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【夏の香りに思いを馳せて】薬指で輝く花火

 大きな音とともに美しい花火が次々と上がっていく。ここは、花火大会の会場を見下ろす小高い山の上だ。知る人ぞ知る、花火がじっくり見られる穴場の場所だ。

 夜空を彩る大輪の花火をうっとりと眺める響子を五代は微笑みながら見つめている。響子は五代に見られている事は気付いていたが、頭の中では五代ではない人物の事を考えていた。

 響子は3年前にもこの場所で花火を見た事がある。その時は、五代ではなく以前に付き合っていた三鷹とこの花火を見ていた。響子は三鷹の事を本当に大切に思っていた。そんな人と見る大輪の花火はとても美しく、恋心と共に胸に深く焼き付いていた。
 「今夜のこの花火の事は、絶対に忘れる事なんてない」響子はその時、三鷹を見つめながら思った。

 今は別れてしまった三鷹の事を考えながら、響子はあの夏の花火の事を思っていた。そして、ムダな事だと分かっていながらも周囲を見渡し、三鷹の姿を探してしまうのだった。

 次々と打ちあがる美しい花火。三鷹もどこかで誰か新しい人とこの花火を見ているのだろうか。そんな事を思いながら、響子は横にいる五代の横顔をそっと見た。五代を見ていると、なんだか自分がひどく汚く思えて、いてもたってもいられなくなった。

 「五代さん。私ちょっと車に戻りたいの」

 そう言って、車の方に戻ろうとした響子の手首を五代はとっさに掴んだ。

 「いったいどうしたの?響子ちゃん、疲れちゃった?ここは暗いから、女の子一人で動いたら危険だよ」
 「ごめんなさい。私、疲れちゃったの」
 「じゃあ、俺も一緒に行くから」
 「ううん、いいの。私、一人になりたいの」

 響子の目から大きな涙がぽろりとこぼれた。

 「響子ちゃん。なんで泣いているの?」
 「なんでもないの。コンタクトの調子が悪いみたい。だから大丈夫」

 結局、二人で車に戻り車の中から花火を見る事にした。五代が手渡してくれたコーヒーを飲むと、響子は少し落ち着きを取り戻した。目の前に次々と打ち上がる花火を見ながら再び思いを巡らせていく。

 この人は、私を本当に大事にしてくれる。あの人と別れた後、自暴自棄になっていた私を救ってくれた大事な人。この人の愛に包まれていると、私は心から安心できる。それなのに、さっきはどうしてしまったのだろう。それは、あの夏の花火のせいなのだろうか。あの大輪の花火が心を惑わせて、過去の記憶の中へと私を引っ張っていったのだろうか。

 響子は運転席の五代を見ながら、やっぱり一緒にいるべきなのはこの人なのだと改めて強く思った。

 「響子ちゃん。俺ね、どんな響子ちゃんでも好きだから。どんな響子ちゃんでも受け止めるから。心配したり不安になったりしなくていいから。前に何があったのかは関係ないから。だから、もっと俺を頼りにして欲しい。好きな子が泣いてる所は見たくないんだ、俺」

 そんな五代の言葉を聞いた響子は、必死に抑えていた涙がもう止まらない。涙声でようやく声を絞り出した。

 「五代さん。ほんとに私でいいの?こんな私で」
 「きみじゃないとダメなんだ。ほら、手を貸してみてごらん」

 響子の左手を取った五代は、薬指にそっと指輪をはめた。

 「これ……。私が欲しかった指輪」
 「この前、それを欲しそうに見てたでしょ。もうすぐ響子ちゃんの誕生日だしね」

 大きな音とともに上がった大輪の花火と薬指に輝く指輪が重なった。

 もう、迷わない。あの夏の花火は、この夏の花火にはかなわない。一瞬、花火に三鷹の顔が重なったが、すぐに花火の輝きは夜空に吸い込まれていった。


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夏の香りに思いを馳せて、ギリギリであと一つ出します!
これは夏祭り部門での参加です。
これで、コンプリート達成ですね(^^)/

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このショートショートは、春の「曲から短歌」に参加した時にドリカムの曲から詠んだ短歌から連想して書きました。



星座から主役奪った夏花火
あなたも見てる?他の誰かと


あの夏の花火
で短歌を詠んでいました。
今回の「夏の香りに思いを馳せて」の夏祭り部門で何か書こうと思った時、これが頭に浮かびました。そこから、連想して書きました。
ただ、それだけではせっかくの花火のお話が悲しいだけのお話になってしまうので、別の曲をさらにくっつけるという力業に出る事にしました。


それは、薬指の決心です。
キラキラと輝く指輪(石が付いたもの)って花火みたいだなと思ったところから選びました。この曲の歌詞も、幸せな感じでいいんですよね。

昔の彼の事が心のどこかで引っ掛かっている彼女。そんな彼女の事をどんと受け止める器量のある彼。
思い出の花火を見て、過去に引っ張られてしまった彼女の事をちゃんと引き戻してくれましたね。これで、もう大丈夫ですね。多少揺れてしまったとしても、彼がしっかり受け止めてくれるから。

日頃、だらだらとした文を書いてしまいがちなのですが、今回はあえてサッパリと書いてみました。
そうそう、登場人物の名前、どこから取ったか分かりますか?
80年代のあのマンガ(アニメもありますけど)からですよー!





今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪


#夏の香りに思いを馳せて

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