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110:「水平−垂直|下-上」という二つの軸の交差

小鷹研理の《ボディジェクト指向 #1 》は水平に置かれたディスプレイに対して,垂直に鏡が置かれていることも,見る者の認識の混乱を与えている要因となっている感じがする.​​水平に置かれたディスプレイが表示する映像の光を垂直に置かれた鏡が反射して,水平方向に線対称で「向こう側」を付け足す.こちら側で水平に展開されている指の映像が垂直の鏡に反射して,垂直面に水平面の「向こう側」を付け足す.そのとき,水平に置かれたディスプレイが発する「下からの光」という通常の「上からの光」とは異なる状況が,水平−垂直のラインと交差していく.「水平−垂直|下-上」という二つの軸が交差しているから,《ボディジェクト指向 #1 》は見る者に奇妙な感覚を与えるのではないだろうか.

「下からの光」というのは,「101:本当に床に砂を撒いているのではないか?」で論じたことに関係している感じがしている.

しかし,ここで下に引かれているのは「写真」であって,ディスプレイではない.つまり,ここでは光は下からやってきていない.ただ,下に砂浜の写真があるだけである.だからこそ,上からの光を反射することによって,下に「砂浜」があると思ってしまう.

この動画はまたの機会に考察したいのだが,撮影背景にLEDパネルを使っている.役者を取り囲むようにLEDパネルが設置され,天井にもLEDパネルがあるのだが,床には実際の砂が敷き詰められている.

なぜ,床をLEDパネルにしなかったのか,それは役者の動きにリアルタイムで音がつき,砂が動くからであるが,LEDパネルの光が影を消してしまうということもあるだろう.床=下の面は光を反射するのであって,光を放ってはいけないのである.けれど,《ボディジェクト指向 #1 》では,下から光が放たれて,鏡に反射している.下からの光は映像になかに影を表示してはいるが,その光はモノの影を消去してしまう.そんな奇妙に光源の位置が反転した空間(=光源反転空間)で鏡によって身体が折り返されている.

また,「水平−垂直|下-上」という二つの軸が交差しているから,《ボディジェクト指向 #1 》には「正面性」がないように感じられる.どこから見るか,「視点」を決めることがこの作品を体験するときには重要になってくる.​​「視点」を移し続けて形成される「視点の履歴」によって,「向こう側」が意識されるのかもしれない.と書いたけれど,私にとってこの作品は「3本の指」が線対称で表示されて「モノ」のように動かされている様子を見たときに,視点は固定され,それ以外の視点の履歴が消去されてしまうのであった.この固定された視点から見る「モノ」のようになった「3本の指」の奇妙さは見ている「3本の指」に触れているわけではないが,その「3本の指」に触れているような感覚が奇妙に交差する感覚を,私に与えるものであった.​​

私は以前,「ゼロ・グラビティ」の撮影チームがLEDパネルを用いたライトボックスとロボットアームに取り付けたカメラで撮影を行い微小重力表象をつくりだしたことについて書いたが,小鷹の《ボディジェクト指向 #1 》も「下からの光」や「視点」から考えると,「微小重力表象」と関係するのではないだろうかと思い始めている.


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