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顔を覚えている男の話9

15の頃、荒れていた私は夜中に親の目を盗んで家を抜け出して遊ぶような生活を送っていた。

その頃、夜中に家を抜け出して一緒に遊んでいた彼氏の話。

当時私は15歳で、彼は確か23,24歳くらいだったかと思う。私は結婚式場でバイトをしていて、彼は厨房で働く料理人みたいな仕事をしていた。

当時、結婚式場は土日がとにかく大忙しで、高校生のウェイターでもなんでもいいから人が欲しいという感じだった。

接客経験がなくても即採用で、できるだけシフトに入って欲しいみたいなことをよくいわれていた。友達が働いていて、その子に誘われてこの結婚式場を選び、私は毎週末ここでバイトをしていた。

彼はその式場の正社員として毎日働いている人だった。長らく働いているようで、知り合いも多く、若いバイトの子らにも積極的に話しかけていた。

和食が専門だったのか詳しいことは覚えていないけど、彼は寿司屋とかいくと板前さんが着ているような調理白衣をいつも着ていた。

顔はそこまでタイプではなかった。見た目はかなり細身だった。腕なんかもガリガリなのに、細い指で包丁を持つ姿がとても綺麗に見えた。
私はたまに細くてすらっとした指をした人に恋をする。

週末にバイトにいくと、なんとなく毎回話しかけられる相手。話すと楽しい。
いつからか私たちは付き合うようになった。

彼は式場の近くのアパートに住んでいた。友達とルームシェアをしているといっていたけど、家にいくとほとんどいつも誰もいなかった。広い部屋だったが、特に何もなく、無機質な雰囲気があった。

結婚式場は土日が忙しいので平日に休みが入ることが多く、彼の休みにあわせて学校終わりに一緒に遊んだりした。

私は親に友達と遊びに行くといって、彼氏の家に行き、彼と遊んでいた。たまに彼の同居人が家にいる日には、ラブホテルに行くこともあった。

昼間のデートだけでは時間が足りず、親の目を盗んで夜中家を抜け出していた私は、彼に車でマンションの下まで迎えにきてもらうこともあった。

彼の車は屋根のない荷台がついた車で、車の種類とかわからないけど、結構大きい車に乗っていた。目立つ車だったが、自転車で彼の家にいっても私の自転車を乗せて送ってくれるのでとても便利だった。

泊まりで一緒にいられる日には、家とかラブホにいってお酒を飲んで、朝まで一緒に過ごすことが多かった。
当時は制服で居酒屋に行っても何も言われなかったので、二人で居酒屋にもよくいった。

働いている式場にある料理人専用の仮眠室みたいなところにもいったことがある。
裏から結婚式場に入って、二人で散歩をする。誰もいない真っ暗な厨房を通って仮眠室にいって、何度もセックスをした。

今思えば何もかもセキュリティがガバガバだったけど、当時は何も考えてなかった。ただ、特別なところに二人でいられるのがとても楽しかった。

この頃の私は高校生だったのにもかかわらず、高校生の男の子には全く興味がなかった。

周りの女の子が同級生と付き合うだの、告白したされただので盛り上がる中、私はどこのラブホに連れて行ってもらおうかを考えているような高校生だった。

周りの友達にも彼氏の話はしたことがなかった。話したらたぶん引かれることもわかっていたし、私には深い話までできる友達もいなかった。

彼の地元は私たちの住んでいる隣の県だった。いつかの休みに長い時間一緒にいられる日があったので、彼が自分の地元に連れていってくれるといった。

高速に乗って1時間程度。彼は慣れた手つきでハンドルを操作する。

彼の実家はとてもきれいな家だった。シルバニアファミリーとかに出てきそうな可愛い家。両親を紹介されたあと、彼の部屋に入った。

自分の息子が高校生と付き合っているのを知っているのかわからないけど、生活に余裕がありそうなご両親だったかと思う。私はきちんと挨拶できたか覚えてない。

彼はすでに家を出ているのに、未だに彼の部屋があって今も住んでいそうな雰囲気があった。まるで彼が帰ってくるのを待っているみたいに。
彼は自分の部屋でホットプレートを使ってお好み焼きをしようと提案した。

彼は料理人なのでよく料理を作ってくれた。家にいるときも色々な料理を作っていたし、魚をさばいているのを見たこともある。

私は高校生で全く料理なんてできなかったから、彼の手つきをみてその度に尊敬した。
手つきというか彼の細い指が包丁を持つ姿が好きだった。

彼の実家でお好み焼きを食べてから、そのまま高速に乗って私たちの住んでいる土地に帰ってきて、ラブホに行って寝た。

彼はセックスしているときの私の顔が好きだといった。興奮するし、可愛いとよくいっていた。だから彼とはいつも電気をつけたまますることが多かった。

15の私は、その言葉が素直に嬉しかった。寂しくて誰かと一緒にいたかったから、彼から求められることに対して幸せを感じた。

その瞬間が可愛いなら、もっと私を抱いてほしいと思った。もっと求めてほしい。可愛い私をみてほしい。その細い指で私を撫でてほしい。それしか思わなかった。

この頃から私は依存していたかもしれない。セックスをすることで誰かに求められるから、そこに幸せを見出してしまう。
セックスをしている時間だけ、自分が生きている感覚を実感できる。

それは15の頃も、今も、何も変わらない。

彼がそうしたとは思えないけど、彼と一緒にいた時間で男に依存することを覚えてしまったのは事実かもしれない。

夜中に家を抜け出して遊ぶようになってしばらく経ったある日、夜中抜け出していた事実が親にばれてしまった。
母親は私に友達と遊びに行くことも、学校以外の外出をすることも禁止して、バイトも辞めるようにいってきた。

その頃はバイトが楽しくて、彼氏もいたし、やりがいも感じていたから辞めたくなかった。バイトだけは続けたいといってみたけど駄目だった。

自分で辞めると連絡しなさいといわれ、私は泣きながらバイトの上司に電話をした。

バイトも辞めて、外出が禁止されるということは今後彼氏に会えないということだった。学校に行かずに彼の休みに会えば、この関係は続けられたかもしれない。

でも、私は母親にまたバレるかもしれないというリスクを負ってまで彼氏に会おうとも思わなかったし、会えないならもう仕方ないと思っていた。

直接会って別れ話をすることさえできないから、確かメールか何かで別れようといったと思う。彼は嫌がるわけでもなく、すぐに別れることになった。

15の私だったけど、彼は少しでも私のことを本気で愛してくれていると思っていた。
実家にも連れて行ってくれて、何度もセックスをして、私を本気で愛してくれているからそうしていたのだと思っていた。

でも実際は違う。大して好きでなくてもセックスできるし、何度も一緒にいた相手でも一生会えなくても別に何とも思わない。セックスがしたいから、可愛いという。

そんな関係が世の中にあるということ、むしろそんな関係が世の中にあふれかえっていることを知った。

とかいう私も、彼のことを本気で愛していたから受け入れたのではなくて、親という呪縛からのがれるために彼を利用していた。

誰かに愛されたいから、誰でも良いから、という「誰でも」がたまたま彼だっただけで。

だから、彼と離れるときも何も思わなかった。また代わりを探さなければいけないと思うだけ。親にばれずに会える男を探すというだけ。寂しいけど、私にはそれ以上の感情が芽生えなかった。

彼とはそのメールが最後になった。

私が馬鹿にしていた同じ学校の女の子たちは、本気の恋をしていたのだろうか。

好きな男の子とすれ違うだけでドキドキするってみんな言っていたけど、私にはよくわからなかった。

ラブホにいって、裸にされて、されるがままでいても、何もドキドキしなかった。

私も彼女たちみたいに、心から誰かを思って恋をしていたら、今とは何か変わっていたのだろうか。

今となってはもうわからない。
でも、たぶん、私は生まれ変わっても同じことをしていると思う。

満たされない夜を過ごすのは誰でも良かった。

誰でもいい、私と今日一緒にいてくれる人なら。今夜、寂しくてどうしようもない夜を一緒に過ごしてくれる人なら。

何かから逃げ出すように、真夜中に家から抜け出していた。

私はずっとあの頃と同じ。

今も何かからずっと逃げ出そうとしている。

そして、満たされない感情をいつまでも抱えつづけていく。

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眠れない夜に

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