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「女神の継承」考察、解説1

先日、Amazon prime video にて「女神の継承」というホラー映画を観ましたので、Xにてポストしたそちらの感想と考察、解説をまとめたいと思います。

まずは公式サイトとあらすじはこちら。

映画『女神の継承』 公式サイト - シンカ (synca.jp)

タイ東北部の村で脈々と受け継がれてきた祈祷師一族
美しき後継者を襲う不可解な現象の数々…

小さな村で暮らす若く美しい女性ミンが、原因不明の体調不良に見舞われ、まるで人格が変わったように凶暴な言動を繰り返す。途方に暮れた母親は、祈祷師である妹のニムに助けを求める。もしやミンは一族の新たな後継者として選ばれて憑依され、その影響でもがき苦しんでいるのではないかー。やがてニムはミンを救うために祈祷を行うが、彼女に取り憑いている何者かの正体は、ニムの想像をはるかに超えるほど強大な存在だった……。


以上があらすじです。

以下、基本的に視聴済みの方に向けてネタバレにて解説していきますので、未視聴の方はぜひ、映画本編をご覧いただいたのちにお読みください。
初めてnoteの見出しや目次を使って書いて行きたいと思いますが、分かりにくかったらごめんなさい。



女神の継承とはどんな物語か

タイのTVクルーらしき撮影チームが、タイ東北部の霊媒師の取材をするなかで、そのうちのひとりである「ニム」という「精霊(女神)バヤンの巫女」にスポットを当てて密着取材していくうちに、ニムの姪である「ミン」に巫女の代替わりの兆候が表れ、そこから数々の超常的現象が起こり始める、というのが基本ストーリーです。

一見、悪霊と人間達の戦いに見えますが、私は、これを太古の精霊「バヤン」と現代の少女「ミン」との戦いの物語だと捉えました。

霊媒師「モーラム・ピー・ファー」

タイの東北部には「モーラム・ピー・ファー」と呼ばれる霊媒師が数多く存在します。これはおそらく日本でいえば青森の「イタコ」や沖縄の「ユタ」のようなもので、その地方ではポピュラーな「地元の拝み屋さん」というような存在のようです。
タイでは精霊、悪霊、霊や妖怪などの全般を「ピー」と呼び、ピーはよく人間に憑きます。子供の素行が突然悪くなったりすると「ピーに憑かれたので仕方がない」というような具合です。

その中でも「ピー・ファー」というのはいわゆる善良な精霊で、信仰することによって病気や怪我を直したりすることができると信じられています。この「ピー・ファー」を自らの肉体へ宿して、治癒や祈祷を行うのが「モーラム・ピー・ファー」、「女神の継承」の中では「バヤン」の巫女である「ニム」が「モーラム・ピー・ファー」であり、それを分かりやすく表現して「霊媒師」と呼んでいる、ということのようです。


「ピー・ファー」継承の条件、禁忌

ピー・ファーは基本的には家庭の中の女性に受け継がれていきます。
継承の条件としては「ある種の特徴的な病が現れた人物」がピー・ファーに選ばれたとされることが多く、中には、修行によりその力を手にする場合もあるようです。

また、精霊は人間の頭から侵入してくるので激しい頭痛が起こるとのことで、「女神の継承」でも、ニムやニムの姉ノイ、ミンも激しい頭痛を経験しています。

そしてピー・ファーを正しく祀るためにはいくつかの決まり事や禁忌があります。モーラム・ピー・ファーがこの禁忌を破ると、精霊は悪霊となり、自らや周囲へ災厄をもたらす邪悪な存在へと変貌してしまうとのことで非常に恐れられているそうです。
そのうちのひとつに食の禁忌があり、これは精霊によって異なりますが、主に「人間、犬、蛇、馬」など約10種類ほどの肉を食してはならない、というものです。また、これらの動物を家に上げてもいけない、とあります。
ニムの姉ノイが姑の「犬肉店」を引き継ぎ、自宅に愛玩犬を飼っているのはおそらくこのためで、ノイがバヤンを継承することを激しく拒んでいることが伺えます。



バヤン(ピー・ファー)を拒絶する女達

「女神の継承」の中で、一族の女性たちは一様にバヤンの巫女を引き継ぐことを拒絶しています。
最初に巫女に選ばれたノイは妹のニムへその役目を押し付けるためにありとあらゆる手段(自分の服を毎日着せる、靴に呪符を入れる、キリスト教へ改宗する、等)を使っていますし、ニムも「最初はすごくイヤだった」と語っています。そもそも、ニムは都会で服飾の仕事を目指す女性でした。そのため、バヤンの巫女になった今でも自宅で繕い物を請け負っています。
当然のように、ノイの娘であるミンもバヤンの巫女になることを心底から拒んでいます。
ミンは田舎の村から2時間以上かけて都会の会社へ通い、服装も村ではちょっと見ないほどにオシャレな、都会に憧れる女の子です。巫女になって村に縛り付けられることは死よりもつらいことなのです。

そして、この拒絶を捻じ伏せて、彼女を自らを受け入れる巫女にさせようとするバヤンとミンの戦いが始まります。



ミンとバヤンの戦い

まず、ミンは自らに次代の巫女の兆候が表れていることを家族に隠します。自己流で調べたウコンのお守りを飾ったりしてなんとかバヤンを拒絶しようとしますが、その「兆し」はどんどん大きくなっていき、ミンが会社を辞めざるを得ないような奇行をするように導いていきます。
沖縄の「ユタ」に選ばれた人間は継承の際に「カミダーリ」という、精神病様の異常行動をすることが知られていますが、基本、神様は人間に優しくありません。一度神様に選ばれたユタ候補は、たとえ本土へ逃げてもあらゆる状況が転回して沖縄へ戻るよう仕向けられることもあるそうです。
バヤンも優しい神様ではないのでしょう、ミンは奇行により会社をクビになってしまいます。

しかしこの兆候のさなか、おそらく、ニムやノイには現れなかった不思議な現象がミンには起こります。
それは「大きな剣を持った首狩り男の夢」です。
これはミンの父方の家系である「ヤサンティヤ家」を恨む人間たちが呼び込んだ悪霊の象徴だと思われます。この時点では母系の女神と父系の悪霊の両方がミンに取り憑こうと狙っている、という状況であると思われます。
そしてミン自身、霊媒の素質が非常に強いのではないかと伺わせるシーンがあります。父の葬式や泥酔した時に突然周囲の人間へ怒鳴りかかるのは、おそらく彼らの「心の声」を聴いているからです。
ただ、悪霊が取り憑いて暴れているわけではなく、その証拠に、何も喋っていないカメラマンに向かって静かに「は?」と問いかけるシーンがあります。彼女はただ、根拠もなく暴れていたわけではないのです。



バヤンから逃げるミンを助ける存在

会社をクビになったことで、ミンは絶望して自殺未遂をします。
このあたりから物語は複雑になってきて、解釈はいろいろあるとは思うのですが、私は恐らく、彼女は生前恋人関係にあった実兄のマックの元へ行きたいと願ったか、または死ぬほどの苦しみを見たマックの霊がミンを助けようとしたのではないか、と推測します。

ここまで「バヤンの巫女の兆候である」と断言してきたニムが、突然マックの存在を感じ取り、「ミンの不調はマックのせいである」と言い出すからです。のちにニムは「完全に騙された」と前言を撤回しています。
これは「継承の儀式をしないように騙された」という意味で、実際、マックの霊のしわざだと思ったニムはミンの継承の儀式を取りやめてしまいます。
もしかするとここではマックを隠れ蓑にした「首狩り男」の力も働いているのかもしれません。

継承の儀式を諦めたニムに一息つきたいところですが、今度はミンの母であるノイが、ミンを救うために他の祈祷師にバヤンの継承を頼んでしまいます。
おそらくミンは「巫女になんか絶対にさせない」と約束してくれた母の変貌に「裏切られた」と感じたでしょう。自分は妹を犠牲にして逃げ切った癖に、娘であるミンのことは見捨てようとしているのです。

最後の味方を失い、自暴自棄になり儀式を受け入れようとしていた彼女はおそらく、儀式を邪魔しにきたニムの「悪霊が憑いたらどうするの!」という言葉に天啓を受け、「そうだ、悪霊を憑かせれば巫女にならずに済む!」と考えたのではないか、と推測します。
目覚めたように立ち上がったミンは裏切り者の母をカメラで殴打し、その場から逃げ出します。
向かった先は我が家を呪う悪霊の巣窟である、祖父の廃工場。
そこでおそらく、彼女は自ら悪霊を呼び込む儀式をしました。
バヤンと戦うため、首狩り男を受け入れる決心をしてしまったのです。



1部まとめ

以上が、ミンがバヤンと戦う力を手に入れるまでの考察です。
いかがでしたでしょうか、ご意見の違うかたもいらっしゃるとは思いますが、このように考えると意外とすんなり物語が読み解けるのでは? という、あくまでも私個人の解釈ですのでご容赦ください。

随分と長くなりましたので今日はここまでということで、次回、バヤンとミンの戦いはどうなったのか、何が起きたのかの考察と、小ネタの解説を書こうと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。


続きはこちら
「女神の継承」考察、解説2|深志美由紀 (note.com)



参考資料
jstage.jst.go.jp/article/sea1971/1999/28/1999_28_104/_pdf/-char/ja

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