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スイーパー重視のツインズvsスイーパーの弱点を突くカッター重視のガーディアンズ-両者の投手戦略の違いが生み出す球界最高のライバル関係が熱い

初めに


ガーディアンズとツインズ。アメリカンリーグ中地区の優勝を争う両チームだが、両者のライバル関係にヤンキース対レッドソックスやドジャース対ジャイアンツのような歴史はない。だが今季に限れば両チームは上記のライバル関係より注目に値する。そしてその注目は精神的なものではなく、両チームの投手と守備に対する戦略の違いに起因する。
 
ガーディアンズとツインズは投手編成において現在全く異なるアプローチをしている。今回は両者のチーム編成のアプローチとそのアプローチを採用した背景について考察を行い、最後に今季の中地区を制覇するチームを予想したい。
 
まず初めに両者の投手編成のアプローチの最大の違いを説明する。ガーディアンズはMLBで今季カッターを最も多く投げてストライクゾーンの中で勝負するチームである一方、ツインズはスイーパーを最も多く投げてストライクゾーンの外で勝負しているチームである。
 
 4月18日時点でツインズはチーム全体でスイーパーを198球投げている。これはMLB3位で投球比率9.4%は1位だ。一方でガーディアンズはチーム全体でスイーパーを今季1球たりとも投げていない。
 
ガーディアンズはチーム全体でカッターを468球投げている。これはダントツでMLBトップの数字(2位はレッドソックスの406球)で、投球比率19.5%もMLB1位である。一方でツインズは115球カッターを投げているが、これはMLBで22位に相当する。
 
なぜこの2チームはこれほどまでに対照的な投手戦略を採用しているのだろうか。まずはツインズのチーム事情について考察してみたい。
 

 ツインズの投手がスイーパーを多投する背景

ツインズの投手がスイーパーや横変化量の大きいスライダーを多投している背景には、チームの苦い伝統が関係してくる。彼らは2003年以降に8回プレーオフに進んだが、1回もシリーズを勝ち上がっていない。特に2009年から4回対戦したヤンキースには10試合で1試合も勝っていない。
 
 この屈辱的な戦績が続いた理由の1つが、チームの投手でプレーオフで相手を圧倒できるいわゆるエース級の投手がいなかった事にある。そんな悪しき伝統を終わらせる為にチームに必要な存在は、三振を奪い相手打線を圧倒する支配力の高い投手だ。その為にチームは打者がコンタクト出来ないスイーパーを活用している。
 
昨シーズンのオフにはJ・ライアン、T・マーリ、G・ジャックス、C・ティルバーの4人が少なくともドライブラインに通い、新加入のP・ロペスもドライブラインでトレーニングをしていたようだ。彼らのオフのトレーニングの効果は絶大で、チームは現時点で三振数がMLB全体で2位と好成績を残している。
 
ロペス、ライアン、ジャックスがスイーパーを増やしている。また彼ら以外にもS・グレイがスライダーをストライクゾーンに投げなくなった(!)し、T・マーリはスライダーの横変化を増やしている。

確かに彼らは今季球速を伸ばしたロペスを除けば速球の球速は遅い。一見支配力が高い投手に見えないが、投球内容は見違えるように良くなっている。これが今季のツインズの投手戦略だ。
 
さらに興味深いのはツインズがスイーパー多用に合わせた外野陣を作っている事だ。下記はスイーパー/スライダー/カッターの打球の内訳を昨年のデータで分析したものだ。

スイーパーはスライダー/カッターよりフライボール比率が高い。これを意識しているのかツインズは今季マイケル・A・テイラーをロイヤルズから獲得した。チームには既にB・バクストンとM・ケプラーの外野守備の名手がいて昨年の外野手のチームOAAはMLB4位の+18だった事を考えると、どれだけツインズが外野守備にこだわっているかが分かる。

ガーディアンズの効率性重視の投手戦略

ガーディアンズは数年前までMLBでも屈指の三振が多いチームだった。特にドライブラインの最も有名な利用者であるT・バウアーが在籍していた頃は、彼に牽引されて多くの投手が三振を奪っていた。2020年までは毎年K%が25%を超えていた。
 
しかし現在の彼らはその頃と異なるチームになった。現在はカッター(スライダー)を軸にしたゴロアウト+三振のハイブリッド型の投手が多い。その1番の成功例はS・ビーバーだ。元々コマンド能力に定評のある彼はストライクゾーンのHeartと呼ばれる最もストライクゾーンの内側の部分にカッターを投げ込む。
 
ビーバー同様にガーディアンズはこのHeartゾーンにダントツでカッターを多く投げていて、しかも打球のゴロ比率が30球団1位である。このスタイルは先発投手が長いイニングを投げる効率の良さはあるが、支配力で物足りなさがある。その結果ガーディアンズ投手陣の成績はリーグトップレベルでは無くなりつつある。例えば彼らは2017年から20年までの4年間で三振数がMLBで3位だった。一方で21年から22年の2年間は17位にまで落ち込んでいる。
 
ここまで見てきたようにツインズはスイーパーの積極的な活用で投手陣の奪三振能力を高めている。一方でガーディアンズは投手陣の奪三振能力が落ちている。
 
これだけ見るとツインズvsガーディアンズの勝者は間違いなくツインズだろう。しかしそうとも言い切れない。その理由はスイーパーとツインズがそれぞれ大きな弱点があるからだ。

スイーパーとツインズの投手戦略のネガティブな一面

 その弱点は2点ある。1点目はスイーパーは打者の左右で成績が異なる事からチェンジアップのような他の球種を学ぶ必要がある。2点目はツインズの投手がスイーパー習得の為に通ったドライブラインのようなトレーニング施設に、シーズン中に長期間通う事は難しい点である。
 
1点目に関してはスイーパーの弱点である。スイーパーは対右打者にはとても有効だが、左打者には右打者ほどの効果はない。こちらは昨年の球種と打者の左右別のRun Valueだ。例えば昨年のFangraphsの記事によると、スイーパーのRun Value/100は対右打者で-0.94なのに対左打者では-0.05に過ぎない。
 
だからリーグ全体でスイーパーの投球比率は打者の左右で明確に異なる(左打者への投球比率の方が低い)。今季右打者には2206球スイーパーが投げられているのに対し、左打者には1024球と半分以下しか投じられていない。つまり左打者を抑える為には、スイーパーの代わりの球種が不可欠である。
 
ツインズの投手の場合それはチェンジアップが該当する。P・ロペスは若手時代からチェンジアップに定評があり、グレイや前田健太、マーリもルーキー時代からチェンジアップを投げている。
 
だから彼らにとって左打者にチェンジアップを投げる事は難しくない。しかし元々チェンジアップを投げない投手はスイーパーを習得する為にチェンジアップも学ぶ必要がある。新球種を学ぶ負担が2倍になるのだ。
 
 一方でガーディアンズの投手も多投するカッターは変化量が小さい事もあり、打者の左右で使用比率がそれほど変わらない。だからカッター1球種を習得すると、右打者も左打者も抑える事が出来る。習得に必要な負担がスイーパーの半分で済むのだ。
 
2点目に関してはツインズの弱点である。ツインズは前述のように投手育成が得意ではない。そのためドライブライン等の外部施設は彼らにとって大きな存在だ。しかし選手を派遣して新たな球種を習得させる事には時間がかかる。特にシーズン中にチームから離脱して施設でトレーニングする事は不可能に近い。

だからツインズはスイーパーを軸にした投手陣を持っているが、仮に故障者が出た場合その穴埋めの難易度は相当高い。なぜならスイーパーは弱点としてあげたように左打者には強くないので、チェンジアップ等の補完が不可欠だ。しかしチェンジアップとスイーパーを操れる投手をシーズン中にトレードで獲得するには大きな対価が必要だし、マイナーから昇格させるにしても育成のノウハウは外注だからローテに入るレベルの選手の育成は難しいだろう。

一方でガーディアンズはカッターを軸にしたゴロアウト+三振のハイブリッド型の投手が多い。おそらくだが、このタイプの投手の育成に関するノウハウもチーム内部で持っているのだろう。
 
実際最近MLBに昇格したP・バッテンフィールドはエースのS・ビーバーに非常に近い投球をしている。

このノウハウがあるからこそ、ガーディアンズはビーバーその他のローテの主力が離脱しても内部昇格で投手をやりくり出来る。この育成能力は間違いなくガーディアンズの大きな武器だ。

最後に 

つまりツインズはスイーパーを軸に空振りを奪える強力なローテを作っている。しかしこのローテはスイーパーの球質及びチームの育成能力に関する懸念から1年間レベルをキープ出来るか不安は残る。
 
一方のガーディアンズは支配力でツインズに劣る。しかしカッターを軸にした投球術で打者の左右で使い分けが発生しない。それゆえに選手育成に優れていて、ローテのレベルを1年間維持できる可能性が高い。
 
スイーパーは今、野球界で最もトレンドの球種である。しかしそれには負の側面もある。例えばスイーパーは左打者には効果が薄いし、スイーパーを使う投手の育成は簡単ではない。

だから、今回のツインズとガーディアンズのライバル対決の結果次第では投手のトレンドが大きく変わる可能性がある。もしガーディアンズがこの戦いに勝利すれば、多くの人がその投手層の厚さ、昔ながらの投球スタイルを賞賛するだろう。しかしもしツインズがAL中地区とプレーオフで勝ち進んだら、スイーパーの勢いがより加速するはずだ。

Photo BY Erik Drost






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