「月の初恋」

満月の夜。

女の子は、月がまぶしくてなかなか寝付けませんでした。
お母さんが聞きました。

「どうしたの?眠れないの?」

「うん。窓からお月様の光が入ってまぶしくて。」

お母さんは、月を見上げると女の子にこう質問しました。

「ねぇ、あのお月様は、どんなお顔してると思う?」

「お月様?うーんとね、あんなに綺麗だから、素敵な笑顔に決まってるわ。」

お母さんは、にっこり笑い、あるお話を女の子に始めました。

むかしむかし、まだ人間が電気を使う前。

地球の子供である月は、夜になるとこっそり地球の人々を覗くのが大好きでした。

しかし、地球も太陽も、月が地球を覗いてるのを見つけると「みてはいけない」と怒ってしまいます。

それでも、月は、地球の上を動き回り建物を作っていく人間をみることがますます好きになっていきました。


あるとき、月は、地上から自分を毎日みている女の子がいることに気づきました。
いつもいつも、同じ場所で自分をみています。
気になった月は、地球に聞いてみました。

「ねぇねぇ、あそこにいつも僕をみてる子がいるんだ。誰だか知ってる?」

「また覗いていたのかい?だめだよ。そんな子はいない。あんなに遠くから見えるはずないだろ?」


月は、それでも夜になると地球と太陽の目を盗んで地上を覗きました。

やはり、同じ岬から月を見上げる女の子がいます。

月は、ある晩決心して、そっと地球に近づき、そっと女の子に話しかけてみました。

「ねえねえ、君は僕をみていたの?」

女の子は、びっくりして目を丸くしましたが、すぐにキラキラした瞳の満面の笑みで頷きました。

「お月様、私、あなたが大好きで毎晩みていたのよ。」

月は、嬉しくなってにんまりすると、女の子に聞きました。

「僕のどんなところが好きなの?」

女の子は答えました。

「毎日違う形になるところ。」

月は、首を傾げました。

「あと、他のどんなお星様よりも明るいところ。」

月は、また首を傾げました。

「あとあと、ツルツルして輝いてるところ。」

月は、またまた首を傾げました。

そんな月の様子をみて、女の子も不思議に感じ始めました。


月は、聞いてみました。

「僕には、何のことを言っているのか、さっぱり分からないんだけど。」

二人は、顔を見合わせて首を傾げました。

女の子が聞きます。

「お月様、だよね?」

「うん」

「毎日形が変わるよね?」

「ううん。僕は、いつも同じ形だよ?」

「他のどんなお星様よりも明るいよね?」

「ううん。僕は、お星様たちよりずっとずっと明るくない。」

「ツルツルでピカピカだよね?」

「ううん。僕は、自分で光ってないし、それにほら、ツルツルじゃなくて、ボコボコしてるよ?」


女の子は、大きな大きな丸い影が周りに出来てることに気づきました。
月を見上げると、こんなに近くにきたのに、暗くなっています。

女の子は、よーく目を細めて月をみてみました。
表面は、穴だらけでボコボコしています。

女の子は、首を回して月の周りをぐるっと見回してみました。
月は、全部まん丸で、半分でも細くもなっていません。


その瞬間、女の子の顔が失望に変わりました。


「お月様じゃない。」


月は、驚きました。

ずっと自分を見てくれていて、大好きと言ってくれた女の子が、何を言っているのか分かりませんでした。

何がなんだか分からず、慌てて必死に自分が本当に月であることを説明しました。

でも、女の子は、信じてくれず、首を横に振りました。
女の子は、肩を落として、家に帰っていきました。


月は、涙がこぼれました。

なぜ、あんな顔をされないといけないのか、分かりませんでした。

ふと周りをみると、海は荒れ、雲は渦巻き、風が暴れています。
地球が異変に気づき、慌てて月に言いました。

「こら!だめじゃないか!おまえが近くに来ると、こうして地上が乱れてしまうんだ!だから、地上を覗くんじゃないと、あれほど言ったではないか。」

月は、悲しくなってしまいました。
自分が怒られるようなことをしたとは思えなかったからです。

月は、力いっぱい遠くに逃げました。
でも、すぐに見えない壁で進めなくなってしまいます。

月は、それ以来、地球に背を向けて、見えない壁に向かってずっと泣いているのです。


お母さんは、女の子の髪を撫でて、月を見上げています。

「さて、お月様は、どんな表情だと思う?」

最初に女の子にした質問を、もう一度たずねました。

女の子は、少し悩んで、それから、もう一度キッパリと答えました。

「やっぱり、素敵な笑顔だと思うわ。だって、お月様は綺麗だもの。泣く理由なんて無いわ。私が大人になったら、月の裏側にいって確かめてきてあげる。」

そういうと、女の子は、満足そうに眠りにつきました。

[終] (2013~2014)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?