サバの文化干しや焼肉丼でお手軽に癒やされる自分はちょろいけど、食事も料理も決してちょろいもんじゃない

画像1 帰宅して手を洗うと、鏡の中に辰巳ヨシヒロ絵のうらぶれた初老の男がいる。やれやれとひとりごち、まず米を研ぐ。ただ、そこは木造アパートの共同炊事場じゃない。狭いが小綺麗なシステムキッチンだ。着替えて洗濯物を取り込み、炊飯器のスイッチを入れる。ころあいをみて、冷蔵庫からサバの文化干しを取り出す。セロハンに身を取られないよう、慎重にはがしてグリルへ乗せると、弱火でじわじわ焼く。炊きあがった飯にインスタントの味噌汁、そして焼き鯖が揃うと、急に小津安二郎の色彩を帯びる。鯖の旨味が浮世の憂さを押し流す。ちょろいもんだ。
画像2 閉店間際のスーパーで、味付け肉を買う。ピリ辛コチュジャンサムギョプサルなんてぎょうぎょうしいラベルを、いくつも重なった値引きシールが埋め尽くす。ただ、垣間見える唐辛子のイラストだけは、妙に可愛らしい。付け合せに野菜も買おうと思ったが、ピンとくるものはない。そもそも、仕事帰りは食材を選ぶ気力もない。誰もいない部屋の明かりをともし、ようやく視界が色彩を帯びる。味付け肉を焼きながら、やっぱシシトウでも買えばよかったか、なんて後悔がよぎった。とはいえ飯に肉を乗せ口いっぱい頬張ると、多幸感が溢れる。ちょろいもんだ。

¡Muchas gracias por todo! みんな! ほんとにありがとう!