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ニューオリンズ・ケイジャンシティービール


ニューオリンズという街

7年ぶりにニューオリンズに来た。大学生として交換留学でアメリカに滞在していた時に遊びに来て以来。
ニューオリンズを含むルイジアナには、ケイジャン料理という、スパイスをたくさん使う名物料理がある。ハンバーガー・ステーキ・ポテトが中心のアメリカ料理とは異なり、魚や米も使用することが多く、個人的には好きだが、同行していた日本人たちはあまり気に入っていなかった。
ニューオリンズ内の移動には自転車と路面電車が便利だった。自転車はいわゆるシェアサイクル。初乗り$1で、$2払えばステーション以外の場所に乗り捨てられる、というお手頃な価格設定だった。
アメリカとはいえ、南部はそれほど物価が高くないので生きやすい。

ニューオリンズといえばバーボンストリート。一応行った。

Urban South Brewery

日本では缶のスムージーがよく出回っている。国産スムージーも増えたし美味しいけど、アメリカのスムージーは味に遠慮が無いので好きだ。

右側にも同じくらい工場が続く

Urban Southのブルワリーは巨大だった。ちょっと常温で置いておいたら再発酵して破裂するようなスムージーたちが全てここで缶に収められ、冷蔵を保ったまま地球の裏まで送られると思うと感慨深い。

タップルームも広い

Holly Roller
CitraとMosaicという定番ホップのHazy IPA。店員さんはJuicyと言っていた。CitraとMosaicのビールはCitraをメインに感じることが多いけど、これはMosaicが主役だった。Mosaicが香りから後口まで一貫して強く主張するけど、Citraの柑橘が爽やかに残って飲みやすい。さすがUrban South。

左からHolly Roller, PB&J, LSU

PB&J Double Spilled
日本でUrban Southのスムージーをいっぱい飲んでるよ、って店員さんに伝えたら、嬉しそうに振舞ってくれた。PB&Jとは Peanut Butter & Jelly のこと。アメリカ人の子供はみんなPB&Jサンドイッチが大好き。イチゴ・ラズベリーのジャムとピーナッツバターを大量に放り込んだ、酸っぱくないサワー。本当にピーナッツバターの味がそのまま残っており、ピーナッツバターサンドを食べて育った幼少期を思い出して涙した(本当は米食べて育った)。

LSU Double Spilled
振舞い2杯目。ありがたい。ココナッツクリーム、バナナ、アーモンド、そして少しのブルーベリーのサワー。熟れたバナナの薄黒さがそのまま出ていて面白い。個人的にビールは味が全てで色や見た目はどうでもいいと思っているので、この色味は推せる。味も熟れたバナナにココナッツとブルーベリーという、クレープみたいな組み合わせがそのまま出ていた。


NOLA Brewing Company

Urban Southのすぐ近くにあった、ピザも食べられるタップルーム。Urban Southと違いこじんまりとしていて、ビールサーバーの兄ちゃんとピザ屋のおっさんの2人でまわしていた。
ピザを頼んだら、「遥々日本から来てピザを食べるのか?マズいぞ!」と言われて意味が分からなかった。閉店間際だから2枚くれた。

NOLA

トイレが極寒だったので理由を聞いたところ、ビールの冷蔵室から冷気が漏れているらしい。「ニューオリンズの真夏は熱いから気持ちいいぜ」と言っていたけど、トイレで涼まない方が良いと思う。気持ちよくはあった。

Hopitoulas
American IPA。しっかり松っぽくアメリカンな苦みだった。マズいマズいと言っているが、確かにピザが合う。肩肘張らない店に普通と言ってしまえば普通なアメリカンビールとピザ。単体では際立たないが、確実なものがある。こういう店が近くにあると嬉しい、そういうタップルーム・ピザ屋だった。

Miel Brewery

NOLAから徒歩圏内で3軒目。あまり覚えていない。

Courtyard Brewery

ホテルに一番近いブルワリーだったけど、最終日まで行かなかった。
店内は暗く、レコードで音楽がかかっている。暗いタップルームは良いタップルームだという偏見を持っている。LAのHomageがそうだった。

Sonic Youth in 1983
Simcoe, Mosaic, Colombus, Crystalのヘイジー。濁らせるのが上手いらしく、しっかり濁っていた。
香りを嗅いだ時点で突き抜けるマンゴー・パッションフルーツ。押し寄せる甘美に後ずさりしてしまうほど。一口飲むとスパンと鮮やかなフルーティー。でもそのまま終わらず、喉にかすかに残る青っぽさがトロピカルを際立たせる。
多幸感。飲み疲れなどと言っている場合ではない。これこそヘイジーのあるべき姿だ。

Sonic Youth in 1983

Diving Disorder
Nelson SauvinとMosaicのHazy IPA。これもしっかりと濁っている。
Mosaic由来のジューシーなフルーティーが薄くベースになっているが、Sonic Youthより軽やか。主役はNelsonで、スキっとした爽やかさがMosaicの上を軽やかに飛び回る。Nelsonの良さを引き出した、遊び心を感じるホップ使いだと思う。ヘイジー2作が全く違う方向を向きつつ、各々高い完成度で味体験を構築している。レベルが高い。

Diving Disorder

Old Sleepyhead 2023 with Coffee
私もコーヒービールを作ったことがある。コーヒーの苦み渋みよりフルーティーな香りを拾いたい、といういわゆるサードウェーブコーヒーの思想に共感し、蜃気楼珈琲というロースターと一緒に、1回目はパッションフルーツ香る雲南、2回目はライチに漬け込んだEl Paraisoを使用した。(思えば、「苦み渋みよりフルーティーな香りを拾いたい」というのはHazy IPAができた由来と全く同じだ。なるほど親和性がある。)
ここのコーヒービールはまさに同じ考えで、ゲイシャとピンクブルボンという2種類のスペシャルティコーヒーを使用している。Old Sleepyheadというビールがベース。Wheatwineなる珍しいスタイルで、小麦を使用して作ったビールを樽熟成させて作る。その樽にコーヒー豆を漬け込んだのがこのビール。Wheatwineはアルコール度数が高いことも特徴で、これも9%ある。
さて、このビール。一口飲んだ時点で情報量の多さに驚く。粘度が高く、”詰まった”液体という感じ。樽熟成で完成された液体に、さらにコーヒーを大量に漬け込んでいるのだから、それも当然だ。ハイアルコールの旨味の上にねっちりとしたコーヒーの花の蜜のような香りと小麦の甘さが乗り、力強く押し付けてくる。花とベリーが交互に官能を刺激してくる。エロい。
コーヒーだけでは成り立たず、バレルエイジの樽香、小麦、アルコールまで活かし、全てで官能的な魅惑を作り上げている、コーヒービールの極致であった。

Old Sleepyhead 2023 with Coffee. Half pour

Dessert Course
ここまで刺激的なビールを作るのだからスタウトもさぞ美味しかろう、と思い、一口味見させてもらった。ベルジャンシロップと黒砂糖を加えた、アルコール度数11%のペイストリースタウト。
期待を裏切らず、ねちっと濃厚な甘さが舌にまとわりつく。脂っこい食事を終えた後の良いデザートになる。これを1パイント飲んだら糖尿病でぶっ倒れると思う。それでも飲むのがアメリカ人なんだろうか。

ビールというか液、あるいは密

うまいうまいと騒いでいたら、醸造所を見せてくれた。

アメリカの醸造所はどこも巨大だけど、ここはものすごく小さかった。小さいスペースに収まった醸造設備は日本のマイクロブルワリーと似ている。2014年から操業しており、ニューオリンズ屈指の人気ブルワリーだが、国外はおろかニューオリンズ内でもどこにも外販をしておらず、自前のタップルームでしか作ったビールを販売しないらしい。缶やボトルも無く、タップのみ。そこで作ったものをそのまま隣のタップルームに繋いで、新鮮なまま消費される。一つの良い在り方だと思う。

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