ポリマーの粘弾性って

ポリマーの粘弾性はポリマーを使った開発の現場において非常に重要な要素になります。ポリマー製品は世の中に溢れているのでこれを知らなければならない人はたくさんいるのですが、そこそこ専門性が高い為か学生時代に突っ込んで勉強することが無いので、社会人になってから学ばなければならない人が多い感じがします。私もそうでした。
社会人になって学術的な内容を学ぶのは障壁があります。普段の仕事の忙しさや、誰に相談すれば良いのかわからなかったり、参考になる本がどれなのかわからなかったりして、ただ時間を浪費してしまうことになります。またそういう恐れから学ぶという行動に移せなかったりするわけです。
今回、そんな人に向けて理解のきっかけになればいいなと思い適当にかきます。正しくはありませんが、雰囲気を掴む程度にサラッと見てください。

よく見る粘弾性のグラフ

ポリマーの粘弾性の評価はよく弾性率の温度依存性を測定します。
具体的には以下のような図になります。

非晶性高分子の粘弾性-硬さの指標(例えば弾性率のような)と温度の関係について

用語は基礎高分子科学(高分子学会編)を参考しています。
図はポリスチレンのような非晶性のポリマーの場合になります。PETのような結晶性のポリマーではゴム状平坦領域での挙動がちょっと変わってきます。
縦軸は硬さのようなものを示す指標で、具体的には弾性率(E)とか剛性率(G)とかが入ります。弾性率と剛性率は測定の仕方の問題で簡単に言えばポリマーを引っ張る(もしくは圧縮する)か、ねじる方向に変形させたときの硬さを見ています。また、大抵の場合は貯蔵弾性率(E')、貯蔵剛性率(G')で議論することが多いです(分野によって変わるかと思いますのでご容赦ください)。
貯蔵・損失について、周波数分散(横軸が温度ではなく変形速度的な単位になる)は長くなるので今回触れません
図で示したガラス状領域以下の温度帯で微妙に硬さが変わったりするんですが、ポリマーの製品開発で出てくることはほとんどないので無視します。
ガラス状領域からゴム状平坦領域の間の硬さが大きく変わる領域のことを転移領域と言います。
ポリマーのなんとなくの硬さ・熱物性を示す指標としてよくガラス転移点を使いますがこの転移領域がどこにあるのかを意味しています。
例えば、より高いガラス転移点を持つポリマーであればより長い時間高温に晒されても大丈夫なんだなぁ、って思える感じです。
ガラス転移点の定義(転移領域のどこを指すのか)は各分野・各社によって違うので注意してください。

各領域の分子の状態について

ポリマーの状態を説明する前に水とか砂糖とか二酸化炭素とか分子量の小さな分子の”硬さ的なやつ-温度”の関係について説明します。

低分子の硬さ的なやつ-温度の関係

固体は分子が密集していて、分子1個1個が自由な方向に動けない状態です。
それに対して、流体は分子1個1個が自由な方向に動くことができる状態で、外力をかけると自由に変形することができます。流体は硬さ的な観点から言うと(定義にもよりますが)ゼロになります。
固体から液体に変化する温度を融点、固体から期待に変化する温度を昇華点と言います。一般的に単一成分であれば固体から液体・気体に変化する温度は一定なので、相転移の温度は高分子のように”領域”ではなく”点”になります。

次に高分子の硬さ的なやつ-温度の関係を示します。

高分子の硬さ的なやつ-温度の関係

ガラス状領域は低分子での固体の状態と同じで分子に運動性が無い為、変形し難く硬い状態になります。
ゴム状平坦領域では分子が運動しはじめますが、1本の高分子全体が動くのではなく部分鎖の運動(セグメント運動|図ではセグメントを〇で示しています)が起き、それは1本の高分子の鎖(軸)方向には運動できません。軸方向に動くには隣接する高分子鎖との相互作用の全てを上回る力が必要な他、1つずれた先でまた新たな相互作用が生じる為、簡単には大きな変形を指せることができません。ですから、ガラス状領域に比べてガチガチな状態ではないので柔らかい触感になるのですが、自由に動けるわけではないので固体っぽい性質を示します。
軸方向に分子が動くためにはもっと高い温度が必要で、十分な運動量が得られるとポリマーは流動するようになります。流動領域にあるポリマーの硬さ的な指標は温度が高くなるとゼロに近づきます。

最後に

決して正しい説明ではありませんし、いい加減な説明ではありますが、とっつきにくいポリマーの粘弾性について最初に思い浮かべるイメージとしては十分かなと思います。
正しい理解については参考文献を始めとした成書などを手に取っていただければと思います。

参考文献
・ 基礎高分子科学 高分子学会編 東京化学同人:私が持っているのは第1版ですが、2020年に第2版が出版されています。製品開発に携わる人にとって全ての内容を理解する必要はないと考えられますが、トピックを抑えておくぐらいはしておいて損はないと思います。本当に知りたいことは、より専門的な本や文献が必要になるかもしれませんが、それを理解する基礎的な知識としてチェックしておきたいです。

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