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失敗する人の魅力

飲みながらタバコ吸いながら柔軟やってる(あー効く。何もかも)週末の水宮です。皆様いかがお過ごしでしょうか。
五十肩は腕立てやったら消滅しました。


さて。令和のコンプラ世相。失言もそうだが失敗をしないための必死さよ。よくあるフレーズ。
「失敗しない◯◯」。お医者さまも失敗しないらしいし。
でも、失敗する人の方がずっと魅力的、と最近は思う。


WBCで指を骨折しながら決勝までプレイした源田選手。
そこで試合に出さない監督も多いだろうが結果はあの通り。


『傷ついた者のセクシーさ』は、江戸時代にも文献が残るという。たとえばいい男・女はちょいと病んでるくらいがグッとくると。目を病んでる者が手にしている紅い布地やら。
昭和では学校の朝礼で貧血を起こすとか包帯を巻いてる奴が何故か注目を浴びるという(少女漫画やメロドラマなどの影響と思われる)のでわざとする者もかなりいた。


傷もの。失敗。ああやらかした。
学業仕事恋愛結婚お支払い人生設計までスマートにやろうとする人は多いだろう。誰だって嫌な思いはしたくないしさせたくないものだから。


本当に?


失敗をする者が愛されるケースも有史からある。
誰かの愚かな行いで周囲が笑って学ぶ。でも自分が当の笑われしくじりパーソンになるのは嫌だろうね。ええ、しんどかったっスよ。


精神疾患というもの、今や一つや二つくらいそれを持たない方が珍しいかもしれない。今日びのたしなみの一つみたいになってるのか。悲惨自慢は果てしなく。


顧みる。
私も御多分に洩れずだった。
その根っこにいつもある、カビの根よりもガンコな被害者意識。T兄がいつだか、被害者意識の怖さをぽつんと言っていた。


被害者意識のオーバーヒートした奴がモンスター某化したり突如大量殺人鬼になったりするのは知られている。じゃあ、真犯人は誰だったわけ?

お前ダメな奴と笑われて平気なメンタル。いじられて平然としてる鈍感力(羽生名人が話題になった時よく言われた言葉。彼は細かいことをいちいち気に病まない→鈍感力が強いから大局で落ち着いていられるのだと)。


その人はなんと調和の取れた心優しい人物であることか。その人がもし他者を責めずにえへへと笑ってるとしたら。普通にその辺にいるけど稀だ。彼ら彼女らの特徴は目立たぬことだ。控えめで穏やかで、いつも笑っている。誰かに何か「された」「してくれない」という発想をそもそも早い段階で捨てて、己に向き合っている。


だが、失敗してアワアワするものもかなり万人に愛される。
たとえば猫が高い所へ飛び乗ろうとして落ちて大慌てするなどの動画で人はつい笑う。当の猫にしてみれば(プライドの高い生き物だし)屈辱だし恥だ。決まりが悪い。それをカバーするための毛づくろいまで可愛いと言われる。


T兄と暮らし始めた頃、私は失敗しないよう必死だった。
好きな男性の手前だ。心臓バクバク滝汗状態の毎日だが頑張っていた。
そんなある晩、私は決定的なヘマをやらかした。
いつも白米の上に振っていたゴマの入った容器を誤ってキッチンのゆかにぶちまけてしまったのだ。


「終わった。」私は思った。


取り乱し、半べそをかきながら、でもゴマももったいないもんだからしゃがんで手指で拾い集め始めた。
本当に涙が出ていた。彼の前では失敗しないつもりだったのに。恥ずかしい。情けない。見ないで、みっともない私を。

T兄は急いでそばへ来てしゃがみ、一緒に拾い集めてくれた。一所懸命私を慰めながら。しかもおかしなことを言って笑わせようとしながら。涙はさらに湧き出て、ゴマ粒がよく見えない。
でも、おかしな言葉でついククッと笑ってしまうと肩の力が抜けるのは本当だ。緊張していたらいつかは破裂しちゃうのも。


この人は。
いつも口は悪いけれど、いざという瞬間にはちゃんと優しく私の心の膿をつついて出して、ラクにしてくれるのだ。俺だってダメなんだよと笑って。
私はもうごはんなんて要らなかった。早く食べて。冷めてしまう。その料理だって大したものではない。彼の好みとかをまだよく知らなかったし。
彼をもっと知りたい。


思いがけず失敗した時、そのたびに双方の距離は急速に縮まった。
カッコいいところを見せることの100倍も、それは愛情とハートの修復時のあたたかな笑顔を生んだ。


『人間失格』みたいに「ワザと」やるのじゃ嫌味でしかない。狙った作りに魅力なんかない。いびつで計算は不可能。愛はそういうところから生まれる。


精巧なAIのアート作品や小説やアイドルを真のところで愛することが出来ないのが、古い人間の愛すべきところかもしれない。そしてそのセンスは、AIなどよりずっと先駆けてるものだと個人的には思う。



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