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Webディレクター人材問題③ 可視化は困難!? Webディレクターの“経験”について考える

Webディレクター人材のマッチングにあたり、スキルの他にもうひとつ「経験(もしくは経歴)」について考えることも重要だと思っています。

以前の記事(Webディレクター人材問題① なぜWebディレクターは人材不足と言われているのか)で書いた、マッチング率が低い要因のひとつ「特定の資格がなく参入があまりにオープンすぎて、個々の人材によって定義がバラバラすぎるから」と関係してくるので、この点を少し考察したいと思います。


Webディレクターはどこからでも生えてくる

突然ですが、Webディレクターになるにはどこで働けばいいと思いますか?

…はい、今あなたが想像した会社の形態と、隣の人が想像した会社の形態は、異なる可能性が高いですね。その会社もあの会社も、数多くある選択肢のひとつにすぎません。

私がいま思いつくだけでも。

広告代理店、制作会社、マーケティング支援会社、PR会社、Webソリューション事業会社(例えばECサイトの提供会社や、CMSを提供するSaaS会社みたいなものも含まれる)、イベント運営会社、ITベンダー、コンサルティング会社、自社サイトをインハウスで運用する事業会社全般、Webで営業・集客をしている事業会社、ECマーケに参画している事業会社全般、Webコンテンツ運営会社、Web・アプリ事業会社、人材派遣会社……。

Webを使ってビジネスを行っているあらゆる企業に、Webディレクターを必要とする可能性が眠っています。つまり、現代社会にあるほとんどの企業。 見出しの通り、Webディレクターはどこからでも生えてくる(あるいは湧いてくる?)可能性があるのです。言い方。

裏を返せば、背景もスキルも経験もまったく異なる環境で働いている人たちが、「Webディレクター」というひとつの肩書に内包されているとも言えます。

ビジネスが変われば、Webディレクターが経験することも変わる

上述した企業の中には、発注側も受注側も、あるいは両方やっている企業も、Web事業が戦略上の肝となっている企業もそうでない企業も、目的なくただの義務感でWeb事業をやっている企業も存在します。

当たり前ですけど、事業内容や目的が異なるのだから、そこで働くWebディレクターが得られる経験も異なります。

一概には言い切れませんが。
広告代理店では成果や数字に向き合った経験が、制作会社ではクライアントからの要望を形にしていく実現力に関する経験が、Webソリューション事業会社では自社プロダクトという一定の機能制限があるものを使ってどうやりくりするかという応用力に関する経験が、ITベンダーでは社内のエンジニアと丁々発止しながら開発を進めていくプロジェクトマネジメントに関する経験が、事業会社では自社事業のPRや予算調達能力などの企画力・業界特化・社内調整力に関する経験が備わっていくのではないでしょうか。

良く言えば多様性のある仕事と言えるでしょうが、悪く言えば同じ肩書で働く人材間に共通性・再現性を見出しにくい仕事とも言えます。

“制作会社”という制作会社は存在しない

これで話が済めば、まだ単純なのですが。
実際のところは、この「◯◯会社」というカテゴライズの中でも、やっているビジネスも学べることも強みもニーズも、1社ごとにまったく異なります。

例えば制作会社。企業としての規模の大小、請け負うプロジェクトの内容や大小、内製重視か再委託を前提とするか、自社サービスを持っているか請負専門か、クライアントは代理店か事業会社(直案件)か、新規重視か既存重視か、クライアントの事業形態(toB/toC、業種、企業規模や業界ランク)、依頼されるWebサービスでクライアントに求められていること(営業ツール、広報ツール、ブランディング、情報発信、業界向けなど)…。枝分かれの要素はいくらでもあり、それぞれに得られる経験も変わってきます。

UXの世界ではよく「“ユーザー”というユーザーは存在しません」と言われますが、それと同じで“制作会社”という制作会社もこの世に存在しません。

人によっては、「制作会社で働いていましたが、クライアントのWeb事業に関するプランニングを一手に引き受けていました」ということもあります。これだと経験としては事業会社やコンサルティングに近いのかもしれませんし、あるいは企業理解・文脈理解に関する経験が大きく備わっているかもしれません。
しかしこの言葉だって、それこそ常駐していたぐらいそのクライアントと濃密な時間を過ごしたのか、そのWeb事業の成否によって得られる報酬が変わったのか(レベニューシェアのような)などによって、負わなければいけない責任も異なり、そこで得られた経験の質も変わってきます。

この経験の違いを書類で言語化できるのか

同じ言葉で表せるスキルでも、「そのスキルをどのように活用したか」という個人の経験の違いによって、そのニュアンスが意外なほど大きく異なっています。

問題は、このニュアンスを簡潔に言語化することが難しい点です。

したがって、いざ企業が募集要項で、あるいは応募者が職務経歴書で記載しようとすると「Web制作・開発におけるディレクション全般」といった一言に集約してしまいます。大事にしていた価値観も培った経験もスキルも、すべてニュアンスをばっさり落とされたこの言葉で、企業も求職者も何十何百という選択肢の中から優先順位を見極める必要があるのです。共通性・再現性を見出しにくい仕事なのに。

これほど異なるビジネス経験と価値観を積み上げた人々が、採用市場では「Webディレクター」という同じテーブルに一緒くたに乗せられているのです。恐ろしい。

「Webディレクターならこれはできるよね」という共通項がほとんど無いのが、Webディレクターという職業の特徴だと思います。スキル面でも経験面でも。企業側にも思い描くWebディレクターに出会える努力が必要なわけです。しんどいですね。そしてまた“汎用性の罠”に陥ってしまう…。

だからWebディレクター同士で話が噛み合うとは限らない

「同じWebディレクターでも、いざ話をしてみるとまったく噛み合わないなんてザラ。むしろ話が噛み合う方が珍しいぐらい」と以前書いた意味が、理解いただけたでしょうか。

仕事以外でWebディレクターやっていますという人とたまたま出会って少し話をしてみると、最初はお互いの領域・タイプを見極めていく作業が始まります。その中で共通項を見出すことができたら、そこからは打ち解けた空気になっていく可能性が高いです。ただ、共通項を見いだせなかった場合は難しい。最後まで盛り上がったような盛り上がらないような、なんだかしっくりこない雰囲気でその場が終わり、「なかなか無い縁なので、何かありましたらお互いフランクに相談しあいましょう」とにこやかに連絡先を交換して終えます(もちろん共通項を見出したときも終わり方は同じです)。

話が噛み合わないのは、私が隠れ人見知りだからではない。断じて。

でもこれって本来なら当たり前ですよね。だって、「営業やっています」という人同士が、この言葉だけで同志として分かり合えることなんてめったにないと思います。なのになぜかWebディレクターという人種は、自分たちを専門職と思っているのか、あるいはいつも進行管理という孤独かつ矢面に立つ仕事をしているからなのか、同じ肩書を持つ人間に出会ったらつい「分かり合えるのでは」と期待してしまうのです(個人の感想です)。

いろいろ言いましたが、とはいえWebディレクターとの交流は噛み合わないことも含めて決して嫌いではありません。隠れ人見知りですけどね。

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