敵いたくない

  「甘いお酒が好きなの」彼女は僕が持つメニューの、ファジーネーブルを指さして言った。「ファジーネーブルと日本酒、冷で」頼むと店員は笑顔で頷いて厨房に戻る。僕の好きな彼女、甘いお酒が好きな彼女からは、今日も甘い香りがする。「今日も可愛いね」僕がそう言って微笑むと彼女は、「甘ったるい言葉ね」と嫌そうな顔をする。「甘いのが好きなんでしょ?」と聞くと、「あなたのことは好きじゃない」と言う。今日も辛口だ。今日も、彼女は僕を好きにはならない。それなのに、すき焼きを奢られたくて僕の誘いに乗る彼女は、誰よりも可愛い。彼女はきっと僕のことをこれからも好きにはならないから、僕はいつだって彼女のことだけが好きだ。

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ほろ酔い文学

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