見出し画像

ポップアップ・ブックカフェ「Books & 染 (some)」開催レポート#3 ― トークセッション 後編

2023年7月28日(金)・29日(土)に、5回目となるポップアップ・ブックカフェを長野県北佐久郡御代田町にて開催いたしました。詳細はこちら
おかげさまで無事に終了し、ご協力くださった皆さまに改めて感謝申し上げます!

今回も、当日の様子を4回に分けてレポートしていきます。

1.ブックカフェ編 
2.トークセッション(染織作家 たかのきみこさん)前編 
3.トークセッション(染織作家 たかのきみこさん)後編 ←いまココ
4.ワークショップ編(Curry屋店主×染色 本間江里さん)

たかのさんが染織家になられるまでのお話を聞かせていただけますか?

実は、染織に対する興味は全くなかったんです。高校で進路について悩んだ時期がありました。親が絵を描いたりして美術的な環境はあったので、「じゃあ美大でも行くか」とそんな感じで (笑)。とは言え、絵は不得意。手しごとは好きだったので、何か美術系のことをやれたらと思い、女子美術大学の工芸科には染織科しかなかったのですが、自宅から通いやすい大学でもあり、「そこにするか」と。

クラスメイトには染織家を目指して入学してくる人が多かったのですが、私はそういう意識は皆無。入学して機織り機を初めて見た時に、経糸を小さな穴に1本1本通す作業を見て「なんて非効率的なことをやってるのかしら」と驚いたくらいです (笑)。

教授陣には柳宗悦の甥の柳悦孝先生や柚木沙弥郎先生がいらっしゃり、民芸の思想に基づいた教育方針で、糸を紡ぎ、染め、織ることをそれぞれ基礎から全て教えるというカリキュラムでした。最初の2年間で染織の基礎を学び、3年になって専攻を選ぶときに、「織り」が面白いと思って選びました。

奥深い「染織」のお話に聞き入る皆さん

「織り」のどういうところに惹き付けられたのでしょうか?

経糸と緯糸の組み合わせで色が変わることの面白さですね。「染め」は柄をデザインする造形力が必要な分野で、自分にはちょっと向いてなくて。「織り」は素材から布になるまでたくさんの工程があり、絵画などの純粋芸術と違って、ダイレクトに自分の感情や考えを表現するものではないので、私の性格に合っていると思いました。

染織を4年間学んだら、やめるという選択肢はなくなりました。「ここまでやったんだから」という気持ちと、「一度機(はた)をしまったら、二度と織りの仕事をしなくなる」という気持ちとがあったのです。実際、これまで一度も機織り機は手放したことはありません。

染織を職業としてやるか、それとも自分の生活を豊かにするためにやるか、については悩みました。民藝の思想は「生活に根ざした手しごと」にありますが、私は自分の表現としてものづくりをしたいと思っていました。一方で、民芸の考え方はしみついていましたし、どういう形で染織を自分の表現の手段として使っていくかは、ずいぶんと悩みました。それに、この世の中で手織物は絶滅危惧種。それだけで食べて行けるとも思えなかった。悩みに悩んで、最終的には、作品を作ってどなたかに使ってほしいという思いから、作家の道を歩むことにしました。

たかのさんの工房にある機織り機

軽井沢町追分に工房をお持ちです。

暑さとクーラーが嫌いで、今から25年ほど前から夏の1、2週間を追分で過ごしていました。ほどよく東京に近いのも気に入って、2012年に工房兼自宅を建て、2016年に本格的に移住しました。夏の軽井沢しか知らなかったので、冬の厳しい寒さには驚きましたね(笑)。

軽井沢に来て、気持ちがゆったりできていると感じています。歳を重ね、作品を作るペースが緩やかになり、以前ほどの量はこなしていませんが、ここでは自由に仕事ができるので、その分、気持ちにゆとりを持って染織に打ち込めます。作風が変わったとまでは思いませんが、何らかの影響はあったのでしょうね。

たかのさんがお持ちくださった蔵書

お持ちくださった蔵書の中で、よく参考にされている本はありますか?

山崎青樹さんの「草木染 染料植物図鑑」と寺村裕子さんの「ウールの植物染色」という本ですね。この本には「この染料でこういう色が染まります」ということが書かれていて、出したい色があるときに参考にして、身近にある植物を探して染めることがよくあります。思っていた色が出ることも出ないこともあります。色の出方はどの場所でどの季節に採取するか、植物の葉、実、樹皮などどの部分を使うかによっても異なります。

ただ、私は人様に使ってもらう作品は、長く使えるものでないとだめだと思っています。一回染まったからといって、すぐに作品に使うことはしません。対価を払っていただく限り、短期間で色が褪せたり、色落ちしたりすることは極力避けなければなりません。また、自分の身の回りではどんな植物が採取しやすいか、十分な量を採取できるかなども、作品を作り続けるために気にしていることです。そういう観点で材料を探すときの指針として、これらの本はとても参考になります。

普段はどういう本を読まれていますか?

ジャンルにこだわらず、いろいろな本を読みます。織物や染物をテーマにした小説は、読みながら「違うのよ~」と思ってしまうことが多いのですが、伊吹有喜さんの「雲を紡ぐ」は、染織のことをきちんと調べて把握して書かれていて、とても良い本でした。

この本の主人公の祖父母が岩手で染織業を営んでいるのですが、私が特にぐっときたのは、おじいさんが生活のために生産しなくてはならないという観点から化学染料を使っている、それに対しておばあさんは「自分の色を植物で出したい」と思っていて、二人の間に葛藤があるところです。そこは心に迫るものがありました。テレビなどで染織家、織物作家が取り上げられているのを観ると、たいてい美しいところだけ切り取った感じを受けるのですが、この本は、ちゃんと本質的なところを把握して書かれていると感じます。

カフェ&インテリアLさん特製の「染」のスイーツ!ブルーベリーの紫色のグラデーションが夏の夜空にぴったりです。

たかのさんの穏やかな語り口の中に、「長く使ってもらうための作品」を生み出し続けるための努力と、工夫を惜しまない姿勢、染織に「作家」として向き合う上での強い覚悟が感じられました。そして、何よりも、糸を染めて織ることを楽しんでいらっしゃるのがひしひしと伝わってきて、とても印象的でした。

美味しい「染」のスイーツをいただきながら、参加者の皆さんからも藍の話、綿の話、色の話など、さまざまな質問やエピソードが飛び交い、セッションの終わりが来ても話は尽きないのでした(笑)。たかのさん、素敵な時間をありがとうございました!

👉 ワークショップ編 へ続く・・・


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?