Webディレクター人材問題② Webディレクターが求められる“広範なスキル”の背景を考える
そもそも、Webディレクターってどういった職業にあたるのか。
クリエイティブ職?IT職?専門職?
…既にこの時点から、会社ごとに認識の差がありそうです。
個人的には、どれもそうとも言えるしそうとも言えないなぁ、という印象です。
“なくてはならない”スキルはほとんど無い
冒頭から暴言ですが、表題で「広範なスキル」と書いてあるものの、実はクリエイティブスキルがなくてもIT(実装)スキルがなくても対人コミュ力がなくてもWeb知識がなくても(!)、Webディレクション自体は可能です。
クリエイティブは、社内やプロジェクトに優秀なアートディレクターがいれば、その方の主導のもと品質担保は可能
コンセプト・企画提案は、全体をまとめて企画書整理・プレゼンまでできるプランナーがいれば大丈夫
アクセス解析などのデータ分析は、ストラテジストがいれば問題なし
コンテンツは、編集・ライターなどに段取りを任せることが可能
設計・要件定義に関する部分は、フロントエンド側の知見あるWebデザイナーかフロントエンドエンジニアがカバー可能
実装に関する部分は話せるエンジニアが定義可能
サーバーに関する定義も、話せるバックエンドエンジニアがいれば可能
コーディングは、知見あるWebデザイナーかコーダーが主導できるならそれでOK
見積・工数出しやクライアント折衝は、できる営業マンがいたらOK
世の中は優秀な人であふれています。Webディレクターとよばれる人にしかできないスキル・領域はほとんど無いのです。
これは当然のことで、ディレクションとはこうした優秀な人に優秀な仕事をしてもらうための環境・体制づくりをすることで、自分自身が特化した専門家である必要はないからです。
しかし、Webディレクターに絶対的に求められるスキルももちろんあります。それを、求められる任務から逆算したいと思います。
Webディレクターという人材に求められること
というわけで、「スキル」から「任務」に少し論点をずらします。
このWebディレクターという職種、ひとつだけ確実に求められる任務があります。それは、進行管理=プロジェクトを進める/管理すること。そりゃそうですよね、なにしろ和訳は「管理者」だから。
進行管理
プロジェクトを、キックオフから終了(納品・公開・運用フェーズへの移行など)まで導く仕事。具体的には、プロジェクトのタスクを「誰が」「何を」「いつまでに」「どうやって」実行するかの計画を整理して関係者の合意を取り、その計画に即して案件を進めていくこと。
そう、案件が計画通りに進みさえすればいいのです。
だから上述したように、それぞれの領域にメンバーをそろえ、彼らに要件を定義してもらい、全体スケジュールを作成して同意を得られれば、後はディレクターがボーッとしていても案件は走ります。あくまで理論上は。
ディレクターに求められるのは「進める」能力ではない
そのためなのか、たまに「ディレクターって何やっているの?」と思う人が現れたり、見積の費目を眺めながら「進行管理っていらなくない?」と真顔で言い放つクライアントが現れたりするわけです(進行管理費=利益の上乗せと思っている人もいたなぁ…)。
だが問題は、世のプロジェクトは計画通りに進むことがまずないということです。計画通りに進まないのがデフォルトだから、都度適切な状況把握、見直しの見極め・判断、関係者への調整を図ることができる人材が必要になってくるわけです。
というか、「進行管理っていらなくない?」みたいな考えを持っている人は大抵スケジュールを破壊する元凶をつくりがちなので、まさにあなたみたいな人がいるからWebディレクターが必要になってくるわけですよ(個人の感想です)。
計画通り進まない主な要因(一部)
以下の全てを事前回避できますか?
そもそも既製品ではない、まだ世にない商品・サービスを作ろうとしているのに、計画段階で非のうちどころのない要件定義をすること自体、ちょっと無理がありますよね。
何があれば進行できる案件なのか
さて、この「Webディレクターの任務=進行管理」ということを前提に、話をスキルに戻します。
Webディレクターに求められる任務は進行管理
プロジェクトはあらゆる局面で計画通りにいかない要因が隠されている
そのすべての要因に対して適切に対応・調整し、進行管理を全うするためには、Web制作に関わるすべての領域についての知見を求められる可能性がある
これが、Webディレクターに広範なスキルが求められる理由です。
ですが、この論理はあくまで「どんな局面でも対応できるWebディレクターでありたい」あるいは「どこに行っても(あるいはフリーランスでも)活躍できる人材になりたい」というWebディレクター視点での理想の論理です。企業視点=企業にとって必要なWebディレクターのスキルセットとは論点が異なります。
自分たちのプロジェクトに必要なスキルを考える
実際のWebプロジェクトは大小様々で、というかWebディレクターに求められるとされるスキルをフル活用するプロジェクトは、そこまで多くないと思います。
例えばインナーブランディングに強い制作会社で働くWebディレクターには、マーケティングの知見は無くてもいいから、クライアントの企業理念やビジョンを深く理解しコンテンツ化できる能力を期待するはずです。
制作会社であろうと事業会社であろうと代理店であろうと、多くの企業は注力する/あるいは得意な領域や分野などを持っているはずです。そしてそのプロジェクトにおいて、絶対に必要/付加価値性の高いスキルと、別に無くても困らないスキルが必ずあるはずです。
その見極めをした上で、Webディレクターに求めるスキルセットの優先順位を考えていく必要があると思います。
なんでもこなせるWebディレクターについて
…と、文字にするとバカみたいに当たり前のことを言っていますが、現場にいるとここの判断がブレがちになります。
なにしろ現場ではいろんなことが起こります。そのため、「どんなWebディレクターが欲しいかな?」と現場に聞いたら、何にでも対応できる万能型人材を求めたくなります。
しかし、この万能型人材(そんな人が現実にいるかはさておき)を採用できたとして、その人は本当に会社にとって最適な人材なのか。
鍵となるのは、人材戦略という観点です。
新規採用=社内メンバーのこれからも含めた人材戦略
実際のところ、広範なWebディレクターのスキルをすべて兼ね備えている人材が必須の会社は限られています。だって、ほとんどの会社には、何かしらの領域に秀でた能力を持ち、実際にそれで社外的な評価を得ている社員が既に存在するはずだから。
例えば、「社内のデザイナーがフロント対応せず制作活動に専念できるよう、ひと通りなんでもこなせるディレクターが欲しい」と思っている場合。
気持ちは分かります。
クリエイティブ能力の高い方がフロントに立つことは、「そこに工数かけることが適切なのか」「この方のバリューってこの仕事か?」といった自問自答を引き起こすことになります。
ただ、少なくともクリエイティブ領域のプレゼンに関しては、現メンバーが得意だったはずですよね?それなのに、ひと通りできるWebディレクターがアサインして、その領域のプレゼンまで担うようになったら、むしろ社内のデザイナーの成長を止めてしまうことになりかねません。あるいは下手にクリエイティブの知識があることで、現メンバーとの意見の衝突を起こすリスクも鑑みた方がいいです(あえて衝突を起こすというなら話は別ですが)。
ではこの万能型人材に、クリエイティブ領域の担当を外れてもらいましょうか。しかしこの方は、自らのカバー領域の広さにプライドを持っているかもしれません。あるいは、この会社を選んだ理由がクリエイティブの知見を深めたいからかもしれません。その方からこの領域を奪うということが、どんな作用をもたらすか…。
なんでもこなせる万能なWebディレクターが、必ずしもあなたの会社を発展に導くとは限らないのです。言っていて悲しくなりますが。
なので、前回の記事(なぜWebディレクターは人材不足と言われているのか)で記載した通り、「Webディレクターに何をさせたいか明確にさせないと(汎用性やオールマイティを求めると)全員不幸になる確率が高い」ということなのです。
Webディレクターに何をさせたいか明確にしないと、現在の社員に対しても何をさせたいかがぼやけてしまう可能性が生じるからです。
もちろん、正解はありません
そう、正解はないのです。
例えば前述のクリエイティブ領域問題であっても、万能型人材にこれまでのクリエイティブ領域を任せる代わりに、デザイナーには最先端のデザインスキルを開拓することにリソースを注ぐことをミッションとして課すのなら、話は大きく変わってきますし。
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