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『人魂を届けに』 イキウメ

2023年6月3日(土)14時開演
@シアタートラム
¥6,000

イキウメの新作は2年ぶりだそう。そっか、『外の道』以来ってことだ。あれも相当におもしろかったなあ。
再演でも新作でも絶対おもしろくて、いま一番楽しみにしている団体さん。チケットは必ず劇団先行予約でゲットしている。(先行で買った方が手数料がかからずお得なのだ)
客演に篠井さんが出ると言うのも大変に楽しみ。っつー訳でウキウキと出かけてきた。

《introduction》
人魂(ひとだま)となって
極刑を生き延びた政治犯は、
小さな箱に入れられて
拘置所の片隅に置かれている。
時々箱から聞こえる囁きは
周囲の者を当惑させた。
扱いに困った当局は恩赦として、
その魂を放免することにした。
生真面目な刑務官の八雲は、
その魂を母親に届けようと思い立つ。
山鳥と呼ばれる母親は、
樹海のような森の奥で、
ひとり隠遁生活をしているという。
八雲は箱入りの魂を持って山鳥を訪ねた。
その家では、傷ついた者たちが、
身を寄せ合うように暮らしていた。
彼らや山鳥と話すうちに、八雲もまた、
自らの物語を語りはじめる。

当日パンフレットより

このintroductionの文章は、チラシや劇団の公式サイトに掲載されているものとはちょっと違う。稽古場で試行錯誤してつくったと前川さんの談があったので、たぶん試行錯誤の結果で内容が変化したからじゃないかと思うんだけど。読み返してみるとやっぱりパンフの文章の方が合っているように感じる。
同じく前川さんの言葉に「ネガティブ・ケイパビリティ(答えの出ない事態に耐える力)が必要」とあって、なるほど~わからないままでいいんだ、と。『外の道』も今回の作品も、明確な答えとかわかりやすいオチも無いけど、そのままふんわりと飲み込んでいいんだな。(しかし、知らない言葉が続々と出てくるなあ。オバチャン覚えきれないよ、ほんと目まぐるしいねえ)

やー、しかし今回もよかった・・・(感慨のため息)。たいへんおもしろうございました。

劇場に入ったら、スモークが焚かれて外の通路まで烟っていた。カッコウやコジュケイ、鳥たちの声。客席は木漏れ日らしき照明があたって明るいが、舞台上は暗くてよく見えない。目を凝らすと、下手にベッド、奥にだるまストーブ、扉のない出入り口、上手にはカップボードが見える。
毛布を数枚ほど積んだ山が、床のあちらこちらに散らばっている。
開演してからも2、3分ほどそのままで、暗い舞台に役者さんたちが出てきてようやく明るくなる。

冒頭に「暴力を見逃して金を得たことによって魂が削られる」というエピソード。本編とは関係ないんだけど、このエピソードがこの作品の根幹なんだとおもう。人は生きているだけで魂を削られていく・・・。
森の奥で自給自足の生活をする山鳥(篠井英介)のもとに、身を寄せている人々。彼らは山鳥を母と呼び、傷ついた体や魂を癒しているのだった。寒い、さみしい、お母さん・・・
死刑になった者の魂(と思われるもの)を届けにやってきた刑務官の八雲(安井順平)も、同じく大きな傷を負っていたのだ。けれど彼はそのことに気づかずにいた。

八雲の息子は行方不明になり、妻も出て行った。「うまくいってると思ったのにな」と言うが、そうは見えない。どちらも原因は八雲にありそう。
棗(藤原季節)がこの家にいる理由を語るうち、いつの間にか追い詰められた八雲の息子の話と混然となる。息子を失った八雲の妻は深く悲しみ、彼女が心を落ち着かせるために書いた言葉たちを、八雲は無断で公募に出してしまう。優秀賞に選ばれたと喜ぶ八雲に、妻は「返して!」と詰り号泣する・・・。
床に寝ていた葵(浜田信也)が身を起こすと、それだけで八雲の妻になっているのがすごい。
「そういうところよ」・・・なんというなまめかしさ。長めの前髪を耳にかけるしぐさ。この日最前列、ちょうどアタシの目の前でこの光景を見て、めちゃくちゃ見惚れてしまった。邪な視線を送ってホントすみません・・・!

八雲は刑務官という仕事を続けるうちに魂は削られていき、逆に家族の魂を削っていたんだな。
死刑制度に犯罪を抑止する力はない、という考えを持ちながら刑の執行を続けていたのだ。
息子が好きだったミュージシャンのライブに出かけた八雲は、そこで銃乱射事件に遭い膝を撃たれる。ミュージシャンが客席に向けて撃った弾が当たったのは八雲だけ。八雲は奇跡だと言って、まるで喜んでるみたいだった。ミュージシャンは山鳥のもとにいた人間だった。

山鳥の家に身を寄せる男たちの中に陣(盛隆二)がいた。彼は公安警察で「山鳥のもとから街へ戻った人間たちが、犯罪や事件を起こしている」と言う。山鳥のパートナーが公務員で、公文書の改竄に関わったために自死した。国に対する復讐のため、テロリストを仕立てて送り込んでいるのだろう、と。
山鳥は一笑に付す。「何を怖がっているの?」「ただここで生活しているだけのおばさんを」
「あなたはおばさんではない。男だ」と陣が糾弾する。(この時の空気が凍ったような感じがすごかった)。でも・・・山鳥が男だからって、何か意味がある? だから何、だよねえ。

陣は山鳥について報告するために街へ戻ろうとするが、何度トライしても森で迷って行き倒れ、その度に山鳥に助けられるが体調をひどく崩してしまっている。
助けることないのにと棗はぼやくが、山鳥は「悪人だって救われていい」と言う。
山鳥は『キャッチャー・イン・ザ・ライ』ならぬ『キャッチャー・イン・ザ・フォレスト』。生きるのが難しい人を救っているのだ。
でもその人たちが、政治犯になったり銃を乱射したりしてしまうのはどうしてだろう。山鳥はそれを聞いてどう思っただろう。

政治犯の魂だと言って黒いカタマリを持ってきた八雲だが、もしかしてそれが自分の魂じゃないか? 魂がないと妻に言われたけど、あれがそうじゃないかと言い出す八雲。
山鳥は違うよ、あんたの魂はちゃんとここにある、と。
あの子(死刑になった政治犯)があんたの魂をここに届けてくれたのだと。

「あした街へ戻る。母さんの志を継ぐ」と棗が言い出す(さっきは陣を助けることないって言ってたのに)。餞(はなむけ)にごちそうを、ということで例の人魂を鍋にして食べようと言い出す山鳥。八雲は焦るが、他の面々は「火を通せば大抵のものは食える」などと飄々としていて可笑しい。(あの真っ黒な臓物みたいなものを食べるのは勇気が要る気がするけど)
そして八雲は刑務所のキャッチャーになるのだと言う。落ちてくる受刑者をキャッチする・・・「そういうものに、私はなりたい」。

なんだか突然の宮沢賢治で幕。
ふわっと希望が見えたようなラストですこしホッとする。
でもなあ。この昨今の日本の壊れ具合からすると恐ろしいというか思いやられるというか。魂が削られてばっかりじゃない? 意味不明の悪法や傍若無人な増税、あからさまな犯罪なのにスルーされるお偉いさんたち。山鳥のパートナーの件はたぶん森友事件だろうし。前川さんがリアルにこの世の中を憂えているのだろうなと。

いろいろずっしりした感じで書いたけど、けっこうクスッと笑える部分もあって。
八雲がやけに鶏鍋に執着して、ことあるごとに食べたがるけど、その度にピシャリと「今じゃない」って言われるのが可笑しい。そしてぽそっと「じゃあいつなんだよ・・・」と呟く八雲。安井さんの可笑しみは最強だなあ。
魂といえば「白くてふわふわしたもの」だとみんなが言うところとか。

気になったのは、時折鳴るカチリという音。劇中に数回かな、大きくないけど割と印象的に差し込まれるんだよね。落花生の殻ををむく音かと思ったけど違ったし。あれは何だったんだろう。

冒頭のエピソードで一万円で売られた魂として、小さいボトルに黒いドロっとしたものを掲げ「汚ねえ魂だな」と言っておいて、これみよがしに飲み下すシーン。オエッと思ったけど、あれはコーヒーゼリーかな、などと考えてしまった。すみません。

その一万円札は壁の釘(?)に刺したまま、劇中ずっとそこにあった。ダミーだろうけど、ちゃんと絵柄のある紙だったのに、八雲の妻が破り捨てる3万円分の商品券は白無地の紙だった。なぜだろう。特に意味はないのかもしれないけど、ちょっと考えてしまった。

いつも以上に散漫な文だな~。
まあともあれ大変によいものを観たと。話も灯りも音も、役者さんも皆さん素敵で。やはり篠井さんは中でも最強に素晴らしかった。
たぶん少しだけ、魂の養生ができたとおもう。

大阪公演は6/18まで。当日券は毎日出るので、ご都合のつく方はぜひ!


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