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-映画紹介-『NANA』 繰り返す日々に何の意味があるの?

《乱れ撃ちシネnote vol.78》 


『NANA』 大谷健太郎監督 2005年公開

鑑賞日:2023年3月27日 u-next

【Introduction】
前回の『ジュリエットからの手紙』に

出ていたヴァネッサ・レッドグレーブを初めて観たのはミケランジェロ・アントニーニ監督の『欲望』(1966)。大学2年の時。
よく分からないムツカシイ映画だったとしか記憶にない。

懐かしい女優さんなので最近作を観てみようと選んだのが『大統領の執事の涙』(2013)。
綿花畑で父親と一緒に働いていた黒人の男の子が7人の大統領に仕えるまでに成長・成功した実話ともとにした作品。
そこそこ面白いけれどさして記憶に残る映画でもなかったので、「反=恋愛映画論」にリストアップされている【オールタイム・ベスト恋愛映画日本編】の佐々木敦編に続いて児玉美月編を観始めた。

◯『カルメン純情す』木下恵介監督  1952年公開 ☆☆
この作品の笑いのセンスがまったく分からないというか共振できない。
前作の『カルメン故郷に帰る』も全然笑えない喜劇だったけど。

10年ほど前に高峰秀子の「わたしの渡世日記」を読んでビックリして「高峰秀子の流儀」、「高峰秀子との仕事2 忘れられないインタビュー」、「パリひとり歩き」高峰秀子(新潮社) 、「高峰秀子 夫婦の流儀」、「まいまいつぶろ」、「にんげん住所録」、「高峰秀子の捨てられない荷物」「いっぴきの虫」、「高峰秀子 旅の流儀」「ユリイカ特集高峰秀子」、「瓶の中」、「にんげん蚤の市」、「旅日記ヨーロッパ二人三脚」、「台所のオーケストラ」、「にんげんのおへそ」、「高峰秀子のレシピ」、「おいしい人間」、「コットンが好き」、「瓶の中」、「高峰秀子解体新書」、「高峰秀子の引き出し」などを読みふけった。

何本かの主演作を観ているけれど女優高峰秀子には一切興味が湧かないけれど高峰秀子という女優を演じている松山秀子もしくは平山秀子は稀に見る素敵な女性だ。

物心つくかつかないかの時にオーディションに受かり好きでもない映画業界に入れられ、マネージャー代わりの性格の悪い育ての母親と彼女のお金目当ての親戚や周囲の人間たちに囲まれて育つ。
欧米でもほとんど例のない子役時代から成人に至るまで一生涯大スターの道を歩んだ高峰秀子の生き方はカッコいい。

オーディション現場をちらって見て「黒ちゃん、ちょっと面白い男来てるよ」と黒澤明監督に教えて黒澤監督がオーディション現場に覗きにいかなければ「君、ちょっと悲しい顔をしてくれないかな」と映画会社の重役やら大監督から注文を出されて「悲しくもないのに悲しい顔は出来ないよ」と憮然と答えた三船敏郎は役者にはなっていなかっただろうし、戦地からのファンレターの宛先に「日本国 高峰秀子様」で手紙が届くほどの大スターが選んだ結婚相手が自分より年下で遥かに格下の新人助監督(松山善三)で彼に一生涯尽くした。
市川崑監督が制作した『東京オリンピック』に関しての喧嘩の売り方もカッコいい。
この話はちょっと長くなるけど知らない方のために。

1964年に東京でオリンピックが開催された。
日本国は終戦後19年目。
世界に冠たる工業大国に成長した日本でのオリンピック開催に全国民が湧いた。
当初はこのオリンピックの記録映画を黒澤明監督が制作する予定だったがそれは叶わず最終的に市川崑監督が担当することになった。
スポーツ音痴の市川監督が総勢550名のスタッフを揃え164名のカメラマンを動員して記録した映画が『東京オリンピック』。
3月8日に行われた試写会の会場でオリンピック担当大臣河野一郎が臨席した東京都知事に「記録性に欠ける」と批判めいた感想を漏らし、それを聞いた新聞記者が大々的に報道したことにより映画『東京オリンピック』は記録映画か芸術作品かという大論争を呼び起こすことになった。

その時のワタクシメの日記です。
「五輪記録映画」の試写会が終わって意見が真っ二つに分かれた。
一方は河野大臣の意見で「あまりにも記録性がなく、日本選手の活躍も見られないし、勝敗が分からない」というので、他方は谷口監督等の「もの凄くいい、芸術性にとんでいて若者達のつどいが適格に出ている」というのだ。
未だ観ていないのだが、僕としては後者に今のところついている。
勝負などは皆知っているのだ。市川崑監督にまかせたのだから今になって文句を言うのもおかしい、それにオリンピック委員及び選手の一部であろうが、自分たちが活躍しているところが少ないなど文句を言うのはバカの骨頂である。
少しいい気になりすぎていると思う。
僕は始めからこの映画に記録性は望んでいない、一本の芸術的な映画として観るつもりだ。大臣等の申し出によりあと何十倍も残っているフィルムからやり直してもう一本記録性を持つものを作るそうだが、そういう映画は選手、役員、委員会のバカ者に見せればいいのだ。
今度のことは、あまりにも市川崑監督を侮辱している様に思えてならない。
監査した仲間たちは皆素直な気持ちでよくあの少ない予算であれだけのことが出来たなぁ〜と賞賛の拍手を送っている者は大勢いるというのに。
あれで、いいではないか、市川監督の見たオリンピックなのだから。
本当にツマランことをいう奴等が多い。
しかし、もう一本作ることに決まったらしいので、今さら文句を言ってもしかたがないが、両方ともが、いい評判であります様に。
(1965年3月10日の日記)テスト期間中でした。

河野大臣の「記録性にかける」という発言に対して映画業界は誰一人声を挙げなかったことに業を煮やした高峰秀子は「市川作品はオリンピックの汚点だなどと乱暴なことばをはくなんて、少なくとも国務相と名のつく人物のすることではない」と3月18日の東京新聞で声をあげた。

高峰秀子が言いたかったことを簡単にまとめると。
◯市川崑作品は一般的な「記録映画」ではなかったけれど「参加することに意義がある」というクーベルタンのことばをこのように生き生きと美しく表現した五輪映画ができたことに感動した。

◯市川監督がオリンピック映画の総監督に選ばれたと聞いた時、「お役人もなかなかしゃれた人に目をつけたじゃないか。」と思ったが、それは私の早とちりだったらしい。関係者はそんなに大切な仕事をまかせる市川昆監督作品を1本も観たことがないのだろう。でなければ、完成したフィルムを「編集しなおせ」だの「もう1本つくれ」といった非礼なことが言えるはずがない。

◯どうしても「記録」にこだわるなら、一部の人が言うように「記録映画」を作ればいいのだ。何本でも納得のゆくまで作ったらいい。どうせ私たちの税金は満足のいく使われ方はしていないのだから。

なんと男っぽい高峰秀子!
なんとなくもじもじしていた映画業界に苛立った高峰秀子は「オメーらバカいってんじゃねよ」とたった一人でオリンピック委員会に啖呵を切ったのだ。

高峰秀子は1979年に女優を引退し夫婦2人で住むには今までのような大きな邸宅は必要がないので小さな家に建て替えた。
その時、過去に受賞した映画賞の賞状もトロフィーも全部廃棄している。「だって今度の家は狭いんだもん」という理由で。

日本人女性でこれほど男前でカッコいい女性をぼくは知らない。
ひと目だけでも生前にお会いして「大好きです」と伝えたかった。
2010年12月28日死去 享年86歳。

高峰秀子は別格な女優だ。
最近での別格はシャーリーズ・セロンだけど。

っが、しかし
『カルメン純情す』は面白くもなんともない。
笑いのセンスがぜんぜん分からない。
一つだけ気になった。
ほとんど全編カメラが傾いているのは何の意図なんだろう?

◯『美しさと哀しみと』 篠田正浩監督  1965年日本 ☆☆☆☆
全然期待していなかったけれど予想外に面白かった。
大好きな加賀まりこ(撮影当時23歳)も小悪魔的魅力で素敵だが、いつもは可愛らしいと感じる八千草薫のこの映画での美しさには溜息が出てしまう。こんなに八千草薫(撮影当時34歳)の美しさに見とれてしまう映画は初めてだ。
好きな物語ではないけれど八千草薫に☆☆☆☆。

◯『風たちの午後』矢崎仁司監督  1980年日本 ☆
40分ほどで途中下車。何も感じさせない意味不明な映画。

◯『死ぬか生きるか』村橋明朗監督  2022年日本 ☆☆☆
この作品は【オールタイム・ベスト恋愛映画日本編】-児玉美月編-とは関係ない。
大好きなパーカッショニストの吉見雅樹さんがこともあろうに映画に主演したということなので怖いもの見たさでつい観てしまった。
話はそれほど面白くないけれど吉見さんの演技は予想以上に自然で良かった。ただし受けの演技は難しいんだろうな〜とつくづく感じた。

◯『親愛なるきみへ』ラッセ・ハルストレム監督 2010年アメリカ ☆☆☆
邦画ばかり観ているのも疲れるのでちょっと寄り道してしまった。
ラッセ・ハルストレム監督と言えば、たった一人で宇宙に飛ばされたライカ犬よりもぼくは幸せだという坊やの『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』とかレオナルド・ディカプリオが知的障害坊やを演じた『ギルバート・グレイプ』などの切なさ映画の巨匠。
にしてはチョット食い足りないし大好きなアマンダ・サイフリッドもイマイチだし。

◯『戦場のメリー・クリスマス』 大島渚監督  1983年 日本☆☆☆
つまらないとは言えないけれどくとりたてて面白くもない。
若い頃ほんの一時期大島渚監督が大好きだったことがある。
『無理心中日本の夏』(1967)『絞首刑』(1968)とかの頃。
本作品は終戦間近のジャワ島の捕虜収容所の話で戦闘画面のない戦争映画も珍しい。
ビートたけし、内田裕也、三上寛、ジョニー大倉など日本軍の兵隊たちの面構えがいい。日本軍ってこうだったんだろうね、と深く納得出来るキャスティング。
デヴィッド・ボウイにはそれほど感じなかった。
圧倒的に坂本龍一の音楽が良かったけどただそれだけ。

◯『渚のシンドバッド』橋口亮輔監督  1995年日本 ☆☆
何?この映画、で、30分ほどで途中下車。

◯『贅沢な骨』 行定勲監督  2001年 ☆☆
まったくつまらないので30分で途中下車。

今回も【Introduction】ばかり長かったのですが、ここから本題。

『NANA』(2005) 大谷健太郎監督 
前回観たときはまぁまぁかな程度の映画だったのに今回は☆☆☆☆だった。中島美嘉と宮崎あおい。
見てくれからして真っ向対立する2人のNANAの物語。

東京に住む彼氏と同居するため上京する小松奈々(宮崎あおい)とミュージシャンとして成功するため上京する大崎ナナ(中島美嘉)。
出身地は異なる同い年の2人が偶然新幹線で隣の席に。
その後ひょんな偶然から奈々とナナは同居することになる。
ナナの所属するバンド BLACK STONES と恋人の本城蓮が所属する 売れっ子バンドTRAPNEST。
2つのバンドのメンバーたちを交えて恋物語が展開する。

【Story】
小松奈々(宮崎あおい)は大学時代から付き合っている彼氏を追って新幹線で東京に向かう最中に全身を真っ黒のパンク・ファッションの女性と隣り合う。
彼女の名前は大崎ナナ(中島美嘉)、地元でBlackstonesという人気バンドのボーカルの女性。
Blackstonesは揺るぎない人気を獲得していたがある日大崎ナナの恋人本城蓮にだけ他のバンドからの引き抜きの声がかかり蓮はナナに分かれを告げて東京へ。
お嬢さま系小松奈々とパンク・ファッションの大崎ナナ。
新幹線で出会った全く異なる2は妙に気が合いました。

新幹線で分かれを告げたはずの2人は偶然東京で出会いルームシェアすることに。
ナナは奈々に東京でバンドマンとして成功する夢を語る。
ナナを追ってバンド仲間のギターのノブもヤスも上京して新たにベーシストを迎えて東京で再出発だ。
奈々は彼氏の章司との生活に胸を躍らせて東京に出てきたが章司は同じバイト先の幸子という見た目も可愛く話も自分と会う女の子に心惹かれ始めていた。
ある日奈々は章司にナナを紹介しようと章司と幸子の働くバイト先を訪れる。
幸子は初めて章司に恋する奈々の姿を見て、自分のしている事に罪悪感を感じ、章司と別れようと決意するが章司はそんな幸子を「奈々と別れるから」と言う。
そのやり取りを目にした奈々は呆然としながらも章司との関係を終わらせます。

そんなこんなで、物語は佳境に・・・。

【Trivia & Topics】
*キャスティング勝ち。
見てくれも性格も正反対の宮崎あおいの奈々と中島美嘉のナナがはまっている。

*大ヒット作品。
2005年9月に公開して日本だけで動員人数300万人を超える大ヒットし2005年度邦画第4位という記録的ヒットになりました。
中島美嘉は日本アカデミー賞優秀主演女優賞と新人俳優賞受賞。

【5 star rating】
☆☆☆☆

【reputation】
Filmarks:☆☆☆★(3.1)

Amazon:☆☆☆☆★

u-next :☆☆☆☆★




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