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白河夜船

「明日は午後に仕事に出ればいいんだ」
これを言っちゃう罪な男を井浦新さんが演じていて、感無量というか、生きてて良かったと思った。

岩永は地に足ついた感じがしてて、寺子の方が酔ってる感じがする、と最初は思った。女性のほうは恋してて、男性の方は典型的に不倫のつもりでいると。
先方の、って言い方がもう、ほんとこの手のこういう種類の男性が言いそうなことだなぁと感じて気持ち悪い(とても好き)。どういう理由だって不倫は不倫だ、と、初っ端から心は割り切っていたので、こうやって男性側を批判的に見てしまうけれど、途中からはこの2人の説明のつかない関係を、自論を置いて目で追いたくなってしまっていた。

中華料理屋さんのワンカットの会話シーン、すごい高度な(不倫したこともなければ、結婚したこともない自分にとって、一言一言にどういう意味が込められているのかを考えるのに時間がかかってしまう)会話が繰り広げられていて、思わず数度見返した。

身の毛がよだちそうなほど、岩永が知り合いに似ていて、軸が定まっていなくて自分が一番かわいい男性の解像度高過ぎだろと思った。

寺子は全部わかってて、冷たい人だって知ってて恋をしている。岩永は彼女が全部わかっていることもわかっていて、でもその温もりが欲しいから見て見ぬふりをしている、と感じた。
寺子への愛情も全くないわけではない。岩永が、弱ってる時の寺子を優しく包んであげてるのを見て、ああ弱ってる姿を見て愛しさが芽生えるくらいの気持ちはあるんだなと感じた。

植物状態の妻を持つ岩永。友達を失い、よく寝てしまう寺子。
2人とも闇に引っ張られていて、同じように闇の方向に歩いている相手との関わりで心を慰さめられている。
どちらかが僅かでも変わってしまえば脆く崩れてしまいそうな関係。
一言一言が何かお互いのぎりぎりのところで響き合っている感じがして、会話に乗っている裏の思いがすごく多くて、何回も見返して理解したいと思った。

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