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目が合うひと

中3の頃。

部活も引退し、体育祭も終わり、そろそろ受験モード一色のそんな頃。

「あれ、気のせい?」

この頃やけに目が合う。その人物は同じクラスのK君。

K君は剣道部の部長をしていて、頭も良くて、とても優しそうな人。この頃の私達は、なぜか男女でおしゃべりしたりするのを良しとしていなかった。だから、話したことはなかった。

一度気になると、気にせずにはいられない。気が付くと、目が合う。偶然なのか何なのかよく分からなかった。

その頃の私の立ち位置は、中間。真ん中。平均。成績は上から三分の一で、足だけちょっと速い、普通の子。特別かわいい訳でも面白い訳でもない、普通の子。卒業して数年たったら、先生の記憶からも消えてしまうだろうと思われる普通の子だった。

そんな自分が男子から好かれるなんてある訳がない。そう思っていた。

目が合う事があまりに気になってくると、こちらも意識してしまう。いつの間にか、K君が気になる人になった。そんな時、私の直感センサーが働いた。たぶん、K君も私が気になっていたのだと思う。けれど、当時は上記のように考えていたので、それは気のせいだし自意識過剰だと思う事にした。

K君の事が気になりながらも、受験生だから勉強しなければならない。それに、友人達と卒業までの思い出も作らなければ。

勉強したり、たまには友人と遊んだり。音楽を聴いたり、テレビを見たり。そして、ちょっぴりかわいくなりたいと思ったり。

あいかわらず目は合うけど、それだけ。目が合うと、なんだかこそばゆいような、恥ずかしいようなそんな感じだった。

年が明けると、いよいよ受験が始まる。

K君は頭が良かったので、クラスのみんなに先駆けて受験をする。私はそんなK君を見ているだけしかできなかった。

2月に入ると、私達の受験も始まる。

バレンタインの少し前、いよいよ私は行動に出る事にした。

チョコレートとカードを渡す事にしたのだ。カードには「受験がんばろうね」と書き添えて。

どういう段取りかは忘れてしまったが、友人が協力してくれた。K君の家に行き、ピンポンを押した。すると、玄関先にK君が出て来てくれた。

「あの、これ・・・。」

って言うので精一杯。K君も

「ありがとう・・・。」

っていうばかり。

初めての会話がこれだけというのも情けないが、まずは目標達成。ほんの5分ほどの思い出。

少し吹っ切れた私は、滑り止めの私立と本命の県立の受験に臨んだ。思っていたよりスラスラと解けた気がした。直感センサーも働いたので、きっとうまくいっている、そう思った。

受験が終わると、卒業も目の前だ。

ここでも私は行動を起こす事にした。次は、K君の第2ボタンをもらう事。

また、友人が協力してくれてK君に話をつけてくれていた。後は当日を待つだけだ。前日は、ちょっとしたプレゼントを買った。かわいいハンカチも買った。

卒業式。式典は進んでいく。早いようで短い3年間。友人達とももうすぐお別れ。K君とも。

しかし、私は泣けなかったのだ。周りがくすんくすんする中、私は一滴の涙も出なかった。買ったばかりのかわいいハンカチの出番無し。悲しいけど、もう一人の自分が冷静に見ていて泣けなかったのだ。

クラスに戻り、最後の学級取り扱い。卒業証書を貰ったり、先生の話を聞いたり。私は、悲しく思いながらも次の事で頭が一杯で気もそぞろだ。それも終わり、友人達とのお別れもそこそこに学校を出た。

向かった先は、K君の家の近くの公園。

しばらく待った頃K君はやって来た。

「来てくれてありがとう。」

「うん。はい、これ・・・。」

と第2ボタンを手渡してくれた。

「ありがとう。私もこれ・・・。」

とプレゼントを渡した。特に話す事も無く、バイバイした。

今の私なら、もれなく連絡先を渡したり、手紙を付けるなりするのだが、当時はそんな事できなかった。する勇気もなかった。

だけど、好きな男の子にもらった第2ボタン。それは、私の「大事な物入れ」にひっそりとしまわれた。

その年の梅雨の季節。一度だけK君に電話をしたことがある。

家からは掛けずに、10円玉をいっぱい持って公衆電話から。K君は家にいたけど、うまく話ができない。沈黙が続く中、かちゃんかちゃんと10円玉が落ちる音だけが響いていた。

雨が降る中、言葉が出ずに落ちる10円玉。何枚目かの10円玉が落ちた後に電話を切った。もう終わったと思った。

それぞれ違う高校に進み、違う人生が始まったのだ。もう交わる事はない、そう思った。実際、中学校を卒業後K君には一度も会っていない。

K君、どんな大人になったのだろうか。ちょっと知りたいけど、知らぬが華だろう、お互いに。ただ、幸せでいてくれたらいいなと思う。

たまに実家に行き、用事をするため車を走らせるとK君の家の前を通る。そんな時、少し懐かしく思いながらグンとアクセルを踏む。






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