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Webディレクター人材問題④ 考察・解釈の宝庫!? Webディレクターの“実績”を考える

転職に限らず、たとえば外部協力者探しやコンペの提案資料などにおいても、Webディレクター人材を見るときの印象に大きな影響を与えるのは“実績”だと思います。
 
特に制作会社のように業務委託を主とする場合は顕著で、例えばナショナルクライアント/スタートアップ/○○業界といったクライアント実績、Webサイトリニューアル/特設サイト新設/LP作成といった制作物、ブランディング/UI/UX/マーケティングといったソリューション領域、企画/ディレクション/取材・撮影といった業務範囲などを、採用側は読み解く/人材側は具体的に記載することで、広大かつ多様なWebディレクターという職業の中でどのあたりにポジション取りしているのか見極めるわけです。
 
しかし、この見極めがおそろしく難しい。なにしろ同じような言葉を並べても、人によってまったく違う中身をやっている、というのがWebディレクターのリアルなのだから。 


実績は、思っている以上にどうとでも解釈できる

例えば、職務経歴書に以下のような記載をしたディレクターがいたとします。

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■中堅化学メーカーの採用サイト新規立ち上げ
https://www.◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯.co.jp/recruit/
制作期間:約5か月
主な業務担当:企画・進行管理・ディレクション
詳細:化学業界の中堅企業にあたるXX社の、研究職向けの採用サイトの新規立ち上げを担当。Webディレクターとして企画段階から参画し、サイトマップ設計やワイヤーフレーム、デザイン・コンテンツ制作におけるディレクション全般業務を行いました。
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この経歴を持つディレクターをポジティブに受け取った場合、どういった印象になるでしょうか。 

A社はこう考えるかもしれない

化学メーカーの研究職という専門性の高い企業の人材戦略を担えるということは、業界事情や専門知識、BtoB企業独自の採用戦略などの特化した知見・領域を持つ人材という印象。クライアント側の研究職ともコミュニケーションが取れて、広報やブランディングだけでなく、新規開発プロジェクトなどにも適性があるかもしれないな。 

B社はこう考えるかもしれない

ディレクション業務全般に従事ということで、案件化した業務を最初から最後まで着実にやり切れる進行管理能力に強みがある方という印象。現場でのコミュニケーションというよりは、ライターやカメラマンなど社内ディレクションやプロジェクトマネジメント領域で活躍できる方かもしれないな。 

C社はこう考えるかもしれない

採用サイトの新規立ち上げに企画段階から関わっているということは、クライアント課題の領域から参画しているということ。営業や代理店から下りてきた案件をこなすタイプではなく、クライアントの課題にアプローチができる方という印象。プロデューサーやプランナーに近い立ち位置で、プレゼンやヒアリングなどクライアントと積極的に関わることで活躍できるタイプかもしれないな。 

D社はこう考えるかもしれない

サイトマップやワイヤーフレーム作成など、実際に自身も積極的に手を動かしている印象。大規模案件をプロジェクトマネジメントしていくというよりは、中小規模のサイト制作・運用、ライターや編集などコンテンツ制作づくりにスキルが寄っているタイプかもしれないな。 

E社はこう考えるかもしれない

研究職向けの採用サイト制作ということは、クライアント側も採用活動のプロではないはず。クライアント側のリテラシーが高くなくても主体的にプロジェクトを推進していける、プッシュ型の人材という印象。先方の様々な部署の社員と話をする機会も多い案件だろうからコミュニケーション能力にも長けているだろうし、実は案件開発などの営業職に向いているのかもしれないな。

何が言いたいかというと、この経歴のどの言葉を重要と捉えるかで、この人材の印象がガラッと変わってしまうということです。B社とE社なんてほぼ真逆な人材になっちゃっていますね。 こわっ。

読み手の背景によって能力値は大きく変動する

もう少し補足すると。

例えば、大規模案件をこなすWebディレクターを多く抱える企業にとっては、この方の進行管理スキルはそれほど特別なものだとは思わないでしょう。代わりに、コンテンツをつくる力や企画段階から参画していることに魅力を感じるかもしれません。
 
一方で、グラフィックデザインに強みのある会社や編集プロダクションなどにとっては、企画力やコンテンツをつくる力は及第点と捉える一方で、Webサイトの新規構築を一通りこなせる進行管理能力への期待感を、この実績から抱くかもしれません。
 
また代理店からの発注を中心としている制作会社にとっては、現場のディレクション能力よりも、クライアントと直接コミュニケーションを取っている点を期待して、フロント業務や直クラ案件の開拓を任せたいと思うかもしれません。
 
これまでの記事で再三記載している通り、Webディレクターという職種は特定の資格がなく参入があまりにオープンすぎて、個々の人材によって定義がバラバラ。職種としての共通の判断基準が少ないから、評価する側のスキル・知見や抱えている課題といった背景によって、その人材の持つスキル・知見の優劣が大きく変動するのだと思います。

それゆえにマッチングが難しいのでは。評価者も応募者もエージェントも、再現性をもった判断をすることがしにくく、誰も状況のコントロールをすることができないから。

Webディレクターの能力に絶対的な優劣はない(と肝に銘じたい)

だからこそ、特に転職活動においては、自分が評価されているかどうかだけでなく、どのような評価をされているのかについても、意識しておいた方がいいかなと思います。
 
コミュニケーション能力に自信がないと思っている方が、E社みたいな評価をされて採用されたら、入社早々から地獄を見ることになるかもしれませんね。
 
しかし一方で、E社にとっては本当にその方がコミュニケーション能力に長けた人材で、E社のクライアントにとっても、頼りになる営業マンに見えるかもしれません。そして、そんな環境に自信を得たこの方は、プロデューサーやプランナーへ転身していくことになるかもしれません。
 
が、ディレクションもプロデュースもプランニングもこなした結果、便利屋人材的な扱いを受けるようになり、例えば専門部署化を促進していく組織改革が行われた際に居場所を失ってしまうかもしれません。しかし、この自虐的な能力が、マルチな能力が求められる新規事業部門で重宝されたり、他の会社・クライアントにとってはオールマイティな人材と重宝されたりするかもしれません。

「自分はこういう人材」という絶対的な定義なんかできやしない。

だからこそ、どのような評価をされているのかを意識した上で、どんな評価をされていたとしても「なるほどそういう見方もあるのね」ぐらいに捉え、最後は“自分がどうしたいか”で判断する、といった感じがいいのかな、と個人的には思っています。

それぐらいの気持ちでいた方が、転職活動がうまくいっていないときには「運が悪いだけ」とポジティブに解釈できるし、仕事が順調なときには「自分の仕事ができているのは、評価してくれる人が周りにいる幸運に恵まれているだけ」と自戒することができるので(実際にそうだと思いますし)。

もちろん、答えはありませんけどね。

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