして窓から逃げていく。

窓は熱伝導率の高いアルミの枠と、ガラス1枚で構成されているので、熱が逃げやすい。

だから最近、プチプチなどの簡易な断熱材が、ホームセンターに並ぶようになったのだろう。

その次に逃げやすいのが、暖かい空気が集まる屋根面(天井面)だ。

だから屋根の断熱が最も効果が高いと考えられている。

そこで、最初に屋根面の断熱をすることにしたのだ。

co-ba kamaishi marudaiの屋根面は、瓦とシート状の防水材、それを乗せる野地板(杉荒板)だけで、おそらく土はのせていない。

これでは、断熱効果(または遮熱効果)はないに等しい。

さらに風が強い日に判明したことだが、気密性も低く、強風が建物の中まで影響を及ぼし、野地板の破片や埃が落ちてくる。

ここにホームセンターで販売されている、厚さ50㎜で㎥あたり10kgのグラスウールを張り、その仕上げとして、帆布を張ることにした。

帆布を張るのは、ベニヤなどの建材を貼るよりも容易だということあるが、屋内テントの効果を確認できたからだ。

さらには、布の柔らかい質感が、情緒に及ぼす効果もあるのではないかと考えている。

36帖の屋根面に断熱材を貼るのは、なかなか大変だったが、やってみてわかることもあった。

とにかく、この建物はすきま風が入る。

屋根面も風の強い日にわかったとおり、スースーと冷たい風が入ってきているし、壁の上部からも感じる。

品確法や省エネ法の断熱の思想はわからないでもないが、実際は物質を通り抜けて熱が逃げるのではなく、無数にある小さい隙間から熱が逃げているというのが、今の僕が感じていることだ。

屋内テントは布一枚だが、内と外では温度が全然違っていた。

品確法や省エネ法の思想が正しいなら、薄い布一枚のテントの内と外は、温度がほとんど同じになるはずだ。

熱は布一枚すら、そう簡単には通り抜けられないのではないのか?


断熱材を隙間なく入れることは難しい。

現場吹付のウレタンフォームなどの材料なら、隙間のない施工も可能だが、グラスウールや成型品のポリスチレンフォームを隙間なく入れるのは、ほとんど不可能だ。

すると、隙間から熱が逃げてしまう。

断熱という言葉が独り歩きしているが、実は、現代の住宅は気密性も上がっている。

最近の木造住宅は、断熱材に加えて、床、壁、天井をビニールシートで覆っている。

これをすると、すきま風はほとんどなくなる。

新しい家は、昔の家とは暖房、冷房の効きが全然違うと言われるが、これは実は、このように断熱と気密の合わせ技によるものなのである。

もちろん断熱材は効果がないではないが、もしかすると厚みのある断熱材より、ビニール1枚のほうが効果が高いのではないだろうか。

いずれにしても、リノベーションにおいては、断熱材よりもまず、隙間をふさぐことを考えてみたほうがいいのではないかと思う。

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