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ナッジ・デザインについて少し考えてみた①

サンフランシスコ、ロサンゼルスとアメリカ西海岸に1週間、その後東京に2泊してロンドンに5日間、東へ西へと連続で出張してきました。間に東京に戻らず繋げちゃえばよかったんじゃないか?という話は置いておいて、たくさんの美味しいクラフトビールを飲んできました。が、その話もいったん置いておいて、出張先で出会った「ナッジ・デザイン」に関して、2回に分けて書いてみたいと思います。

もともとのきっかけは、出発前の羽田空港でたまたまタイムラインに流れてきた、このtweet。

実は自分はけっこう前からエスカレーター「歩くか・立つか」議論に関心がありました。例えば、東京と大阪で立つ位置が左右逆のようなローカル・ルールがあるように、エスカレーターの使い方には明確なルールがないのです。明確なルールがないせいで嫌な思いをしたりさせたりしている人がいるように思うのです。

ちなみに大勢は「エスカレーターでは歩かない」なのです。一般社団法人日本エレベーター協会のホームページには

エスカレーターの安全基準は、ステップ上に立ち止まって利用することを前提にしています。

と記載されています。自分は、この「曖昧さ」こそが問題の本質だと思うのです。「前提」ってなんだ?と。OKならOK、ダメならダメとルールを決めないから問題がややこしくなっていると思うんです。

この写真は銀座のデパートで見つけて「おっ!」と思って撮影したものです。明確に「ご利用ください」とデパート側から利用者に使用方法を促しています。ちなみに撮影したのは2015年なのですが、それなりに目立つ位置にありながら、残念ながら未だにあまり効果は出せていないように感じます。

自分の場合も立ち場は「2列で利用」派です。なぜかと言うと、子どもと出かけるようになって安全上も横に並んで乗り降りしてあげたいし、それよりエスカレーターに乗っている間も子どもと手をつないで会話を続けていたいからです。一時的に、どうにかしたいと思って、1人でいる時にも見知らぬ人の横に立ってみるレジスタンス行動をしてみたこともあります。しかし、完全に1人流れを止める空気の読めないやつで多くの人から迷惑そうな顔で見られ、いたたまれなくなってすぐにやめました。そして、今でも片側がずらーっと空いていれば急いでいる時にはそこを登っていきます。確かに矛盾していますが「曖昧でルールがない」ことが原因だと思うのです。

話は飛躍しすぎかも知れませんが、働き方改革などが叫ばれる中で「猛烈に働く」ことより「自分のペースで働く」ことが世の中的に見直されているようにも思います。エスカレーターくらいゆっくり乗れば良いのではと思うのです。健康のためと言う人は階段を利用すればと。さらに別の視点から考えると、常に片方にはずっと人が立って乗っていて、片方はタッタッタと歩き去っていくという使用方法ではかかる荷重は均等ではなく、事故や修理の必要性も増えるんじゃないでしょうか?実際に、現状の片側に立つやり方と2列立つやり方の時で比べると2列立った方が30%多くの人を運ぶことができるという実験結果も出ているようです。エスカレーターの長さや、そこに集まっている人の数によって一概には言えない結果だとは思いますが、要するに「2列ともあるかない」べき根拠は揃っているのです。

でも、なぜ変わらないかのか?それは、なかば常識と思い込んで慣れてしまったことを覆すことは簡単ではないということです。どうすれば良いのか?1つは強制的に法制度を整えルール化することが解決策になるでしょう。タバコの例のように。もう1つ自分が注目したいのが「ナッジ・デザイン」です。

ナッジ(nudge)とは肘でちょんちょんと突っつくことを意味します。MBAの行動経済学の授業で習ったのですが、ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授によると、経済学は「人間は常に合理的な判断をくだす」をベースにした学問です。しかし、世界の経済を見ても分かる通り経済学ではベストな答えを提示できていません。それは、人間が往々にして経済的合理性に反した行動や判断をするからです。そんな人間を、ちょんちょんと肘で突っついて正しい行動に導いていこうと言うのが「ナッジ」であり、それをデザインで行うのが「ナッジ・デザイン」です。

代表的な例がこれですね。トイレの清掃費用高騰に悩むオランダのスキポール空港が男性用の便器に小さいハエの絵をつけたところ、みんなそこをめがけておしっこするので、結果、跳ね返りが減り清掃費用が削減できたという話です。詳しくはこちら

冒頭の牧野さんのtweetにハッとさせられました。そうか、半ば自分の中で諦めていたエスカレーター問題も、ナッジ・デザインを使うことで解決できるのではないか?と。牧野さんのご提案のエスカレーターを少し高く設計することで歩きにくくさせるは、人の無意識に訴えていてすごく良いアイディアに思いました。しかし、例えば災害時などにエスカレーターを階段として利用しなくてはならないシチュエーションで、混乱を大きくしてしまうかも知れない?とも思いました。

例えば、もっと現実的な案でエスカレーターの各ステップに左右2カ所足跡マークをペイントすると、どうでしょうか?上に紹介したデパートの看板とセットでやれば効果があるような気がします。もうちょっとスマートにやるには、エスカレーターで2人で手をつないで並んでいるカップルや親子の後ろ姿の写真のポスターを駅に掲載するとか、どうでしょうか?もっとアイディアを考えてみたいと思います。

②ではアメリカとイギリスで出会った面白いと思った「ナッジ」をご紹介します。こちらから。

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