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ママちゃんと俺の5年愛戦争(仮) 4

デイケア探し

ベテランケアマネージャーSさんが、紹介してくれたのは最初2つ。
自分の所属している事業所が営業している一つの所。
そして家の近所に数件デイケアを営業している不動産会社がやっている所。
とりあえず全て見学出来て納得出来る所を選んでほしいという事で、母親と一緒に見て決めようという事になった。
しかし昨日まで行く事を了承していた母親が今日はグズリ出した。
「なんで私がそんな所に行かなきゃならないの?嫌だよ!行かないよ!」
はい!始まった。
最近は病気の影響なのか?山の天気か!と突っ込み入れてしまうくらい気まぐれでこんな事は日常茶飯事ちゃめしごと!である。
一から説明をする。
そして条件をつける。
例えば「行ったら帰り大好きなお寿司を食べさせてあげる」だとか「好きな洋服と帽子買ってあげる」とかモノで釣る。
それがダメなヤツ「嫌いな何々はしなくていいから」とか嘘も方便方式を採用する。
要はお子ちゃまシフトで対応するのであーる!
まぁ長い何度もの説得大作戦を繰り広げる事3日遂にホシは落ちた。
一度行く日にごねてごねて、ケアマネにキャンセルしてもらってたから、気分の変わらない内にすぐ電話して「なるべくすぐ出来れば今日明日中になんとかなりませんかね?すいません、お手数かけて」とアポ取りし、なんとかその日の午後に見学がOKになったのですぐ用意した。
母親は、洋服が好きだからまぁ凄い数の服があったのだが飽きやすい性格故にすぐ新しいモノ新しいモノを買い着たがった。
しかし自分で選んで自分で着るという行為を面倒くさがっていつからかしなくなっていたので、洋服チョイスは俺になっていた。所謂専属モデルのコーディネーターの如しである。
「これは良いけどこれは嫌、別のないの?」
ワガママお嬢様のご機嫌を伺いながら召使いはいそいそと選び続ける。
数時間格闘しながらやっと決まった頃には出発時間は迫っていた。

デイケアの職員の方が車でお迎えしてくれる。
益々スター気分満載になる。
一つ目は、ケアマネが所属している事業所が経営している所で雰囲気システム共に「幼稚園」的所で色々制約もありきっちりしている。
職員の方の対応も幼稚園の先生と言った感じ。
緊張した面持ちでずっとニコニコしながら口数少なくジッと説明から様子まで見ていた母親に「さあ、ヒロミさんも一緒にやってみましょうか?」
急に言われ戸惑う母親。不安そうに嫌だ表示を目線で俺に送ってくる。
「俺ここで見てるから行ってやってごらん?」
絶望の色をその目に浮かべながら母は連れていかれ参加する事になった。
「見学でお越し頂いた小林さんです。皆さんよろしくね!」
母親は頭を下げる。皆はパチパチと手を叩く人やら無関心な人やら様々。
クイズを解決しながら手足を動かす体操から参加した。
ぎこちなくも恥ずかしそうに合わせる母。
それでも段々と笑顔を見せ始める。
久しぶりに見る母親の笑顔。正直うれしかった。
その内歌を歌うコーナー的イベントが始まりいつのまにか隣の人とも仲良くお話ししながら楽しそうに笑ってる。声もよく出てる。
本来の母親は、保険の営業レディをしていたので、とても社交的で活発でおしゃべりで皆を引っ張っていき笑顔にするそんな女性なんである。
そんな昔の母親が戻ってきた気がした。

「どうだった?」
「凄く楽しかった!」
「通えそう?」
「んーそれはわかんない」
「でも大丈夫でしょ?嫌な事なかったでしょ?」
「そうね」
出発前の母親が嘘の様に生き生きとしていた。
俺は本当にデイケアを舐めていた。
家でどんなにこの笑顔を引き出そうとあらゆる努力をしていたのに、一回で最も簡単に笑顔を引きだした。
プロは違うな。改めて痛感した。
送ってもらい家に着いて、反省会というかどうだったか改めて聞いた。
「今の所で決める?別のとこも見られるしゆっくりで良いんだよ決めるのは」
「さっきのとこも良かったけど別のとこも見てみたい」
あんなに嫌がってた母親がすこぶる前向きにデイケア選びに積極的だ。
よし!この勢いで行こう!
しかしこの病気は山の天気の様に気まぐれなんである。

続く。

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