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206:“unthought” indicates the terra incognita that beckons beyond our received notions of how consciousness operates.

“Unthought” may also be taken to refer to recent discoveries in neuroscience confirming the existence of nonconscious cognitive processes inaccessible to conscious introspection but nevertheless essential for consciousness to function. Understanding the full extent of their power requires a radical rethinking of cognition from the ground up. In addition, because the very existence of nonconscious cognitive processes is largely unknown in the humanities, “unthought” indicates the terra incognita that beckons beyond our received notions of how consciousness operates. Gesturing toward the rich possibilities that open when nonconscious cognition is taken into account, “unthought” also names the potent force of conceptualizing interactions between human and technical systems that enables us to understand more clearly the political, cultural, and ethical stakes of living in contemporary developed societies.  p. 1

「unthought」とは,意識的に内省することはできないが,意識が機能するために不可欠な非意識的な認知プロセスの存在を確認する,最近の神経科学の発見を指すとも考えられる.その力の大きさを理解するには,認知を根本から見直す必要がある.また,非意識的な認知プロセスの存在自体が人文科学の分野ではほとんど知られていないため,「unthought」とは,意識がどのように機能するかという概念の向こう側にあるまだ知られていない領域へと人を誘う.意識に現れない認知を考慮したときに広がる豊かな可能性を示唆する「unthought」は,人間と技術システムの間の相互作用を概念化する強力な力を意味しており,現代の先進社会に生きる私たちの政治的,文化的,倫理的な利害関係をより明確に理解することを可能にする.

N. Katherine Hayles, "Unthought: The Power of the Cognitive Nonconscious"からの引用.

キャサリン・ヘイズルは,ヒトの認識のほとんどが「非意識的な認知プロセス」で起きているとする.意識に現れない認知(nonconscious cognition)で,ヒトとテクノロジーは緊密に情報のやり取りをしていると考える.

予測符号化に基づく脳の働きもそのほどんどは意識に現れることはなく,最もうまく予測できた推論が意識を構成していく.この予測プロセスそのものにテクノロジーを介入させることができれば,ヒトとテクノロジーの認知能力はより豊かなものになっていくだろう.ヒトの「unthought」な領域と外界とを接続する方法を探究する必要がある.

インターフェイスデザインやメディアアートでは,インタラクションが重視されるため意識に現れる部分が重要視されてきたといえる.しかし,「unthought」な領域へのアクセスが必要とされてきているのかもしれない.ヒトとコンピュータとのあいだに一度確立したインタラクションを再考して,意識に現れる前の認知として,インターフェイスやメディアアートの物質性=マテリアルを強調してみてみるといいのだろう.

「物質性」と書いたけれど,その際の「物質」は情報やデータをいかに扱うかの部分も大きく絡んでくる.情報やデータもまた「マテリアル」であるということが,インターフェイスデザインやメディアアートが示してきたことだからである.情報・データと物質とを組み合わせて,ひとつのマテリアルとして扱いながら,ヒトとコンピュータとはより豊かな情報処理回路をつくりあげてきた.ソフトウェアとハードウェア,そして,ヒトという3つの存在の組み合わせで可能になった多様な情報状態を認めつつ,ここで一度,これまで意識に現れることがなかった部分を露わにしてみる.ヒトはテクノロジーとともに外界に対して,多様な選択肢を持つ情報源を持つことになり,ハイルズが書くように,ヒトは「unthought」な領域に招かれている.だからこそ,ヒトとテクノロジーとがつくる外界に対しての情報源から意識的な部分をあえてカットして,ヒトの「unthought」な領域を構成している情報を選択し,ヒトとテクノロジーとのリンクを拡張していき,外界の認識を変える試みが必要なのである.


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