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コロナが欧州で広がり始めた頃、イギリスで過ごした2020年の国際女性デー

2020年3月8日。イタリア、スペインを中心にコロナウイルスの感染が拡大しはじめ、少し前まで「アジアの病気」だったコロナが、欧州でも脅威になりつつある頃だった。あの時期を欧州で過ごしたアジア人には、人種差別のまなざしを向けられるかもしれないことを不安に思っていた人は多かったと思う。私もその一人だった。そんなさなかにあった、国際女性デー。1年の時が経ち、曖昧なところもあるけれど、今思い出すことを素直に書き起こしてみようと思う。どうしても、今日書いておきたかったから。

マンチェスターに住んでいた去年、国際女性デーのイベントを、Facebookで見つけた。マンチェスター大聖堂で集まり、マンチェスターの街中をマーチングして図書館へ向かうというものだった。当時、イギリスのコロナウイルス感染者数は100人に到達するかしないかくらいで、少しずつ空気がピリピリしはじめていた。感染拡大が進んでいた国への渡航を控えようとする動きはあっても、マスクをしている人はまだいなかった。反対に、マスクをしていると「感染が広がっている国から来たのでは」と警戒の目を向けられそうな雰囲気があった。その2週間後には、イギリスでもロックダウンが始まったのだから事態の変化は急激だった。そんな中で、私は迷いながらもマーチに参加することを決めた。

休日のお昼に大聖堂に向かうと、想像していたよりも多くの人々が集まっていた。女性が圧倒的に多いけれど、驚いたのは男性や小さな子どもも多かったことだ。男性を含む大学生らしきグループが参加していたり、お母さんに手を引かれた子どもが旗を振っていたり。アフリカにルーツを持つ女性たちが、民族衣装で着飾っていたり。多様でいきいきとした人々が、マーチの出発を待っていた。カップルや友達同士で、「国際女性デーのマーチに一緒に行こうよ」と誘いあえる関係性はとてもすてきだと思う。英国女性参政権運動のシンボルカラーである、紫・白・緑の持ち物を身に着けた女性たちのなかに、レインボーやトランスジェンダーカラーの旗を掲げる人の姿もあった。

出発前に、小さな旗を配っている女性に話しかけて、旗をもらった。この旗を持っていたら、「それどこでもらったの」と親子連れに話しかけられた。こうやって連鎖しているらしい。また別の人に話しかけられた、と思ったらリベラル系の新聞を売りつけられた。たしか2ポンドくらいだったと思う。マーチに参加する高揚感で、気前がよくなっていた私は買ってしまったけれど、結局読んでいない。でも、その時はなんとなく、このマーチに参加しているお姉さんが売る新聞なら、買ってあげたいと思ったのです。

そうしているうちに、マーチが始まった。みんな笛を吹いたり、太鼓を叩いたり、思い思いの音を出しながら街を練り歩く。ふと前を歩く女性が振り返り、私に「ホイッスル使っていいよ!」と小さな赤いホイッスルをくれた。コロナの足音が聞こえる中で、アジア人らしい見ための私にもホイッスルをくれたことが、どんなに私の心を温めてくれたか、彼女はきっと知らないだろう。それぞれ違うルーツを持ち、違う生活を生きていても、私たちは「女性であること」のつらさを大なり小なり共有している。私はいまシスターフッドの連帯の中にいるのだと強く感じた。あの日、シスターフッドに本当に救われたのです。

歩いていて感動したのは、私たちのマーチを見て、沿道から笑顔で拍手を送ってくれた人がいたこと。ああ、この国でフェミニズムを主張することは、歓迎してもらえるんだ、安全に、胸をはって主張していいんだと思ったら心が震えた。とても心地よかった。

図書館に到着してマーチは終了した。図書館では国際女性デーにちなんだ本の展示やブースが出展されていた。音楽のライブ演奏もあって、和やかな雰囲気だった。図書館の前では、お互いのプラカードや衣装を「あなたの最高だね!」と声をかけあって写真を撮りあう女性たち。私も素敵なプラカードを持つ方の写真を撮らせてもらった。乳がん啓発のブースをのぞき、ライブ演奏を聞いて、最後にスタバに寄って家に帰った。ロックダウンが始まる前に、イギリスであのマーチに参加できたことは幸運だったと思い返す。私を、あらゆる人々を包んでくれたシスターフッドよ、ありがとう。I am with her♡

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