Precious Memory -kokoro

大学の時に付き合っていた俺たちは、突然の君の言葉で終わりになった。

「もう別れましょ」

食い下がったが、君の首は横にしか振られなかった。

「あなたは、いつも正しいことを言うわ。私が間違っていることがほとんど。
でも、私は間違っていても良いの。間違ったところから、進んでいけるのが人生だから。
あなたに歩幅を合わせてもらうのは、とても幸せだったけれど、正直辛くもあった。
私は、あなたが子供のころ、もがいてた時代を良く知っているよね。
それでも、結局あなたのことが好きになった。
ただ、あなたに正しさで言い負かされる度に、あの小さい頃のあなたの影を思い出して怖くなるの。
あなたは、変わったし、許してる。でも、私は、まだ変われていなかった。」

俺は、うなだれるしかなかった。
彼女を傷つけたのは事実だ。そして、それを取り返そうと努力してきた。
それが、きっと彼女をさらに苦しめていた。
一体、俺はどうするのが正しかったのだろうか。
何が君にとって正しかったのだろうか。
中学からずっと見続けてきて、俺は、そんなことすら分からなかった。

俺たちは、別れることにした。
それなのに、なんの因果か、同じ会社に就職した。

夢のために懸命に努力して、チャンスをつかんだけれど、今ならよく分かる。
こうして、君の隣をゆっくり歩く人生の方が、きっと幸せだっただろう。

もし、君が望んでくれたなら。


私は、ずっとあなたのことが大好きだった。

それでも、自分の中で消せない恐怖心があったのも事実。
その怖さに負けて、一回目のあなたの告白を私が断ったあの日から、あなたは猛烈な努力を重ねて、誰よりも優秀で誰も悪口を言う人がいない存在になったけれど、私はね、それを心配になりながら側で見ていたの。
放っておいても抱きしめても壊れそうなあなたに、どう接したらいいのか分からなかった。

あなたの才能なら、きっとどんなものでも掴めるでしょう。
でも、私は、そこには行けないの。
あなたは、私がいたら、きっと私を引き上げようとしてくれる。
でも、私は、私。
あなたのように早く歩けれないけれど、私は私の歩幅で、私の目で、私の心と頭で、一つ一つ選んでいきたいの。

放課後の教室で、何人もから貰っていたラブレターを1人寂しく見ていた目を知ってる。
あの空虚な目を今でもふとする時があるわ。
私では、きっと埋めてあげられない部分が、あなたには、ある。

あなたが正しさを説くとき、私はどうしようもなく怖くなるの。
勝ち目のない相手に力の差をわざわざ見せつけられているような気持ち。
あなたのように頭の回転が速い人には分からないでしょう。
あなたは、自分が正しいということを証明したいだけ。
私は、間違っている。
でも、私は、それでもいいの。
そんな私を、受け入れて抱きしめて欲しいだけ。
正しくありたいあなたを、独りで正しく在らねばならないあなたを、私は良く知っているわ。
だから、私は、あなたとは進めないの。
私の歩幅に合わせてもらってるうちは、私は私でいられないから。

<Precious Memory -kokoro 終>

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