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工藤吉生の短歌まとめ・第二十四期【2017年4-6月】20首

「マストドン」で短歌の発表を開始。「山形歌会」参加。「現代短歌」への投稿をやめた。小説雑誌「野性時代」で始まった「野性歌壇」第1回で特選。



〈1〉
ここからは学習塾が覗けるぞ時計が見えるエアコンが見える


〈2〉
出勤に「スナック愛」を通過するつらく別れた人の名前だ


〈3〉
人生の喜怒哀楽は見下ろした交差点にはたちあらわれず

〈4〉
交差点を見下ろす位置の昼食にケンタッキーを一口こぼす

〈5〉
女の子の見てる漫画をうしろからのぞいたオレを襲うキラキラ

〈6〉
逃げろーと叫んで駆けるランドセルふりむきながらなお駆けてゆく

〈7〉
ワー・キャーと青信号の点滅を走って消えた声のかたまり



〈8〉
非常時に壊せる壁を壊すのはオレには無理だオレにはわかる


〈9〉
ひときれのリンゴに楊枝を刺すときに手応えはあり持ち上げて食う



〈10〉
雪かきにも草むしりにもあらわれる中途半端なオレの性格



〈11〉
才能と努力みたいなことかなあエスカレーターを走る革靴

〈12〉
父親は子を抱き上げて地下鉄のレール二本をよくよく見せる

〈13〉
駆け込みで乗ろうとしたが間に合わぬ人の顔見る加速しながら



〈14〉
Yシャツにとってのオレは第一に首のうしろの汚れたところ


〈15〉
吐く息の白は消え去りこんなのは誰でもできるあなたにもできる


〈16〉
気をつけて急な階段を降りているオレのつまらぬボロ靴見つつ


〈17〉
動物に生まれ変われるまぶしさに月の光のきわまる野原


〈18〉
固そうにキャットフードを食う猫だテトラポッドをかじるみたいだ


〈19〉
「深い」とだけ褒めてくださる人がいる落葉みたいな表情をして


〈20〉
体重が身長を超えない限り大丈夫だよと君を励ます

 
 
 
〈1〉〈8〉日本経済新聞「歌壇」
〈2〉〈11-13〉結社誌『未来』
〈3-7〉短歌研究「短歌研究詠草」
〈9〉〈14〉読売新聞「読売歌壇」
〈10〉現代短歌「読者歌壇」
〈15〉野性時代「野性歌壇」
〈16-17〉〈19〉NHK短歌テキスト
〈18〉ツイッター
〈20〉角川短歌「角川歌壇」

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