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友情物語の続編  book review

『ルーム・ルーム』
コルビー・ロドースキー・作
金原瑞人・訳 長崎訓子・絵
金の星社

 失ったモノが大きくて、閉じてしまった心が、ゆっくりと開いてゆく。そんな物語だった。

 たった一人の家族、母のアルシーアを病気で亡くしたリビィ(小学校の五年生)は、母の学生時代の友人、ジェシー・バーンズと暮らすことになった。

 弁護士のフレッドさんに連れられ、ニューヨークからメリーランド州、ボルチモアにやってくる。面識もなく、生前の母の口から名前も聞いたことのない人と、これから一緒に暮らすために。まったく知らない者同士。そんな二人の新しい生活が、リビィの視点で語られる。

 この物語は登場人物が多い。それは、ジェシーの両親だったり兄姉だったり、その配偶者に子ども達、身内だけでもすごい数。さらには、二人の暮らすアパートの住民、NYでの友人たち、新しい友達、動物、etc...
とにかくいっぱい出てくる。そしてその誰もが、リビィの心にそっと触れてくる。

 登場人物たちは、私が注目した箇所のひとつで、とりわけ大人の存在は魅力的だった。そして、もうひとつ注目したのは、アルシーアの存在だった。作中、彼女は登場しない。物語は彼女の死後始まるからだ。だけど、彼女は確かに存在している。それはリビィが彼女に語りかけるから、でもある。
「ねえ、アルシーアどう思う?」
「ねえ、アルシーア、聞いてるの?」と、こんな風に。だけど、それだけじゃない。

 アルシーアはリビィをジェシーに一方的に託した。二人の間に約束があった訳ではない。ジェシーはアルシーアの死後、弁護士から彼女の意志を聞き、リビィを引き受ける。そこに不安がなかったわけでもない。だけど、ジェシーはアルシーアを知っている。そして、アルシーアもジェシーを知っている。

 わかる関係に約束はいらない。約束が必要なのは、わからないからだ。

 リビィは疑問を抱く。彼女は何も知らされてはいなかったからだ。話そうとしたけど言葉が見つからなかったと、弁護士のフレッドさんは言うけれど、彼女は納得できなかった。アルシーアは話す気などなかったと、私は思っている。必要がなかったのだ。彼女は母親で、リビィを知っている。彼女は生きていくのだ。

 アルシーアは素敵な人だと思う。そして、ジェシーも。

 リビィの疑問に、ジェシーはこんな風に応えている。
「・・・不意打ちが得意で、最高にすばらしい贈り物をするのが得意だった・・・」と。アルーシアのことだ。そして今回も彼女は、最高にすばらしい贈り物をくれた。

 物語の始めに、こんな台詞が出てくる。
「アルシーアの最高傑作はリビィだな」
最高傑作で、そしていちばん大切なもの。それをアルシーアはジェシーに託した。友達のジェシー・バーンズに。

 この物語は二重構造で、リビィの後ろに、もうひとつの物語がある。それはアルシーアとジェシーの友情物語で、その存在は大きい。そして、新しい友情物語も、もうはじまっている。

同人誌『季節風』掲載

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