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第八話 〜4つ目の壁〜

【兄の癌宣告】

母が亡くなって、まだ1年も満たない翌年の9月、
今度は兄がいる施設から電話がありました。

「まさか!」

これでもか、と神様は私に試練を与えてくるのです。

『肝臓癌、末期』

私は頭の中で

(母は、兄を残してきたことが気がかりで、
心配で心配でたまらないのかもしれない)

と常に思っていました。

(もしかして、母は兄を自分の元に
連れて行こうとしているのではないか?)

と…。

だから兄が末期と聞いても
母の時とは違って、私は比較的早く、
事実を受け入れることができました。

そして、
残された時間、
兄にどういう過ごし方をさせてあげるのがいいだろうか?
と考える方に、自然と意識が向いた私がいました。

カラダが不自由な兄、
そんな兄を病院に閉じ込め、
何本もの管でつながれる生活を送らせたくなかった私は、在宅で看護することを決めたのでした。

(兄を家に連れて帰ろう!
せめて最期は自宅で自由にさせてあげたい!)

そう強く思った私は、仕事をスタッフに任せ、
兄が、快適に過ごせる環境を整えることに
力を尽くしました。

子供達も一緒に兄を助けてくれました。

私が幼少期に体験した
あの大人達の冷たい視線がはびこる
そんな世界を
私は許せなかった。

だから、子供達に兄のような姿の人間も、健常者も、
皆同じように尊厳があることを教えたかったのです。

そして、私が兄のことを尊敬し、
大好きだったことを子供達に伝えたかったのです。

のちに、

当時、中1だった長男は、
兄を手助けしたことがきっかけとなり、
医師を目指す青年へと成長していくのですが、
この時は想像もできませんでした。


兄は、ずっと穏やかに
最期の時まで、自宅で自由に過ごしました。

とても純粋で天使のようなハートを持つヒトでした。


この2年間で、母が亡くなり、
翌年には兄も亡くなってしまいました。

私の原動力が、
静かに消えてゆくのを心で感じていました。

何の為に仕事をしているのか
何の為に成功したいのか

もう以前のような情熱が無くなって行きました。

起業して15年
40代前半でした。

悲しさ寂しさから逃れるように、
自分と向き合うことを避けるように、
仕事に没頭するしかなかった私は、
次から次へと拡大路線を走り抜けていったのです。

知名度、顧客数、売上
共に  地域No.1

不動のブランドを確立していきました。

ただ、自分の心だけが、少しずつ取り残されていたことを除いては…。

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プロローグ~成功と失敗~
第一話~強い使命感~
第二話~1つ目の壁~
第三話~運命の仕事、ヒト~
第四話~人生の転機~
第五話~2つ目の壁~
第六話~再起から絶頂へ~
第七話~3つ目の壁~
第九話~手放す~


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