michiakimitsutake

ココロノキオクを置いておきます。

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最近の記事

『項羽』1

暗闇に浮かぶ炎。炎の揺らめき。 視界を埋め尽くす闇。浮かび上がる灯火。 地上に広がる星空のように、広がる荒野に明かりが散らばる。 遠くから聞こえてくる、空を覆う歌声。 聞きなれた歌。体にしみこんだ拍子。心にしみる哀愁漂う情緒溢れる音色。 闇夜の城壁に一人立つ大男が、遠くで行われている大合唱にあわせて鼻歌を歌う。 「ああ、なんとも小賢しいことを思いつくものだ。」 身長は二メートル以上あろうか。 浅黒く、屈強な体躯は、ただでさえ大きい身長よりも更に大きな存在感を男に与える

    • 二十一世紀

      2000年1月1日 うす暗い街 オレンジ色の帯で分けられている 街と空 ああ、今この時がよると朝の中間点なのか より輝きを増す帯 それを受け輝き出す雲 そして― この一瞬で夜は消えた 光と共に押し迫ってくる朝の世界 一瞬感じる境界面 そう、夜と朝に中間点などないのだ 太陽は昇る 自分を見つめる人の目に紫を植え付けながら 太陽は昇る 自分の世界を広げるために 雲にぶつかり真紅に染まる 怒り、悲しみ、苦労をあらわにして しかしその時代を乗り切った太陽は 雲一つない青空へと昇

      • 探す男

        重たい靴に重たいジャケット。伸びない生地のタイトなパンツ。 男は、ずっと何かを探し続けている。 引きずるように足をひっぱりながら、ずっと何かを探している。 疲れ果て、体を動かすことが出来なくなっても、ずっと何かを探している。 そして、男は、その場で動けないまま、動かなくなった。 <終>(2012)

        • 鎧男とニットの少女

          夕暮れ時、灰色の雪山を、山頂のおばあちゃんの家を目指して歩いている女の子がいた。 チラチラと降る雪は冷たく、お母さんに作ってもらったニットの手袋と帽子をしっかりと被って、ひょいひょいっと楽しげに雪の積もった山道を歩いていた。 しゃりしゃり ずぼっ しゃりしゃり ずぼずぼ 雪は、真っ白のコートにも積もっている。 女の子は、これまたお母さんの手編みのマフラーを深々と首に巻きつけ、こぼれたほっぺを真っ赤にしながら、雪の上を軽快に歩いていた。 しばらくすると、山道の脇の方を動く

          蜘蛛の巣

          青葉を食べながら、もう気づいていた。ああ、蜘蛛の巣があるって。 だから、動かなくていいように食べる量を最小限にして、蜘蛛の巣に引っかからないようにさなぎになった。 繭から出てみると、まだ蜘蛛の巣があった。 繭から出るときに伸ばした羽に、蜘蛛の糸が少し引っかかったみたいだけれど、それくらいなら大丈夫。 周りは蜘蛛の巣だらけ。 わずかに蜘蛛の巣が薄いところから抜け出そう。 まだやわらかい羽を力いっぱい羽ばたかせて、蜘蛛の巣なんか突き破ってやろう。 羽が重い。 でも、ここでとま

          Precious Memoryについて

          『Precious Memory』と『Precious Memory -kokoro』は、本編と補助資料のような関係のものです。 昔、本編では分からない部分をドラマCDであったり、資料集の特典ページであったりで伝えられてたものがありますが、そんなイメージ。 2011年に書いた短編。 幼馴染の二人が、大切に想いあいながら、自分たちの運命が重ならないことを自覚している、切ないお話です。 この話は、大好きなglobeの「Precious Memories」を聴きながら、ふっと、「

          Precious Memoryについて

          Precious Memory -kokoro

          大学の時に付き合っていた俺たちは、突然の君の言葉で終わりになった。 「もう別れましょ」 食い下がったが、君の首は横にしか振られなかった。 「あなたは、いつも正しいことを言うわ。私が間違っていることがほとんど。 でも、私は間違っていても良いの。間違ったところから、進んでいけるのが人生だから。 あなたに歩幅を合わせてもらうのは、とても幸せだったけれど、正直辛くもあった。 私は、あなたが子供のころ、もがいてた時代を良く知っているよね。 それでも、結局あなたのことが好きになった

          Precious Memory -kokoro

          Precious Memory

          最後の仕事を終え、みんなから花束とねぎらいの言葉を受け取った。 「短い間でしたが、お世話になりました。」 頭を下げ、先輩たちに肩を叩かれ囲まれる。 「これからも頑張れよ」 「むこうに着いたら連絡してね」 さすがに泣いてくれはしないけれど、こんなに温かく送り出してくれるなんて思ってもみなかった。 俺は、良い職場で働けたな。 先輩たちの輪の隙間から、遠巻きにこちらに微笑んでいる彼女と目があった。 反射的に微笑み返す。 学校で、この職場で、何度も交わしてきた秘密の微笑み。 もみくち

          「月の初恋」

          満月の夜。 女の子は、月がまぶしくてなかなか寝付けませんでした。 お母さんが聞きました。 「どうしたの?眠れないの?」 「うん。窓からお月様の光が入ってまぶしくて。」 お母さんは、月を見上げると女の子にこう質問しました。 「ねぇ、あのお月様は、どんなお顔してると思う?」 「お月様?うーんとね、あんなに綺麗だから、素敵な笑顔に決まってるわ。」 お母さんは、にっこり笑い、あるお話を女の子に始めました。 むかしむかし、まだ人間が電気を使う前。 地球の子供である月は

          hajimeni

          noteはじめました。実は、noteにはあまり乗り気ではなかったのですが、初めてみることにしました。 後ろ向きであった理由は、他人のプラットフォームに自分の記録を残すことへの嫌悪感。そして、著名人やインフルエンサー、商材屋たちがやっている課金誘導がとても嫌いだから。 ここ一年、公私共に色々と重なり、自分の人生を深く考える日々が続きました。ぐるぐると思考の迷路を彷徨いながら、ふと気づくと毎回出会う看板には、「人間案外いつ死ぬかわからない、いつどうなるかわからない」と書かれてい